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地底  作者: haruness
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第19話 The place

「…加藤さん……」

彼女は既に涙ぐんでいた。

「久しぶり。ただいま」

そう言うなり、私のもとへ駆け寄ってきた。

「すまない…私のせ…」

「どこに行っていたんですか!心配しましたよっ!」

言い終わる前に言われた。

「私のせいでこんなことになって、本当に、申し訳ございませんでした!」

私はベッドの上で頭を下げた。

「……謝らなくていいです。あの時私が止めていれば、こんなことにはなりませんでしたっ!」

「ひ、秘書さんは悪くないです!私が、あの時興味本位でいかなければこんなことにはならなかったんです!」

私はあわてて反論した。彼女のせいになどできない。

「いいですよ…もう…こうやって帰ってこれたんだから…謝るのは私だけでいいです……」

二人とも黙り込んだ。お互いが自分のせいだと思っている。彼女の涙が、証明でキラキラと光る。部屋には二人しかいない。

外から車の音がした。誰かが入ってくる。

秘書は驚いてベッド裏に隠れた。

「なんか…急に呼び出されて…車に乗せられて…加藤さんに会いたいかって言われて…気づいたらこんなところに……」

「えっ!?ここがどこかしらないの?」

「はい…すみません……」

秘書でも知らされないような場所なのか。マスコミに流さないためとはいえ、ここまでとは。少しやりすぎな気がする。

「加藤さんは…?」

「知らないよ」

「そうでしたか…スマホまで取られたんですよ…」

外部に情報を漏らさないためか。徹底している。

「お二人さん、入りますよ」

突然ドアからまた聞き覚えのある声がする。おっとりとした声だ。

「はい」

山本議員が入ってきた。

「…っは…加藤君っ……」

秘書と同様、涙ぐんでいた。

「君がいない間、どれだけ大変だったか!」

「すっすみませんでした!」

「国会では野党がうるさいし、外ではメディアが陰謀論だとかなんだとか言うし、もうさんざんだよぉ!」

山本議員は思わず私に抱き着いた。

「君の秘書は本当に頑張ってくれたんだぞ!私と…立ち向かって…ううっ……」

号泣状態だ。秘書も耐えられなくなり、私に抱き着いた。


……二人がこんなに頑張っている間に、お前は何をしていたんだ…?

オアシスとかいうところで子供と遊び三昧?話にならない。

じゃあどうしたらよかったんだ…?

…そんなもの考えてどうする。大切なのはこれからどうするかだろ。


自然と私も泣きたくなってきた。


…今すぐじゃなくたっていいんだ。時間はある。自分でどうしていくべきか、じっくり考えるんだ……


自分と話すなんて。まだみんなともロクに話していないのに。

そうだ。まずは話すことから…始めてみよう。





一台のモニターに、三人の男女が“語り合い”をする姿が映っている。

「見た感じ、異常はなさそうですね」

モニターを見つめる男たち。胸のバッチには、”精神科医”の文字がある。

「洗脳されたようには見えません」

「…そうか…よかった」

「これで問題解決ですね」

「いや。これはそう単純なものではない。世間に出すにはまだ早い。最終検査だ」

「…最終検査?」

「ああ。君が直接彼と話して判断するんだ」

「ええ…?」

「さあ着替えてこい。見誤るなよ?」

「はい……」

「自然にな」






「あの…えーと……」

今度は見たことのない白髪の老人が入ってきた。今度はワゴン車を引いてきている。ルームサービスか何かだろうか?

「みっ…皆さんの夜ご飯です」

そういえば、朝からほとんど食べていなかった。

「ありがとうございます!」

「四人分お持ちしましたので……」

「四人分?この部屋には三人しかいませんよ?」

「あの…私も…御一緒できませんかねえ」

付き合いの関係上初対面の人と夜ご飯を食べたことは何度もあるが、今回は特殊である。なんだか不自然な流れだ。老人の方もなんだかぎこちない感じがする。

「いいですよ!」

山本議員が言った。

「あっありがとうございます……」

まあとりあえず、笑っていればいいか。


そんな感じで、老人と夜ご飯を食べた。色々と聞いてきたり、やたら私のことばかりを見ているような気がしたが、悪い人ではなさそうだ。

夜ご飯を食べ終わると、老人はワゴンとともに帰っていった。

「っていうか、私たち、ここでどうするの?」

秘書がしゃっくりをしながら言う。いつもと違い、タメ口風だ。夜ご飯に出たお酒のせいで酔っぱらっている。

「入るときにっく、うぅ…許可が出るまで出るなって言われたからなあ」

山本議員も完全に酔っぱらっている。確かに、この部屋から勝手に出るのはなんだか怖い。


しばらくすると案内係の人がやってきて、二人分の布団を持ってきてくれた。ここで寝ろということだろう。

二人は受け取るや否やそのまま床で布団にくるまって寝た。

私も眠くなってきた。きっと明日にはこの施設を出られるだろう。

照明を消し、私は布団に潜った。はさんでおいた本を月明りを頼りに少しだけ読んだ。

“ある日、村一番の魔導師である父は言った。「お前に問う。真実が知りたいか?」”

“真実”?一体何だろうか。息をのんで、次のページに進む。

“「うん。知りたい」「それがどんな真実であっても受け入れるか?」「……うん。受け入れるよ」”

どうやら相当衝撃的なものらしい。

“「この世界は今、この世界を創造した“神”によって完全に操られている。彼の支配下にあるのだ」”

……えぇ……?

“「私は生涯をかけて神という存在をこの世から消し去ろうとした。しかし、無理だった。そこで、この目的をお前に託したい」「……そんな……なんで神になんて逆らうのさ」「……お前は神に支配された、何でもかんでも都合のいいように進むだけの人生でいいのか?それよりかは、武器を取って立ち上がり、神を打倒し真の自由を手に入れるべきじゃないのか?」”

……自由への渇望……というやつだろうか。たとえすべてを作り上げた神でさえも支配者、自由の阻害者として見られるのである。

“「……わかったよ。父さん、俺、立ち上がることにするよ。真の自由を、手に入れるよ!」「……ありがとう。お前がこの志を継いでくれて、私はとても誇らしいよ。……大変な旅になるだろう。だが、心配することはない。私がお前に一つ能力を与える。それを使えば、神にだって立ち向かうことができるだろう」”

能力……?父親は魔導師だ。炎魔法や回復魔法を息子に与えるのだろうか。

“「“ビジョン”だ」”

え?ビジョン?

“「未来を見ることができる能力だ。これがあればお前は神にだって勝てるだろう」”

中々チートな能力だ。“なろう系”の主人公でもこんな能力は持っていない。

“「お前は、この魔法を使ってこの世のすべてに打ち勝つんだ。さあ、大冒険を始めてこい!」「行ってきます!」”

……何だかこのやり取りにも“都合のよさ”を感じるが、まあそこらへんは所謂“タブー”ってやつだ。あまり突っ込まないでおこう。


って、何考えてんだ。もう夜遅い。

本を閉じ、天井を見上げた。

「はぁ……」

ため息をつき、深呼吸した。

……私は何をしているんだろうか……?

……何なんだここ……?

……いったい何がしたいんだ……?

明日には解決することを願って、私は寝た。

何だか、ずっと観察されているような、そんな気がする。いや、されているに違いない。

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