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愛情の反対は無関心だ、という言葉を聞いたことがある。
だがそれは間違いだ――ユイナはそう思う。
少なくとも自分には当て嵌まらない。
ユイナが物心ついた頃から繰り返し繰り返し家族から懇々と言い聞かされた言葉がある。
『お前は生まれてきてはいけない子どもだったんだ』
家族。
果たしてアレをそう言っていいものか。
書面上では父と、父方の祖父母だが――その実、誰一人として血の繋がりはない。
自分は不貞の子だと幼い頃から聞かされ続けた。
思うに。
多くの者はこの世に生を受けた際、両親から最初に受け取る贈り物が愛情なのだろう。
だが自分は違った。
生まれた時から、針の筵のような憎しみに包まれていた。
だから愛情の反対は無関心だ――とは言わない。言えない。
愛情の反対は、ごく当たり前に憎悪である。
そのような悪意の揺り籠で育てられたユイナは、必然、母に憎しみを募らせた。
それ以外に生きる糧がなかったとも言える。
母。
純粋な緋人にして、緋ノ巫女だった母。
緋ノ巫女は代々、母方の姓を継ぐ。
〝方波見〟も例外ではない。母の姓だ。
書面上の父とは、同化政策の一環――政略結婚で結ばれたらしい。
植民地の名家に宗主国の血を混ぜ、より盤石な支配体勢を根づかせる。昔からのよくある手だ。
おそらく、母にとっては不服の結婚だったのだろう。最初から愛情を育む余地など猫の額ほどにもなかったに違いない。
多分、母が両手で指折り数えても足りぬほど数多の男と寝ていたのは、自分の置かれた運命へのせめてもの抵抗か――はたまた〝真実の愛〟とやらを本気で探していたか。そんなとこだろう。
おそらく、とか。多分、とか。
そういう言葉を使わざるを得ないのには訳がある。
ユイナには母に会った記憶がない。
母はユイナが生まれて間もなく他界した――ことになっている。
証拠はないが、おそらく書面上の父が毒殺したのだろう。
緋ノ巫女は破瓜に加え、出産で大きく力を落とす。
あの男はきっと、一年に満たぬ結婚生活の中で、その瞬間だけを夢見て生きてきたのだろう。
だがそれでも、ユイナに手を掛けることはなかった。
生まれてきた子どもに罪はない、と情に絆された――はずがない。
あの男にとって自分は生まれながらの憎悪と侮辱の象徴だ。
単に、宗主国に睨まれるのが怖かっただけである。
緋ノ巫女の子は例外なく緋ノ巫女だ。
ましてや異海に生まれた混血児の場合、万に一つでも謀反を起こさせぬため、ほとんど危険物の取扱にも似た対策が取られている。
その中で事を起こせばどうなるかは自明のこと。
現地の司法など平気の平左で飛び越え大緋帝國から直々に調査団が派遣される。
何せ向こうは〝死体を偽装し混血児を人間兵器として秘密裏に育てられる〟等の可能性まで危惧して捜査を進める連中だ。
あの男の浅知恵で躱し切れるとは到底思えない。
だから仕方なしに自分をあの家に留めた。
そして毎日毎日、祖父母と――後年には継母と異母妹と一緒になって、自分を呪い蔑み続けた。
ユイナが初潮を迎え、緋ノ巫女の力に目覚めるまで。
その時になってやっと――無関心がやってきた。
混血児の巫女には大緋帝國本土で巫術学校ないしはそれに準ずる養成機関で就学の義務が生じる。
自分にとっても、あの男たちにとっても、待ちに待った旅立ちの時だった――。




