07
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同日 夕方
/結界封印都市ヒモロギ
高等巫術学校 北校舎 一階 下駄箱
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「チッ、やっぱし降ってきやがったか」
ヒミコは廊下の窓から外を一瞥し吐き捨てる。
朝から重みを増していた曇天は、ここにきてとうとう堰を切ったかのようなザアザア降り。
何もかもを塗り潰すような灰色の雨が強かに大地を叩いていた。
「………。………………。………………………。」
一応、傘は持ってきている。
宿舎が貸し出している飾りっけのない番傘だ。
女子供には大きい上に持ち手が妙にゴツゴツしているので、他の女学生からは大層不評を買っていたが……そこは流石の欠陥女子。ヒミコは何の文句もなしに使っていた。
「ん?」
柄を握り軽く左右に回してから轆轤を持ち上げ傘を開く。
その途中、奇妙な違和感を覚えた。
「……ぬゎーにしてんだ、てめえはよ」
ハクである。
何故だかヒミコの背におぶさっていた。
その上で、
『……べつに』
むすっと膨れっ面。何やら妙に不機嫌である。
そういえば今日は――というか昨晩くらいからハクは姿を見せていなかった。
「別にじゃねえ。降りろ、邪魔くせえ」
『やだ』
「はぁ?」
『やだ。やだ』
ハクは一層強くヒミコの背にしがみつく。
とはいえ実体を持たぬ身のため、結局はすり抜けてしまうだけだが。
「……ったく」
こうなったら梃子でも動かない。
ヒミコはこれまでの付き合いから身に染みて知っている。
結局、ハクをおぶったまま帰ることにした。
……見ようによっては子持ちの主婦じみた絵である。
「すげぇ雨だな……」
油を引いた番傘の緋紙が音を立て土砂降りの雨を弾く。
『なにこれ』ハクにはそれが新鮮だったらしい。『ばしゃばしゃしてる』不機嫌が一転、俄かにはしゃぎだした。
「お前、こんなんが面白いのか」
『うん。おもしろい』
「おやすいヤツだねぇ……」
とは言うものの、ヒミコも雨は嫌いではない。
特に雨の音にはどことなくやすらぎを覚える。
(ああ、そういやアタシも昔……こうしてはしゃいでたっけな)
ヨウコに引き取られる前。実の両親と姉がまだ生きていた頃の話だ。
それまでずっと姉のおさがりだったのが初めて自分の傘を買って貰い、有頂天になったのを覚えている。
(いつ雨が降るのか、今日か、明日か、明後日か……んなことばっか考えてたな)
『そうなの?』
「るせえ。勝手に人の心を読むな」
『むぅ………………………………あっ』
不意にハクが声を漏らした。
それも心なしか不満気に。
「ん? どーしたんだよ」
『……またきてる』
「来てるって。何がだよ」
『キイロのヒト』
瞬間、ヒミコは警戒態勢に入った。




