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地底  作者: haruness
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第2話 地底行き

「は……?」

「地底……?」

まさか。

「あの地底ですか……?」

「そうだ」

「うっ…」

危うく吐くところだった。

沖縄ぐらいだろうと思っていた私がばかだった。地底はもはやこの世の地獄。

地底は、今のところ宇宙空間の次に危険な場所だ。そんなところに行くなんて、ばかばかしいにもほどがある。沖縄の気温はせいぜい40度で済むが、あっちは優に100度を超えている。そして何より気圧が非常に高い。こんなやわな人間は一瞬でぺしゃんこだ。

「本当に私にですか…?」


その後、私はいろいろな手段を使ってこれを阻止しようとしたが、すべて無駄に終わった。何度か深呼吸をし、心を再び落ち着かせて受け入れた。

…生きて帰れるかはわからないけど。

「えぇっと、つまり私は“現地”を訪問すればいいんですね?」

“現地”とは今年開通したばかりの駿河湾掘削所もとい地底への唯一の入り口である。「その通りだ。まあ、楽しんできなさい」

…楽しんで来い…?

死ぬかもしれないんだぞ…?

苦笑いをして、力んだ顔を正常に戻す。

「…あの…安全ですよね…?」

「あたりまえだ。あそこは日本一危険だが、日本一安全対策が施されているところだ」

即答なのが逆に怖い。

「っへ、へえ…」

……

つかの間の沈黙。

「…加藤くん…君もわかってるだろう?」

「っえ…?」

お互い顔を近づける。

「支持率は下がりっぱなしだ。このままじゃ、君みたいな議員はもう二度と国会議員なんかになれないぞ」

「…はい」

「党と、君のためだ。一日、日帰りでいいんだ。頼む」

「…わかりました…あはは……」

「そうさ。君は笑っていればいいんだ。それでいい」






「くっそぉぉぉぉぉぉ!!」

私は国会の門の前で高々とそう叫んだのである。

外はもう夕暮れで、紅色に染まった空は、どこまでも透き通っている。周りには我先にと駅に向かう会社員。地底に行けばもう見れない景色を、私は美しいとは思わない。

いつもの帰り道。でも今日は酔っている。いつもの二倍は飲んだ。

千鳥足で眠い。このまま車にひかれるのと、地底でぺしゃんこになるの、どっちがいいだろうか…


夜遅く家に帰り、浴槽につかりながら考える。よくよく考えたら、国会議員があんなところに行くなんていうのはもはや戦力外通告だ。

…こうでもしないと私は残れないのか。

毎日論争を眺めることしかしていなかった自分の姿が頭に浮かぶ。山本議員には「一応、自主的な訪問ということにしておいてくれ」と頼まれたが、あんなところに自主訪問なんて。若くして国民に嘘をつくことになるが、上の方々の決定には逆らえないようである。世の中の理不尽さを一番知っているのは、もしかしたら政治家なのかもしれない。作り笑いの練習でもすることにしよう。






あっという間に日が過ぎ、もう出発日の朝だ。コーヒーを飲みながら日課のニュースを見る。天気予報を確認しようとしたが、あっちでは意味はなかった。


車に乗り、沼津市に行く。ここには一度も来たことがなかったが、町が魔改造されていることだけはすぐに分かった。窓の外にはそこら中に研究施設が立ち並び、怪しそうな物質が頑丈な箱に入れられて運ばれている。エイリアンが着るような服をまとってつかつかと歩く人もいる。施設の近くでは住民による反対デモが今日も行われている。

政府と多くの民間企業によって、数千億円規模の大開発がされた沼津市。町の五分の一が地底関連の施設になった。二十年前の静かな港町とは大違いである。

秘書さんはというと、まさかこんなにもSFチックなところだとは思わなかったらしく、いつにもまして緊張気味だ。車から降りると、とたんに何人もの黒服の警護が私を囲った。怪しさ満点なうえ、第一私の命を狙う人間なんていないだろうにこんなことをする意味はあるのだろうか。

なんてことを思っていると、知らぬ間にとある建物に誘導され、変な部屋に入れられた。

壁は一面真っ白で窓はなく、あるのは椅子と机とどこかへつながっているドアだけだ。

「ここでしばらくお待ちを」

黒服の一人が言った。黒服は一人を残して建物から出た。とめどない緊張感が私と秘書を襲う。秘書はもはや緊張のあまり凍り付いたように動かない。


これが三分の間続いた。エアコンの効いた部屋なのに汗だくだ。

ドアの向こう側から声と足音がしたと思うと、二人のいかにもな姿をした研究員が怪しいスーツを持ってドアから出てきた。一人は壁際に、もう一人は目の前の椅子に座った。

「初めまして。私がこちらの研究施設の装備スーツ及び設備担当の宮田です」

丁寧で改まった言い方だが天然っぽさを感じる。

「あなた方もご存じの通り、地底に行くには特別なスーツが必要です」

「……」

こっちを見つめて、一瞬ニヤッとした。

「それがこちらの超耐圧スーツ、“アンパスカルスーツ”です!」

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