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幻葬鬼譚 ~神話ヲ殺ス少女タチ~  作者: K. Soma
第九話 幻想の花/背負った命

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07

╋━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━╋

(二時間前)

 同日 午後

 /結界封印都市ヒモロギ

  ツクヨミ 対鬼戦闘司令本部 作戦会議室

╋━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━╋

 

「要はアイツを〝捨て駒〟にするってことじゃねぇか……!」

 

 ヒミコがミヅキの胸倉(むなぐら)を掴み吐き捨てる。

 

「おい!」途端、シマメが(けわ)しい形相(ぎょうそう)で割って入ろうとするが――

 

「い、いいのよ、シマメ……!」ミヅキが止める。「あなたは手を出さないで……!」

 

「しかし――」

 

「お願いだから……!」

 

「……わかった」

 

 ミヅキの顔を立てたのか、シマメは腕を組み背中を壁に預ける。

 

 それでも銀縁眼鏡の下の黒い瞳は剣呑(けんのん)な雰囲気を発したままだった。

 

「……よく聞いて、ヒミコ」ミヅキが息苦しそうに続ける。「そうよ――()()()()()。私たちは最悪の場合、ユイナ(あの子)が命を落とすことをも覚悟している……!」

 

「てめぇ……!」ヒミコの手にますます力が(こも)った。

 

 だが、

 

「 ()()()()()()()()()()()()()()! 」

 

 その言葉で不意に心が乱される。

 

 ヒミコはミヅキから手を離した。

 

「アンタ……知ってんのか。御頭(おかしら)のこと」

 

「え、ええ……!」ミヅキは()せ返したかのように()き込む。「前からずっと、話そう話そうと思ってたのだけれど……こんな【たいみんぐ】でごめんなさい……私とヨウコ、シマメの三人は巫術学校時代からの友だちよ……!」

 

「……そう、か」

 

 今の今になってようやく一つ()に落ちた。

 

 ヒミコは()番隊時代、ヨウコの口からミヅキのことを何度か聞かされたことがある。

 

 やれ史上最年少の壱番隊巫女頭(みこがしら)だの、帝國巫女局長だのと。

 

 そういう時のヨウコは大抵、自身を誇るようなうれしさを口端(くちはし)(にじ)ませていたものだが……アレは、そういうことだったのか。

 

 自分の友人を賞賛していたのだ。

 

「この三日間、私たちも出来る限りのことはしたし、ありとあらゆる可能性を吟味(ぎんみ)したわ……」ミヅキの声の調子が元に戻る。「でも、駄目だった……。これ以外にあの鬼を討ち取る(すべ)がないのよ……!」

 

「………。………………。………………………。」

 

「あなたにはまだ話していなかったことだけれど――」

  

「お、おいミヅキ」シマメが口を挟む。「その話は――」

 

「いいえシマメ、これ以上隠していても仕方ないわ。それに、ヒミコには知る権利のあることよ」

 

「……何のことだよ、いったい?」

 

「 私たちの敗北は、即座に()()()()()へと直結するわ 」

 

「はぁ――⁉」ヒミコにしてみれば初めて聞かされた話である。「いや、何言ってんだよお前。仮にツクヨミが落ちたところで、外にはまだ帝國巫女局なり護国総省なりで戦力は残ってんだろ?」

 

 それに――身も蓋もない話ではあるが――如何(いか)に世界に覇を唱える大緋(ダイヒ)帝國とはいえ、所詮は一島国に過ぎない。

 

 最悪、本拠列島が陥落したとて、華海(カカイ)緋海(ヒカイ)、そして異海(イカイ)にはまだまだ拠点がある。

 

 (ゆえ)に〝人類が敗北〟などとする規模(スケール)の大きな話を言われても、聞いてる方からすれば違和感が募るばかりだ。

 

 だがミヅキは、

 

「ちがうわ……そうじゃないのよ、ヒミコ」

 

 沈痛(ちんつう)面持(おもも)ちで首を横に振る。

 

 そこから徐々に語り出した。(いわ)く、現時点でツクヨミには大緋帝國はおろか世界規模で見てもほぼ最高水準(レヴェル)の戦力が投入されていること。(ゆえ)に、自分たちで歯が立たぬなら他のどの勢力が戦っても結果は同じこと。

 

 そして、何より――

 

「鬼が結界を破壊し尽くし、一歩でも外へと出た途端、()()が起こると私たちは聞かされているわ……」

 

「ソレって……何がだよ」

 

「〝白鬼夜行(ビャッキヤコウ)〟――」

 

白鬼(ビャッキ)……? 百鬼(ヒャッキ)じゃなくてか?」

 

「ええ、()()()()()()()()

 

「まあ名前なんざどーでもいいけどよ。結局、何なんだよソレは?」

 

「……わからない」

 

「はぁ⁉」

 

「怒らないでヒミコ、本当のことなのよ……私が聞かされたのは少しだけ……〝白鬼夜行〟という名前と、それが起きると()()()()()()()()()()……ただそれだけなのよ」

 

「ちょっと待てよ、さっきから妙に曖昧な口ぶりだと思っちゃいたが……聞いた聞かされたって、いったい誰からだ? そもそもはソイツが全部、知ってんじゃねえのかよ」

 

「ええ、間違いなくすべてを知っているのでしょうね」ミヅキが(かす)かに自嘲の笑みを浮かべる。「でも、私にはそれ以上を教えてくれないの」

 

「私にはって……アンタは司令官で、ここの【とっぷ】なんだろ?」

 

「ええ、軍事面ではね。でもツクヨミの真の(おさ)は違うわ。私ではなくて……〝月読(ツクヨミ)ノ巫女〟。あなたも噂くらいは聞いたことないかしら」

 

「………………………。」

 

 そういえばルリカからそんな話を聞いたかもしれない。

 

 とはいえ話すルリカも半信半疑、むしろ疑いの方が濃いくらいだったので、てっきり与太話(よたばなし)(たぐい)かと思っていたが――。

 

「実在するのよ。このヒモロギにね」とミヅキ。「そして〝月読(ツクヨミ)ノ巫女〟の――()()()の〝お()げ〟が外れたことなんて今まで一度としてないの」

 

 黄泉比良坂(ヨモツヒラサカ)への対処。

 

 (マガ)()(オニ)の出現。

 

〈アマテラス〉の処置。

 

 例を挙げればキリがない。

 

 ミヅキとヒミコの出会いでさえ〝お()げ〟に仕向けられたモノだった。

 

()()()が言っている以上……間違いなく起こるのでしょうね〝白鬼夜行〟は。少なくとも私はその前提で行動した方が賢明だと思うし、どうやら帝國を動かしている人たちも同じ考えのようだわ」

 

 正確には彼らの場合〝月読ノ巫女〟への恐怖が先立つようだが――ミヅキは()えてその点は伏せた。

 

「わかってちょうだい、ヒミコ」ミヅキの手がヒミコの肩に置かれる。「この戦いには(はな)から(いち)(れい)しかないのよ。負ければすべてが失われるわ」

 

 ヒミコはその時、ようやく気づく。

 

「私たちは――――――(つね)に覚悟を()いられている」

 

 ミヅキの手が(かす)かに震えていた。

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