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幻葬鬼譚 ~神話ヲ殺ス少女タチ~  作者: K. Soma
第九話 幻想の花/背負った命

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15

〝絵を描いていた〟以外に言うことのない巫術学校時代。

 

 季節が(めぐ)り、また廻り、やがて三度目の春が訪れる。

 

 三度目の春。

 

 卒業の時だ。

 

 進路は既に決まっていた。

 

 この春より、高等巫術学校なるものが秘密裏に試験運用されるらしい。

 

 将来帝國の骨格となるべき最高水準ベスト・オヴ・ザ・ベストの巫女を養成する、という名目で。

 

 ユイナはその入学者の一人として選ばれたのである。

 

 だが。

 

 どうでもいい――それがユイナの正直な感想だった。

 

 自分には帰る家がない。向かうべき場所もない。

 

 なら、行けと言われた場所に行く。

 

 それだけだった。

 

 それだけだった………………はずなのに。

 

 ()()()()()()()()()()

 

 心の底から、狂おしいほどに、身悶(みもだ)えるほどに、叫ばずにはいられぬほどに、人を好きになった。

 

 好きで、好きで、好きで、好きで、好きで、好きでたまらなくなった。

 

 ルリカ。

 

 凛堂(リンドウ)ルリカ。

 

 その名を思うだけで胸が締めつけられるように痛かった。

 

 同じ女だと頭ではわかっていたが、心はそんなことを気にも()めていなかった。

 

 きっかけは些細(ささい)なことである。

 

 多分、ルリカはアレがそうだと今でも気づいていない。

 

 ――()()()()()()

 

 ()()()()()()()()()()()()

 

 入学間もない頃のことである。

 

 当時の高巫には第一期生しかいなかった。各地の巫術学校から〝優秀〟の(いん)を押され集められた少女たち。

 

 表向き上官の前ではいくらいい顔をしていようとも、裏では熾烈(しれつ)な権力争いが繰り広げられる。

 

 ケダモノと一緒だ――ユイナはそう思う――そして古今東西、権力を集めるにあたって最も効率よく、かつ効き目のある手段。

 

 それは〝敵〟をつくることだ。

 

 敵。目立てば目立つほどいい。多くの注目を集められるのだから。

 

 敵。弱ければ弱いほどいい。こちらの流す血が減るのだから。

 

 女の社会での強さと弱さは〝数〟である。

 

 数。つるむ人間の数。

 

 一目で異界の血を引くとわかる容姿でいて、かつ誰とも話さず孤立していたユイナは、まさに理想的な餌食(ターゲット)だった。

 

 ユイナも馬鹿ではない。

 

 巫術学校時代に同じ空気を味わっていたので、これから自分がどうなるかを察していた。

 

 そして再び訪れる結末――〝無関心〟も。

 

 だが。

 

 ある日を(さかい)に、状況が一変する。

 

『やあキミ、()ノ国から来たんだって? 一緒に飯にでも行かないか』

 

 ルリカが、そう話しかけてくれた。

 

 その瞬間から、ユイナはルリカの庇護下(ひごか)に組み込まれたのである。

 

 ルリカ。入学当初から疑いなく最高の一角として数えられていた彼女の庇護下に。

 

 ……今ならわかる。

 

 ルリカは確かに上を目指さずにはいられぬ性格だが――しかし、だからと言って手段を選ばぬ(タイプ)ではない。

 

 むしろ逆だ。

 

 自分が上に立った時、その足元が盤石(ばんじゃく)でなければ気がすまない。

 

 だから、集団に余計な不和を持ち込みたくなかったのだ。

 

 それが例え、ユイナ(自分)という小さな石一つでさえ。

 

 そんなことをせずとも、いずれは根回し含めたルリカ(彼女)自身の実力で必ずや上に立てる――そう信じていたのだろう。

 

 当時の自分でさえ、理性ではソレを理解していた。

 

 ルリカはこちらに別段何か思うところがあった訳ではないと。

 

 あくまでルリカにはルリカの事情と思惑があったのだろうと。

 

 でも。

 

 駄目だった。

 

 ()()()()()()

 

 ()()()()()()()()()()()()

 

 それが、うれしくて、うれしくて、うれしくて仕方がなかった。

 

 というより、それが〝うれしい〟という気持ちなのだと初めて知った。

 

 絵を描く時とはまた違う心の高揚(こうよう)

 

 自分の中にあるものを出すのではなく、自分の中に新しく〝何か〟を迎え入れる気持ち。

 

 実際、絵にもハッキリとその影響が現れ出ていた。

 

 それまで心の空白を描くことを目的としていた絵が、いつのまにか心の充足へと対象を変えている。

 

 硬い線は柔らかくしなり、冷たい色は(うらら)らかな陽気に染め上げられた。

 

 一日中、ルリカのことばかりを考えている自分に気づく。

 

 抑えようのないほど高鳴る胸のときめき。

 

 自分はルリカに恋をしたんだ――新しい春を迎える頃、初めてそう自覚して戸惑った。

 

 戸惑った、けれども……それよりもなお、うれしさが(まさ)った。

 

 生まれて初めて、生きててよかったと思えた。

 

 こわくて死ねなかっただけの人生が、(いと)おしく思えた。

 

 それ以上は、心の内に(とど)められない。

 

 これ以上に抑えつければ、きっと自分の心は壊れてしまう。

 

 だからユイナはその日の内にルリカに思いを()げた。

 

 心と身体を一つにして、自分のすべてをルリカにさらけ出したのである。

 

 けれども――――――()()()()

 

 それまで、いつだって自分の前では太陽のような笑みを浮かべていたルリカが――初めて、顔を曇らせた。

 

 そんな顔をしないで。

 

 そう言いたかった。

 

 けど言えなかった。

 

 自分のせいだから。

 

 自分の。

 

 自分の。自分の。自分の。自分の。自分の。自分のせいだから。

 

 ユイナの心は互いに女でもまるで気にしていなかったが――ルリカはちがった。

 

 自分が女じゃイヤなようだった。

 

 気持ち悪い、ようだった。

 

 でも。

 

 それでも。

 

 諦められなかった。

 

 諦めきれなかった。

 

 心がソレを許してくれない。

 

 今日はダメでも明日は何かが違うかも――そんな幻想に(すが)ってしまった。

 

 ルリカは優しい。

 

 本当に、優しい人間だ。

 

 春が終わり、夏が来て。

 

 夏が終わり、秋が来て。

 

 秋が終わり、冬が来ても。

 

 辛抱強く、言い聞かせてくれた。

 

 自分とルリカは、違うのだと。

 

 だからユイナは――冬が終わり、次の春が来た時。

 

 ()ノ国へと旅立った。

 

 自分が世界で一番イヤな場所に戻っていった。

 

 自分が世界で一番イヤだったから。

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