とある将棋大会
(なんて、クソみたいな形だ)
俺は山本元久。将棋を始めたきっかけは、小学生の頃に祖母が教えてくれたことだ。
夏休みに祖母の家へ遊びに行くと、祖母は必ず対戦してくれて、決して強いという訳ではなかったけど、当時の俺にとっては、いい対戦相手だった。
それから、いつしか俺は将棋にハマりだし、現在は24歳の奨励会三段。
今は、将棋を教えてほしいという奨励会初段の渡辺と対局をしているところだ。渡辺とは昔からの友達で、よく対局をして楽しんでいた。昔は、勝ったり負けたりで楽しかったけど、いつの間にか大人になると俺の方が渡辺を超えてしまった。
にしても……なんだ、このクソみたいな形は。
怒鳴りたくなってくるが、そこは何とか我慢した。
まるでアマチュアと戦っているかのような、王をやたらと逃がして、置いた駒も使えていない彼は本当に残念だった。
前、角落ちで対局したときは、いい勝負だったのにハンデ無しだと、こんなものか。
昔、あんなに競い合っていた彼が、ここまで弱く感じてしまうとは何だか無念を感じる。
ああ、もうダメだ、我慢できない。
「集中しているところ悪いんだけど……このままだと、負けるよ?」
俺がそう言うと、彼は俺を睨みながら「下駄を履くまでは分かりませんよ!!」と必死に答える。
ダメだ、渡辺は全く分かっていない。十七手先で相手玉が詰まされるというのに、それが見えていないのだろうか。
さて、そろそろ終わりにしようか?
俺が王手をかけると、渡辺は数十秒の考察の上、「負けました」と答えた。
「そんな先も読めないとは、これだから奨励会初段は。こっちはプロ入り目指して忙しいんだ、これ以上弱い君と戦ったところで勉強にならない」
「ちょっと待ってください!」
立ち去ろうとした俺に、渡辺は叫んだ。
「確かに、まだまだ未熟ではありますが、絶対に私もプロ入りしますから……だから……!!」
「あのさ、君はまだ奨励会初段。それなのに年は23だろ? あと3年で3つも段位が上がるとでも考えられるか? 馬鹿らしい。…………プロ入り出来ない奴はさ、ただのアマでしかないってこと、それくらいは分かるよね?」
俺の言葉に、渡辺は立ちすくむが、俺にとっては関係ない。
俺の言ったことは間違っていない。プロとは、これほどまでに厳しいことを、俺は教えてやりたかっただけだ。
渡辺がプロになれるかどうかなんて、今の俺にとってはどうでもいい。
ただ俺は、俺自身がプロになることが出来れば、それで十分なのだから。