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幻葬鬼譚 ~神話ヲ殺ス少女タチ~  作者: K. Soma
第八話 触れた指先

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08

 いた。

 

 確かに、いた。

 

 ()()()()――言うまでもなくユイナである。

 

 ヒミコと目があった途端、電信柱の陰にさっと姿を隠した。

 

 なんともベタな反応(リアクション)である……。既に気づいてしまった今、そんなことをしてもまるでムダな上に、そもそも布張りの洒落(しゃれ)た異海傘と豪奢(ごうしゃ)な金髪がまるで隠れていない。

 

 というか、隠れる気がないんじゃなかろうか。

 

「うふふ……」

 

 やはりそうらしい。

 

 三秒と()たぬ内に電柱の陰から出てくる。

 

 その上で、

 

「見つかっちゃった……」

 

 恥じらいながら指をモジモジさせ呟く。

 

 うわぁ……きっつい。

 

 この時点でヒミコの口は〝うへぇ〟の形で固まっていたし、腹にはずどーんと重たいモノが降りてきた。

 

 だが油断ならない。

 

 このユイナ、今もそうだし昨晩から早朝にかけてはもっとそうだが……()()()()()()()()()()()()()()()()()、こうして奇行を成し遂げているのだ。

 

 元・()番隊のヒミコを相手に、である。

 

(何か気配を消す(ふだ)を使ってんだな……そうとしか思えねえ)

 

 御札(おふだ)の中には多くの者が一律に扱える〝汎用札(はんようふだ)〟と、特定の個人でしか作れぬ・使えぬの〝特殊札(とくしゅふだ)〟が存在する。

 

(この間の……〝雷陣符(ライジンフ)〟だったか。多分あれも〝特殊札〟だな)

 

 だとすると、かなり厄介である。

 

 まるで手の内が読めない。想像もつかぬような奇手で攻められる可能性すらある。

 

 真っ向勝負を得意とするヒミコの一番苦手な(タイプ)だった。

 

 一方ユイナはそんな警戒など露知(つゆし)らず、「あ、あのねヒミコ……」頬を朱に染めおずおずと切り出す。「一緒に、帰らない?」

 

「断る。話はそれだけか? じゃあな」

 

 速攻拒否、用件確認、自己完結の三連打だ。

 

 言うなりヒミコは鮮やかに回れ右を決めようとする。

 

 幸いまだ距離があった。このまま逃げ切ってしまおう。

 

 そう思っていた。

 

 だが。

 

「あぁぁぁぁあああぁぁぁ~っ‼」 

 

「 ⁉ 」

 

 突如、謎の嬌声(きょうせい)

 

 ヒミコは思わず足を止めてしまう。

 

(なんだコイツ……⁉)

 

 見ればユイナは傘を落とし、その場でガクガクと身悶えていた。

 

 (かば)()てしようがないほどのアレっぷりである。

 

 ヒミコは即座に〝縮空(シュックウ)〟でその場を後にしようとした。

 

 だがしかし。

 

「そんなつれないこと言わずに、ね……?」

 

 ()()()()()()()()()()()()()

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「おいしいお茶があるの……お菓子もよ……」

 

 何が起きた……?

 

 まさか〝縮空〟か? いや違う、ありえない。〝縮空〟は空間を折り畳み圧縮する超高速移動。(ゆえ)に今日のような雨天の場合、雨粒が圧縮空間に巻き込まれ発動が容易に知れる。これはミヅキのような熟達者(エキスパート)ですら(つくろ)いようのない明白な欠点だ。

 

 だから、違う。

 

〝縮空〟ではないのだ。

 

 となれば――

 

(これがコイツの〝特殊札〟か……!)

 

 そうとしか考えられない。

 

 何らかの手口(トリック)で異様な水準(レヴェル)の隠密性を実現しているのだ。

 

 現状、その仕掛けには見当もつかないが――。

 

「一緒に……食べましょう」

 

 ユイナがジリジリとにじり寄ってきた。

 

 土砂降りの雨でずぶ濡れである。それでも顔は真っ赤に上気していた。

 

 パッチリとした金糸雀(カナリア)色の目の下には深ーい(くま)が走っている。

 

 もしかしたら昨日から寝てないのかもしれない。

 

 ギラギラとした瞳の奥からは徹夜明けの者に特有の無駄な情熱が(ほとばし)っていた。

 

(ど、どうする……⁉)

 

 極めて珍しいことに。

 

(どうするどうするどうするどうするどうすりゃいいんだよォォオオォオオオッ⁉)

 

 ヒミコは(なか)恐慌(パニック)(おちい)っていた。

 

 どうしても、かつてのマユリの悪鬼羅刹(あっきらせつ)ぶりが思い起こされる。

 

 あれから自分も相当(きた)えられたが……何故だろう、如何(いか)に強くなろうともこの状況は切り抜けられぬ気がしてならなかった。

 

 まるで蛇に(にら)まれた(かえる)である。

 

「ね、いきましょう……ヒミコ」

 

 そして、あゝ……いよいよユイナの指先がヒミコの形のいい唇に触れたまさにその時。

 

「っ!」

 

 警報。

 

 鬼の襲来を()げる非常警報。

 

 不覚にもヒミコは――ほんの(つか)()ではあるものの――心の底からの安堵(あんど)(ひた)ってしまった。

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