表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法使いの弟子  作者: 古村あきら
にょろ
13/23

第13話

 古い蛍光灯が点滅だけして消えてしまっても、洸は小さく「あれ?」と呟いただけだった。廊下から差し込む電灯の黄色い光を頼りに、部屋中に散らかった画材を避けて奥へ進む。イーゼルの上の大きなキャンバスは、布を掛けられたまま、そこにあった。ずっと気になっていた描きかけの絵。さとみの背丈を越えるこのキャンバスに描かれているのは、きっと洸の大切なものに違いない。見てしまっていいのだろうか。今になって腰が引けるのを感じた。

 カーテンを開けると、絵本で見るような大きな月が窓の外に浮かんでいた。洸の指がキャンバスを覆う布の端を掴み、ゆっくり引いていく。さとみは息を止め、それを見守った。やがて、絵を覆っていた白い布はすべて足元に落ちた。月光がキャンバスを照らす。目の前に現れたものを見て驚くと同時に、やはりという思いがあった。

 美しい絵だった。強風に抗えず散る花弁が、きらびやかに宙を舞う。自らを繋ぎとめていた土台から引きちぎられ、風にもてあそばれ舞う姿ははかなげでたおやかで、そして言い知れぬ悲しみに満ちているように見えた。

「取り戻そうとするな」

 独り言のように、それは聞こえた。洸が、手に持った布の端を投げる。

「心が欲しいなら諦めろ。……隼人に、そう言われたんだ」

 静かな。どこまでも静かな声だった。


 舞い散る花弁の中にたたずむ美しい人。それは、冬月結子の肖像画だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ