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地底  作者: haruness
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第3話 ようこそ

アンパスカルスーツ…ネーミングセンスがド直球だ。

「どうです?かっこいい名前でしょう?」

宮田はニヤニヤしながら言った。とりあえず、苦笑いをしておいた。


この後も、宮田によるスーツのプレゼンテーションは続いた。

要約すると、スーツがなぜ圧力に耐えられるのかは科学の話でよくわからないが、“アンパスカル”は地底世界で見つかった新素材で、とてつもない圧力に耐えることができ、それでいて軽い。これに耐熱素材を張り付ければ、晴れてこのスーツの完成である。そして、名前がかっこいい。

こんなことをよくもまあ三十分も話せるなあと思いつつ、気づいたらもう着替えだ。着てみた感想は、まあまあ軽い。しかし身動きがとりづらく伸縮性は皆無だ。違和感はあるが、そのうち慣れるだろう。見た目はSF映画のエイリアンが、地球を攻めてくるときに着ていそうな感じのスーツだ。

「それではお二人とも、地底の世界に行きましょう!」

当然ながら秘書さんも連行されるのである。


我々一行は再び黒服とともに五分ほど歩き、専用ボートに乗って海上にある人工島へと向かった。海上石油プラントみたいでかっこいい見た目をしている。

「駿河湾は、日本一深い海なんです。だからここが選ばれたんですよ」

船員の一人が海を眺めながら呟く。

「そんなに心配しないでくださいよ」

「え?」

「まあ、怖いのなんて“エレベーター”ぐらいしかないですから」

“エレベーター”?また私の勘が警告を発している。エレベーターの何が怖いというのだろうか。深くは考えないことにし、目をつぶって横になった。


人工島についた。パイプや配線、鉄骨がむき出しになっていて、巨大な煙突からは白い煙がもくもくと出ている。まるで戦後の工場である。その中心に向かって、一行は狭い鉄の道を歩いて行く。


しばらくすると、教室と同じぐらいの大きさの巨大エレベーターが現れた。一人のガイドを残して黒服らはどこかへ消えた。

エレベーターのドアが開き、中にはジェットコースターについていそうな座席が並べられている。

嫌な予感しかしない。ジェットコースターは苦手だ。

「ささ、何立ち止まっているんですか。早く乗ってください」

すでに足は震えている。

しかしこれは職務の一環。自分の怠惰が招いたこと。

「皆さん、シートベルトを」

つけたとたん自動できつく縛られた。完全に私は椅子に縛り付けられた。もう戻れない。ガイドがエレベーターの乗り方や注意点を説明するが、こんなもの見ただけで注意点なんてわかりきっている。


ガイドが無線で指示をする。

「さて、行きましょう。地下13000メートルの世界へ!」

「……」「……」

誰も反応しない。

そもそも好き好んでこんなところに来るやつがいるのか?

物凄い機械音とともにドアが重々しく閉まる。

さらば地上。

さらば青空。

さらば… 

……!?

その瞬間、体がとてつもなく軽くなり、次第に無重力になっていった。吐きそうになって叫べない。無線で秘書さんの叫び声が聞こえる。ガイドはというと、落ち着き払って叫び声一つ上げない。

体が上に押し付けられる。肩のベルトが痛い。少なくとも、現職の国会議員が乗るものではない。

……最悪だ……悪夢だ……!

「東京スカイツリーのエレベーターの数倍の速さで落ちていますよ」

無線でそう聞こえたような気がする。

落下速度が一定になり、最初よりかは気分がよくなった。

窓がないため、どれくらいの速度で落ちているのかわからない。

……

垂直落下は数分間続いた。少なくとも、私はそう感じた。

次第に体重を感じるようになっていき、もとの体重に戻った。

もうこんなの二度とごめんだ。

こなきゃよかった。

風邪でも何でも引けばよかった。

これに乗るくらいなら国会議員を辞めるほうが英断だ。

本当に、本当に、最悪の乗り心地だ。

……

「…ちっ…地上に戻るときって……?」

秘書さんが吐きそうになりながらもつぶやく。

「さて皆さん、地底へようこそ!」

無視された。こんなことがあっていいのだろうか?

議員になったことを後悔し始めたので、もう何も考えないことにした。

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