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幻葬鬼譚 ~神話ヲ殺ス少女タチ~  作者: K. Soma
第八話 触れた指先

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103/226

07

╋━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━╋

 同日 夕方

 /結界封印都市ヒモロギ

  高等巫術学校 北校舎 一階 下駄箱

╋━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━╋

 

「チッ、やっぱし降ってきやがったか」

 

 ヒミコは廊下の窓から外を一瞥(いちべつ)し吐き捨てる。

 

 朝から重みを増していた曇天(どんてん)は、ここにきてとうとう(せき)を切ったかのようなザアザア()り。

 

 何もかもを塗り潰すような灰色の雨が(したた)かに大地を叩いていた。

 

「………。………………。………………………。」

 

 一応、傘は持ってきている。

 

 宿舎が貸し出している飾りっけのない番傘(ばんがさ)だ。

 

 女子供には大きい上に持ち手が妙にゴツゴツしているので、()の女学生からは大層不評を買っていたが……そこは流石(さすが)欠陥(ポンコツ)女子。ヒミコは何の文句もなしに使っていた。

 

「ん?」

 

 ()を握り軽く左右に回してから轆轤(ろくろ)を持ち上げ傘を開く。

 

 その途中、奇妙な違和感を覚えた。

 

「……ぬゎーにしてんだ、てめえはよ」

 

 ハクである。

 

 何故だかヒミコの背におぶさっていた。

 

 その上で、

 

『……べつに』

 

 むすっと(ふく)れっ(つら)。何やら妙に不機嫌である。

 

 そういえば今日は――というか昨晩くらいからハクは姿を見せていなかった。

 

「別にじゃねえ。降りろ、邪魔くせえ」

 

『やだ』

 

「はぁ?」

 

『やだ。やだ』

 

 ハクは一層強くヒミコの背にしがみつく。

 

 とはいえ実体を持たぬ身のため、結局はすり抜けてしまうだけだが。

 

「……ったく」

 

 こうなったら梃子(てこ)でも動かない。

 

 ヒミコはこれまでの付き合いから身に染みて知っている。

 

 結局、ハクをおぶったまま帰ることにした。

 

 ……見ようによっては子持ちの主婦じみた絵である。

 

「すげぇ雨だな……」

 

 油を引いた番傘の緋紙(ひし)が音を立て土砂降りの雨を(はじ)く。

 

『なにこれ』ハクにはそれが新鮮だったらしい。『ばしゃばしゃしてる』不機嫌が一転、(にわ)かにはしゃぎだした。

 

「お前、こんなんが面白いのか」

 

『うん。おもしろい』

 

「おやすいヤツだねぇ……」

 

 とは言うものの、ヒミコも雨は嫌いではない。

 

 特に雨の音にはどことなくやすらぎを覚える。

 

(ああ、そういやアタシも昔……こうしてはしゃいでたっけな)

 

 ヨウコに引き取られる前。実の両親と姉がまだ生きていた頃の話だ。

 

 それまでずっと姉のおさがりだったのが初めて自分の傘を買って貰い、有頂天になったのを覚えている。

 

(いつ雨が降るのか、今日か、明日か、明後日(あさって)か……んなことばっか考えてたな)

 

『そうなの?』

 

「るせえ。勝手に人の心を読むな」

 

『むぅ………………………………あっ』

 

 不意にハクが声を漏らした。

 

 それも心なしか不満気に。

 

「ん? どーしたんだよ」

 

『……またきてる』

 

「来てるって。何がだよ」

 

()()()()()()

 

 瞬間、ヒミコは警戒態勢に入った。

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