04
╋━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━╋
(現在)
闘ノ月、恵ノ週、優ノ日 午後
/結界封印都市ヒモロギ
ツクヨミ 対鬼戦闘司令本部
医療棟 屋上
╋━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━╋
「で……?」ヒミコはユイナと医療棟の屋上に出ていた。「アレがそうだってのかよ」
アレ。
ここから見て西側に位置する。三日前の戦いが繰り広げられた第七結界柱方面だ。
そう、第七結界柱――今はもう存在しない。
代わりに湾曲した光の管のようなモノが多数出現し、禍ツ忌ノ鬼を押さえ込んでいた。
「まるで檻みてーだな……」
「本部では〝局所封鎖結界〟って呼んでるみたい」
「ふぅん……なんにせよ、豪勢な話だな。そのために結界柱丸ごと一つを犠牲にしたってんだからよ」
ユイナからはそう聞いている。
なんでもシマメが急遽発案し、ミヅキがそれを許可したのだとか。
「そんで? いつまで持つんだよアレ。あのままずっと、ってぇワケにもいかねーんだろ」
「ええ。今日の夜までが限界みたい」
「ってことは三日しか持たねーってことか……結界柱を一つ潰して。随分と高くつくな」
きっとそれだけ切羽の詰まった状況だったのだろう。
他人事ではない。
すべては――自分が負けたせいだ。
「畜生が……っ」
鬼への仇討とは別に、ヒミコの内でもう一つの動機が立ち上がる。
仕事の失敗は仕事でしか取り返せない。
「………。………………。………………………。」
「あん?」
とその時。
ユイナがじぃ~っと自分を見ていたことに気づく。
「……なんだよ」
戦闘とは別の種の警戒を迫られるヒミコ。
そういえば、そうだった。さっき目覚めたばかりですっかり失念していたが〝ガチ百合〟の問題は何一つとして解決していないのだった。
しかし。
「ん……?」
何か――妙である。
ユイナの様子。この間のようなギラついた感じはなく、何をしてくるかわからぬ不穏さもない。
どころか変に落ち着いている風ですらある。
「ねえヒミコ」ユイナの金色の髪が風に揺れた。「あなたはなんで、戦うの……?」
……前にもルリカから同じことを訊かれている。
ヒミコの心はあれからまったく変わっていない。
なので必然、同じ答えを繰り返すことになる。
「……アイツらを殺すことだけが、今のアタシの生きる意味だからだ」
「そう……そう、なんだ」
ユイナはそれ以上の説明を求めない。
むしろ何か納得がいったように頷くと、ふと空を見上げた。
三日前と同じ、分厚く重たい曇天である。
「……この分じゃ今日も降ってきそうね」
「ん、雨のことか?」ヒミコもつられて空を見遣る。「まあ、そうだな」
「あれからずっと雨続きなの。もう夏もおしまいね……」
「そりゃ……明日からは閑ノ月だしな」
閑ノ月。大緋帝國の暦の上では秋の始まりに位置する月だ。
梅雨ほどでないが多少長く雨が続いた後、木々が紅葉に染まる時期である。
だが――ユイナが話しているのはそんなことではない。
何故だかヒミコにはそう思えてならなかった。
「なあ、お前――」その理由を問おうとするものの、
「あ、そうだわ」ユイナにやんわりと遮られる。「ヒミコ。ミヅキさんのところに行ってきて。作戦会議室にいるから」
「はぁ?」
「次の作戦の説明よ。あなたにとっては大事なことだわ」
「……お前は行かねえのかよ」
「うん、わたしはいいのよ。さっき聞いてきたばかりだし。それに、」
もう、決めたから――言ってユイナは微笑む。
湿り気を帯びた涼風が、夏と秋の境目を彷徨っていた。




