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幻葬鬼譚 ~神話ヲ殺ス少女タチ~  作者: K. Soma
第九話 幻想の花/背負った命

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 愛情の反対は無関心だ、という言葉を聞いたことがある。

 

 だがそれは間違いだ――ユイナはそう思う。

 

 少なくとも自分には当て()まらない。

 

 ユイナが物心ついた頃から繰り返し繰り返し()()から懇々(こんこん)と言い聞かされた言葉がある。

 

『お前は生まれてきてはいけない子どもだったんだ』

 

 家族。

 

 果たしてアレをそう言っていいものか。

 

 書面上では父と、父方の祖父母だが――その実、()()()()()()()()()()()()()()

 

 自分は不貞(ふてい)の子だと幼い頃から聞かされ続けた。

 

 思うに。

 

 多くの者はこの世に生を受けた際、両親から最初に受け取る贈り物(プレゼント)が愛情なのだろう。

 

 だが自分は違った。

 

 生まれた時から、針の(むしろ)のような憎しみに包まれていた。

 

 だから愛情の反対は無関心だ――とは言わない。言えない。

 

 愛情の反対は、ごく当たり前に憎悪である。

 

 そのような悪意の()(かご)で育てられたユイナは、必然、母に憎しみを(つの)らせた。

 

 それ以外に生きる(かて)がなかったとも言える。

 

 母。

 

 純粋な緋人(ヒジン)にして、緋ノ巫女だった母。

 

 緋ノ巫女は代々、母方の姓を()ぐ。

 

方波見(カタバミ)〟も例外ではない。母の姓だ。

 

 書面上の父とは、同化政策の一環――政略結婚で結ばれたらしい。

 

 植民地の名家に宗主国の血を混ぜ、より盤石(ばんじゃく)な支配体勢を根づかせる。昔からのよくある手だ。

 

 ()()()()、母にとっては不服の結婚だったのだろう。最初から愛情を(はぐく)む余地など猫の額ほどにもなかったに違いない。

 

 ()()、母が両手で指折り数えても足りぬほど数多(あまた)の男と寝ていたのは、自分の置かれた運命(状況)へのせめてもの抵抗か――はたまた〝真実の愛〟とやらを本気で探していたか。そんなとこだろう。

 

 ()()()()、とか。()()、とか。

 

 そういう言葉を使わざるを得ないのには訳がある。

 

 ユイナには母に会った記憶がない。

 

 母はユイナが生まれて間もなく他界した――()()()()()()()()

 

 証拠はないが、おそらく書面上の父が毒殺したのだろう。

 

 緋ノ巫女は破瓜(はか)に加え、出産で大きく力を落とす。

 

 あの男はきっと、一年に満たぬ結婚生活の中で、その瞬間だけを夢見て生きてきたのだろう。

 

 だがそれでも、ユイナに手を掛けることはなかった。

 

 生まれてきた子どもに罪はない、と情に(ほだ)された――()()()()()

 

 あの男にとって自分は生まれながらの憎悪と侮辱の象徴だ。

 

 単に、宗主国(ご主人様)(にら)まれるのが怖かっただけである。

 

 緋ノ巫女の子は例外なく緋ノ巫女だ。

 

 ましてや異海に生まれた混血児(ハーフ)の場合、万に一つでも謀反(むほん)を起こさせぬため、ほとんど危険物の取扱(とりあつかい)にも似た対策が取られている。

 

 その中で事を起こせばどうなるかは自明のこと。

 

 現地の司法など平気の平左で飛び越え大緋(ダイヒ)帝國から直々に調査団が派遣される。

 

 何せ向こうは〝死体を偽装し混血児(ハーフ)を人間兵器として秘密裏に育てられる〟等の可能性まで危惧(きぐ)して捜査を進める連中だ。

 

 あの男の浅知恵で(かわ)し切れるとは到底(とうてい)思えない。

 

 だから仕方なしに自分をあの家に(とど)めた。

 

 そして毎日毎日、祖父母と――後年には継母(ままはは)と異母妹と一緒になって、自分を呪い(さげす)み続けた。

 

 ユイナが初潮を迎え、緋ノ巫女の力に目覚めるまで。

 

 その時になってやっと――無関心がやってきた。

 

 混血児(ハーフ)の巫女には大緋帝國本土で巫術学校ないしはそれに準ずる養成機関で就学の義務が生じる。

 

 自分にとっても、あの男たちにとっても、待ちに待った旅立ちの時だった――。

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