09
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同日 同刻
/結界封印都市ヒモロギ
ツクヨミ 対鬼戦闘司令本部 休憩所
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浦島スズ。
ツクヨミでは本部付の通信官を務めている。
化粧をいくら乗せても隠し通せぬあどけない顔立ちで、今でも私服で街を歩くと女学生に間違えられることも多々あるが……こう見えて、今年で二五だ。
そりゃ、あせる。色々と、あせる。
あろうことかこの国での女の平均結婚年齢は二〇歳前後。地域によっては余裕で一〇代に食い込む早婚っぷりである。
――それでも、去年まではまだよかった。
何せ世間様には四捨五入という素晴らしい言葉がある。
『四までは捨ててヨシ! なら自分はまだ二〇歳だな! ガハハハ!』などと半ば本気で思っていた。
だが。
二五。
繰り返しになるが、今年で二五である。
――捨てられない。
流石の自分でも、五は捨てられない。
だから、入れざるを得ないのだ。
そしたら、どうなる?
二〇歳から一気に……三〇路への急転直下。
このことに気づいて以来、スズの中で素晴らしい言葉は忌まわしい言葉へと豹変した。
「はぁぁぁぁあ……」
思わず漏れる深ーい溜息。
まったく人間というのはよくできてる。
どうしてこう、身体が辛い時は心までそれに追従しようとするのだろう。
この三日間、スズは本部で缶詰め状態だった。
本来は同じ本部付の通信官が他にもいて上手いこと輪番しているのだが……彼女らの正式な所属は研究技術部門こと技術部。
そして今、その技術部ではやるべきことが人員を圧倒し、まったく人手が足りていない。
故にスズら通信官も駆り出され、平常時の業務の上から臨時の仕事が覆い被さる形となっていた。
無論、どれだけ忙しかろうが光速に近づかぬ限り時間が伸び縮みせぬのは自明のこと。
だからこうして宿舎にも戻れず、仮眠と言うには御粗末に過ぎる睡眠時間しか取れていない。
今は技術部の仕事から解放され、小休憩の後に通信業務へと戻るところだった。
「あ、カヤちゃん……」
「む。スズか」
と、そこで。ばったりと出くわす。
どちらかと言えば小柄な自分よりもさらに一回り小さい。なのに作業着姿が不思議と似合う。
技術部官長、根問カヤだ。
休憩所の長椅子にゴロンと横になりながら用箋挟と鉛筆を手に何やら細々と書き綴っている。
「カヤちゃんも休憩中?」
組織図上では上司にあたるカヤだが気軽に話しかけるスズ。
技術部はざっくばらんな雰囲気というのもあるが、二人の場合、そもそも巫術学校時代からの友人だ。
公の場でもない限りこうして砕けて接するのが常である。
「ん、まあな……」
鉛筆の手を止めぬまま素っ気なく返すカヤ。
別段、機嫌が悪い訳ではない。いつもこんな感じだ。
スズはそれをよく知っているので、寝そべるカヤの隣に腰掛け次の言葉を待つ。
「結局今日で三徹だ……」
「そ、そうだったんだ」
この三日間、スズも多忙の身ではあったがカヤの比ではない。
朝から晩まで〝局所封鎖結界〟に封じられた鬼の調査や、宙に浮かぶ〝石環〟の解析を指揮した上、作戦の立案に関する補佐とその他の準備にも携わっている。
「流石にそろそろ……眠くなってきた」
「そりゃそうでしょ……」
傍目にはごく平然としているよう映るが、こういう時のカヤは危うい。ふとした瞬間に一気に落ちる。
「最近、徹夜が辛い……アタシも年だな」
「その話題はダメ」
「は? なんで?」
「なんでもです」
「意味わからん……」
カヤとは同期だ。同い年である。
ついでに言えば独り身仲間だ。
だがうらやましい。昔からそうだがカヤは世間様の目もなんのその、常に〝らしく〟で自分を生きてる。
きっと今年から三〇路に片足を突っ込んだことなどまるで気に留めておらぬのだろう。
「はぁぁぁぁあ……」
またもや深ーい溜息。
だがそこへ、
「……気持ちはわかるさ」
思いもよらぬカヤからの共感。
「え?」
「この三日間、アタシらがしたことなんて……何も意味はなかった」
「あ――」
ようやくスズの理解が追いつく。
カヤが何を嘆いているかに。
「自分より一回り近く小さい子に〝死ね〟と告げるしかなかった」
「………。」
「それだけしか……できなかったんだ」
「………。………………。………………………。」
スズは敢えて何も言わない。
わかっている。
よく、わかっている。
カヤは滅多なことでは愚痴など漏らさない。
むしろ〝そんなことをしているヒマがあるなら手を動かせ〟と叱責してくる類だ。
でも。
それでも。
手を動かし尽くして、考えに考えを尽くしてしまったら――最後に嘆く。
こうして、気を許している人間の前だけで。
必要なのは同情ではない。慰めでもない。
彼女自身の気持ちの吐露だ。
スズはそれをよくわかっていた。
だから、
「雨……降ってきたね」
敢えて視線を逸らし見ぬようにする。
友の崩れた泣き顔を。




