08
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(現在)
同日 夕方
/結界封印都市ヒモロギ
ツクヨミ 対鬼戦闘司令本部 第二格納庫
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「ええ、わかっているわよ自分のすることくらい――」
ユイナはそれでも。
笑顔のままだった。
「~~っ!」
ヒミコは二の句が継げない。
わからなかった。
純粋に、わからなかった。
捨て駒同然の役割を命じられ、にもかかわらずこうして笑っていられるユイナの心情が。
「それにね、ヒミコ。ミヅキさんから聞いてない? わたしだって、ただ指を咥えてやられるのを待つだけじゃないのよ」言ってユイナは懐から二枚の御札を取り出す。「〝雷惑符〟と〝雷密符〟……どっちも私が作った特殊札なの」
「その話は……聞いてる」
〝雷惑符〟で幻像を作り、〝雷密符〟で姿を隠せるらしい。
おそらく先日、雨の中でユイナに急接近された手口はそれら二つの併用だろう。
今回の作戦でもほぼ同様の筋書きだ。
まずは〝雷惑符〟で〈アマテラス〉の幻像を作り、そこに第一射を誘導する。
ただし、御札の効能維持のため、ユイナは幻像から一定距離を保たねばならない。そこで〈サグメ〉ごと〝雷密符〟で身を隠す、という案である(なお、〈サグメ〉の装備する札は実質的には増幅器であり、事前にユイナの作成した御札を取りつけ霊石で強化する仕組みだ)。
なるほど。
確かに上手く行けばユイナは安全な上、敵の隙を作り出せるだろう。
まさに理想的な展開だ。
だが、
「絶対無理だな……んなことは」ヒミコにはそう思えてならなかった。「確かにアタシはまんまと騙されたが……それでもあの鬼を同じように出し抜ける保証がどこにある?」
「それは――」
「もしバレれば、敵の攻撃は間違いなくお前の方に飛んでくるよな。そしたらどうなる?」
「塵一つとして残らない、でしょうね……私の機体では防ぎようがないもの。跡形もなく消されてしまうわ」
「ほれ見ろ、だからアタシは――」
「それでも」ユイナがヒミコを遮り言う。「敵の第一射はちゃんと誘導できたことになるわ」そして、笑う。「こんなわたしでも、ちゃんとアナタの役に立て――」
「 それが〝捨て駒〟だっつってんだろうがっ‼ 」
ヒミコは。歯を剥き出しにして吠えた。
今にも殴りかからんばかりに拳を振りかざしている。
それでもユイナは物怖じせず、むしろますます目を細めて幸せそうな笑みを浮かべた。
「捨て駒。いいわよ、それで」
「てめぇ、自分が何言ってかわかってんのか⁉」
「愛する人のために死ねるなら、わたしはそれで満足よ」
「そういう話をしてるんじゃねえ!」
「ちがうわよヒミコ。これは最初からそういう話なのよ。わたしが、自分の命をどう使いたいか。ただそれだけの話――」
「 もういいっ‼ 」
それ以上は無理だった。
ヒミコはユイナに背を向けその場を去る。
まるで尻尾を巻いて逃げるかのようだ――そう自覚しつつ。
わからなかった。
ヒミコには、わからなかった。
自分が何故、こうも腹を立てているのかが。
七年前、己の意志で肆番隊に入って以来、死は常に身近なモノであった。
多くは他人の死だったが、自分の命が危険に晒されたことも数え切れないほどある。
四年前、仲間が全員殺されてからはますます死との距離が近づいた。
まるで。
互いに肩を寄せ合い、肌を重ね、温もりを確かめ合うかのように。
――だから。
ちがう、そうじゃない。
自分はそんな人間ではない。
出会って数日のユイナに特別寄せる感情など何一つとしてないのだ。
それどころか〝殺せ〟と命じられれば花を摘むように容易く手に掛けられるだろう。
だというのに。
何故――何故だ?
どうしてこんなに腹が立つ?
どうしてこんなに戸惑っている?
ユイナは〝捨て駒〟になる。
いいじゃないか、それで。
自分は鬼さえ討てればそれでいい。
いいはずだ。
なのに――――――。
どうして。




