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幻葬鬼譚 ~神話ヲ殺ス少女タチ~  作者: K. Soma
第壱話 解き放たれた少女

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╋━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━╋

 同日 同刻

 /結界封印都市ヒモロギ 第六結界柱付近

╋━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━╋

 

 ミヅキは呆然と立ち尽くしていた。

 

 あまりにも。

 

 あまりにも大きすぎる。

 

 (マガ)()(オニ)

 

 ミヅキもこうして直接目にするのは初めてだった。

 

 意外にも、その姿は人に酷似している。骨格、肉の付き方はほぼ同じだ。

 

 ただし左腕だけが違う。異様に長い。右に比べて二倍近くあり、関節の数も多い。

 

 腕、というよりあたかもそこだけを大蛇に()げ替えたかのようだ。

 

「鬼が……鬼を生んでいるというの……⁉」

 

 悪夢のような光景だった。

 

 まさしく黄泉返(ヨミガエ)リ。地に(まみ)れていた鬼の死骸がグズグズに溶け、一つに混じりあったかと思うと……突如破裂し、飛び散った肉片から小型鬼と大型鬼が形成される。

 

(なんてこと……あの鬼自体が一つの巨大な鬼門(キモン)なのだわ。アレを討たない限り、延々と敵が()き続ける……!)

 

 禍ツ忌ノ鬼の地位(スタイタス)は一目瞭然だ。

 

 顔。(うろ)のように(うつ)ろで仄暗(ほのぐら)眼窩(がんか)は他の鬼と同じである。

 

 違いは――角の数。

 

 小型鬼が一、大型鬼が二に対し、禍ツ忌ノ鬼は額中央とその両脇に計三本の角を有していた。

 

 すなわち〝()(ツノ)〟の鬼。

 

 (いただ)きに君臨する鬼の王。

 

(どうすれば――いったいどうすればいいの⁉)

 

 ミヅキは知っている。この状況を打破できる唯一の可能性。

 

 それは間違いなくあの少女、神越(カミコシ)ヒミコに他ならない。

 

(けどもう遅い……。間に合わないわ。今から本部へ行くなんて……)

 

 どう考えても無謀である

 

 鬼は()()()緋ノ巫女を敵視しているのだ。

 

 禍ツ忌ノ鬼とてそれは例外ではない。今も長い左腕を振りかざし、

 

「ッ、ただちに散開なさい!」

 

 鞭の如く地面に叩きつけた。

 

 いち早く我に返ったミヅキが他の巫女に呼びかける。

 

 だが遅い。数名が逃げ遅れ犠牲となった。

 

 伝播(でんぱ)する恐怖。錯綜(さくそう)する混乱。

 

 椿(ツバキ)組、(サクラ)組共に総崩れとなった。指揮系統の回復など到底見込めない。

 

「いけない、結界柱が――!」

 

 結界柱。十重二十重(とえはたえ)にも織り込まれた巫女の力の結晶だ。

 

 鬼にしてみれば自らを縛る忌まわしき鎖である。当然、標的にならぬはずがない。

 

 結界柱がすべて壊され、鬼がヒモロギの外へと放たれた時――()()()()()()()()()

 

「オラァアアアアッ!」

 

 八方塞がりの絶望の中、ただ一人、闘志を()やさぬ者がいた。

 

 ヒミコである。

 

「神越さん⁉」

 

 屋根の上から御幣(ごへい)を振るい衝撃波を飛ばしていた。どういう訳か、その横には椿組の巫女が一人、唖然(あぜん)として座り込んでいる。あれはいったい……?

 

「とうとう見つけたぜェー⁉ 三本角ォオオオオッ!」

 

 ヒミコは立て続けに衝撃波を放つ。

 

 だが駄目だ。()いてない。

 

 まず尺度(スケール)差がある。人と大型鬼が(うさぎ)(ひぐま)なら、禍ツ忌ノ鬼とは(ねずみ)(ぞう)の開きだ。如何な緋ノ巫女といえども生身で有効打を与えるのは至難の(わざ)である。

 

 しかしそれ以上に、

 

「〝(アマ)玉垣(タマガキ)〟……⁉」

 

 格子状に浮かび上がった白き光の障壁場。あれが問題だ。当たった瞬間から衝撃波が掻き消されている。

 

「こちらの攻撃は通用しないのだわ……!」

 

 何もかも〝お()げ〟の通りだ。ミヅキは悔しさを隠し切れず唇を噛む。

 

 とその時、禍ツ忌ノ鬼がヒミコの存在に気づいた。

 

 結界柱から目を放し、ゆっくりと彼女の方へ振り返る。

 

 途端、ヒミコは屋根から屋根へと飛び移った。

 

 神速――ではなく、緋ノ巫女としての平凡な速度――いや、()()()()だ。

 

 片足を(かば)っている。

 

「いけない、あの子――!」

 

 ミヅキはようやく理解した。先ほどヒミコの隣にいた椿組の巫女。おそらく彼女を救って負傷したのだ。

 

 助けなければ。自分の縮空(シュックウ)で間に合うか?

 

 ミヅキは圧縮空間を連続で跳び、ヒミコに近づく。

 

 あと少し。

 

 あと少しだ。

 

(あと一回跳べばあの子のところまで辿り着く――!)

 

 だが次の瞬間。

 

 巨大な足がヒミコのいた場所を踏み抜いた。

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