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同日 同刻
/結界封印都市ヒモロギ 第七結界柱付近
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土砂降りの雨の中、〈アマテラス〉と〈サグメ〉が現場に駆けつけた。
(……なんだありゃ)
だが唖然。
唖然とする。
(アレが……鬼なのか?)
どう見てもただの〝球〟だ。それも桁外れに大きい。巨神の如き〈アマテラス〉の全長すらいくらか上回っている。さらには全方向に等しい半径を持つ〝球〟故に、横幅に至ってはほとんど話にならない。まるで摺附木棒と林檎でも見比べているような規模差だ。
『オニでしょ』と、そこで。ハクが不意に語る。
(お前……やっぱいやがったんだな)案の定、というヤツである。ヒミコもハクの同席を半ば自然と受け止めていた。
『ずっとここにいるって言ったじゃん。それより、ほら』ハクが小さな白い指で示した――訳ではなかったが、何故かヒミコはそのように感じる。『ツノがあるよ。さんほん』
(はぁ、角だぁ?)一瞬その言葉を疑ったが、「あ」
ある。
確かにある。
よく見れば〝球〟の天辺には禍ツ忌ノ鬼の首が生え出ていた。
つまり、あの〝球〟は鬼の身体、ということになるのだろうか?
見た目にはなんとも不格好だが――それだけにおよそ理解が追いつかず、一種の言い知れぬ異様さがある。
『ヒミコ、ユイナ。聞こえるかしら?』
ミヅキから通信だ。
ヒミコとユイナがそれぞれ応える。
「ああ、聞こえる。なんだ?」『ええ、こちらも聞こえてます』
なお、今回ルリカは〈ウズメ〉が改修中のため作戦から外れていた。
『信じられないかもしれないけど、』ミヅキが一拍置いてから続ける。『アレは間違いなく昨日と同じ鬼よ』
「あの姿でかぁ⁉」『まあ……』
『大事なのはここからだからよく聞いて。私たちはあの鬼が前回と同様に逆具象化空間を射出してくると予想しているわ』
「っ」
ヒミコが息を呑む。
逆具象化空間の射出。何もかもを削り取るあの白い光――白光の矢のことだ。
『でも安心して。今回は天候があなたたちに味方している』
『天候……?』ユイナが訊き返す。『どういうことでしょうか』
『雨よ。この強い雨のおかげで、敵の攻撃は大幅に射程が狭まるはずよ』
「なるほどな……」
最終学歴が尋常小学校中退のため浅学のヒミコであるが、こういうことにかけては野生の勘じみた物分かりの良さを発揮する。
おそらく日光と雲のような関係なのだ。雲で日の光が遮られるように、雨粒がある種の遮蔽物として機能している。
結果、敵の攻撃はこちらに届く前に大きく減衰し、距離によっては消滅するのだろう。
『さっきシマメが技術部や解析官と大急ぎで見積もったのだけれど……あなたたちが今いる地点ならまず安全ということよ』
敵の出現位置はヒモロギの中心である黄泉比良坂にかなり近い。
第七結界柱を背に立つ〈アマテラス〉らとはまだ相当な距離を挟んでいた。
「でもよぉ――」ヒミコが不平を漏らすかのように呟く。「だからといってこのままじゃこっちも手がだせねーぜ」
ルリカのおらぬ今、こちらとて攻撃の射程はさほど長くない。
元来ヒミコの得意とするのは接近戦だ。
一方ユイナの手を借りるにしても――先の一件を思うと背筋が寒い――やはり〈アマテラス〉が敵に近づき〝天ツ玉垣〟を相殺せねばならない。
『そう、ね……』本部でもまだ方針を決めかねているのだろう。ミヅキの口吻は芳しくない。『でも幸い敵に動きはないようだし、もう少しこのまま現状維持で――』
直後。
その前提が覆った。
「なんだ……⁉」
鬼――ではない。
禍ツ忌ノ鬼は変わらず遠くで〝球〟のままである。
ヒミコらと鬼とを結ぶ直線上、その半ばほどで異変が起きていた。
突如として石の壁が立ちはだかり――いや、違う。
そのまま宙へ。浮かび上がった。
さらには円環を形作る。
石の円環。
〝石環〟を――。




