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地底  作者: haruness
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第40話 嵐の先へ

「こりゃあまずいぞ」

空は灰色から黒に変わった。タクシーの窓には水滴がついている。降り始めた。

「予定よりも早く降り始めたみたいですねっ」

「あと…二十分ぐらいで着きますよ」

ドライバーはワイパーをつけ、空の様子を苦々しい顔で見上げた。


宮田に船の準備をするよう連絡し、空の様子を眺めていると、気づけばタクシーは沼津に着いていた。

「んじゃ。私にゃよくわからんけど、頑張ってくれよな」

そう言うと、タクシーは雨の中に消えた。

「さて。決戦の準備といこうか」

「おーい」

「え!?」

急に後ろから声がして、振り返った。

「そんなに驚かなくてもいいでしょ」

宮田が右手に傘をさして立っている。左手には三本のビニール傘、耳には青色の翻訳機がある。

「ほら、傘ですよ」

「あ、ありがとう」

少し困惑しつつも、四人は傘をさして施設に入った。

「加藤さん。正直に言うと…これはさすがに無理です」

窓の外を眺めながら宮田が言う。

「…いや。やる」

「この嵐じゃ、途中で船が転覆しますよ」

「転覆なんてしないさ」

「なんでわかるんですか」

またこれか。

「なんでも…いや。まだそんなに波は高くない。すぐ出れば大丈夫だ」

「…そうですか……でも…」

「ここで話し合ってる暇なんてあるのか?」

ヤコフが割って入った。

「宮田。俺たちはどの船に乗るんだ?」

「あれです」

宮田の指さす先には、波で左右に揺れる小型ボートがあった。

「…あれしかないのか?」

「他は全部港に退避中ですよ」

宮田がやれやれという表情で言った。ヤコフがため息をつき、四人は外を眺め続ける。雨は強くなるばかりだ。

「…私だって、頑張ったんですよ。もっとでかいのをくれって。でも、だめだったんです」

一本の細い縄でつながれた小型ボート。波が来るたびに転覆しそうになる。

「…上等だ」

ヤコフはそう言うと、傘もささずに外に出た。

「あ、ヤコフさん!何してるんです!危ないですよ!」

宮田がおぼろげな足取りで追いかける。

「そこのお二人さんも、さあ」

私ははっとして、傘を傘立てにさして外に出た。秘書さんも続いた。ドアを開けると、途端に大量の雨粒と強風にぶつかった。

「いざ出航といこうじゃないか!」

「何言ってるんですか!全員死にますよ!?」

「加藤!」

半ば飛び乗るように乗船すると、ヤコフに呼ばれた。

「この船旅は成功するか!?」

デッドオアアライブになれば、答えは一つしかない。

「成功します!」

「そうだ!成功する!理由なんていらねえよ!」

「二人して何言ってるんですか!」

「俺はよぉ、感じるんだ!この加藤とかいうやつについて行きゃあ、死なんて恐れることないってな!」

「そんなことが通用するとで…」

「いいから乗れ!もたもたするな!」

秘書さんが飛び乗り、ヤコフが宮田を船上に引きずり込んで、船は沼津を出発した。

「いざ、出航だぁぁぁ!」

「いやだ!死にたくない!」

ヤコフは三十年前に教わった操船技術で相次ぐ高波を切り抜けていく。ヤコフ以外は、飛ばされないよう船にある何かに必死にしがみついている。こうなれば、もう船酔いなんてものは感じない。感じるのは恐怖だけだ。

「宮田ぁ!あの黒い影が人工島であってるな?」

宮田は震えながら顔を出す。

「あってますよぉ!ねぇ?あんな距離無理ですよ!」

「行くしかないんだよ!宮田!」

私は宮田の震える体を船体に抑えつけ、なだめるように言った。

「ここで一人逃げ出す方が危ないぞ」

「えぇ…」

これはホラー映画のあるあるだが、きっとこの物語でも同じようになるだろう。


二十分も経てば、幾度とない高波と雨風によって秘書さんと宮田はほとんど限界に達していた。ヤコフはそんなのお構いなしにひたすら最大速力で突っ走る。

「あぁ…あぁ…」

自然とこんな声が出た。そろそろ自分も限界なのだろう。

「おいみんな!着いたぞ!」

そんな声がしたと思えば、私の体は既に桟橋の上にあった。多分だが、放り投げられたのだろう。ほとんど気絶状態だったので覚えていない。

手を掴まれ、建物の中へと引きずられた。

「あぁ…げほっ」

深呼吸をして、施設の天井を眺める。三人とも仰向けに倒れて何とか意識があるという有り様だ。

「だっ大丈夫ですか皆さん?」

研究所玄関で倒れこむ三人を見て職員が駆け寄る。

「まさか、この嵐の中…」

「毛布を持ってきてくれ。あと温かい飲み物も」

「はっはい!」

……

毛布の中で熱々のコーヒーを飲むまで、私は打ち上げられた魚も同然の状態だった。こうするしかないとはいえ、かなりハードな内容である。

「ふぅーーっ」

冷え切った体を熱いコーヒーが温めていく。今までとは違う意味での”最高の一杯”だった。


例によらず二時間も休めば全員動けるようになった。スーツを四着借り、エレベーターで降りればもう地底は目の前だ。宮田に頼んでおいた”妨害道具”を持って、四人は再び地底世界に足を踏み入れる。

「さあて、決戦の準備と行こうか」

ヤコフが先頭に立って”ローバー”へと進む。

「それ、さっきも言ってましたよ」

「こういうのは何回言ってもいいんだよ。なんせ、かっこいいだろ?」

「あっあぁ…」

「どうせ誰も俺らのことなんて見ちゃいないんだ。好き勝手しようぜ!」

そう言うと、ヤコフは私の肩をたたいた。

「…そう…ですね」

四人は荷物をローバーに積み込み、それぞれの表情で乗り込んだ。


「地底防衛作戦《U D O》の始まりってわけだな!」


ローバーはエンジン音を響かせ、地底の闇の中へと入っていった。

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