第85話 困難は続く
「多少浄化はされましたが爆破には十分、今のうちに移動を……」
「させるかよ!!」
魔素爆弾に触れようとした手を無属性魔法で跳ね除ける。
瞬時に手を引っ込めたことでダメージはなかったが、テレポートは回避出来た。
「その手で触れると、どんな物でも移動できるんだろ?」
「その通り。というか何故貴方がその事を……って無名さん?」
「今まで気づいてなかったのかよ!!」
そんなにいつもと違うのか!?
相手を騙すための女装だから効果があるのはいい事だけど。
「だいぶイメチェンしましたね〜。以前から女性のような匂いはしてましたが、格好まで寄せられると本当に分かりませんよ」
「なんで俺から女性の匂いが……」
ふと、原因と思われる出来事を思い出す。
『ダーリン、アタシのシャンプー使ってみたら? 髪ツヤッツヤになるよ!!』
『身体のメンテナンスは大事。真白が色々教えてあげる』
『この制汗剤、無香料だからオススメよ。女の子に囲まれてるんだし、その辺は気使った方がいいわよ?』
『こーいうスキンケア用品もいいっすよ〜。あーしの愛用品なので、パイセンにも合うと思うっす!!』
「……」
「何か思い当たる節でも?」
彼女たちの手厚いサポートのおかげみたいだ。
俺としては最低限エチケットを守るつもりでやっていたんだけど……
効果抜群すぎじゃない?
「と、とにかく!! お前らに魔素爆弾は起動させない!!」
「そうは行きませんよ。私のテレポートは無限の可能性を秘めていると、教えて差し上げます」
「っ!?」
突然消えたかと思えば、目の前に現れるバトラー。
あと数センチで触れられる距離まで近づかれたが、すかさず”神速”を発動させて距離を取る。
「あっぶね!!」
「おっと、流石は”神速”。そう簡単に触れさせてはくれませんか」
俺に触ってどこかに飛ばそうとしたな?
触れただけで何でも飛ばし放題ってのは流石に厄介だ。
何でもって事は応用も効く。
それは攻撃防御に限らずだ。
「こういうのはどうですかね?」
バトラーが近くの重機に触れると、その重機が瞬時に消え、頭上に現れた。
「うぉっ!!」
重力に従い、重機が勢いよく落ちてくる。
余裕で回避できるけど、あれだけでかいものが落ちてくるのは、流石にヒヤッとするな……
けど、忘れてないかバトラー。
俺の目的は、お前を倒すことじゃないんだぜ?
「当たれっ!!」
衝撃により舞い上がった砂埃を煙幕代わりに、俺はスプラッシュポーションを魔素爆弾に向かって再び投げた。
「それも読んでますよ?」
が、バトラーには察せられたみたいで、スプラッシュポーションをキャッチしにテレポートしてしまった。
(めんどくさい能力だな……)
”神速”で近づこうにも俺に触れられたらアウト。
距離をとって倒そうとしても、テレポートで回避されるので難しい。
スプラッシュポーションは全てキャッチされてどこかに飛ばされるしなぁ……
(ん?)
あいつの役割は魔素爆弾を守ること。
スプラッシュポーションが魔素爆弾に当たるのを防がないといけない。
今までの戦い方を見た感じ、スプラッシュポーションを一滴も触れさせない為に直接キャッチしているみたいだし……
(やってみるか……)
これは利用できるかもしれない。
俺は再びバトラーに向き直り、とある作戦を実行した。
「”エアストガトリング”!!」
「ほう? 数を撃てば当たるとでも?」
無属性の連射攻撃を放つ。
しかし、バトラーにはなんなくかわされ、攻撃はかすりもしない。
そんな事はわかってる。
これはもう一回煙幕を作る為に……
「”無砲天撃”!!」
「っ!? 爆弾を壊すつもりですか!?」
「そんなことしねーよ!!」
”無砲天撃”は爆発……せずにバトラーの後方で固まる。
そして、
「吸い込めっ!!」
「っ!?」
ズォオオオオオ!!
”無砲天撃”を中心にとてつもない風圧が巻き起こり、あらゆるものを吸い込み始める。
狙いは勿論、お前だ。
「私を吸いこもうと!? ですが”テレポート”が……!!」
「ほーう、そんな暇があるのかな?」
「っ!? スプラッシュポーションが!!」
バトラーが吸い込みから脱出しようと攻めあぐねている間に、俺はスプラッシュポーションを魔素爆弾に向かって再び投げる。
「させませんよぉ!!」
当然、ヤツはそれを防ぐためにスプラッシュポーションの元へテレポート。
すかさずキャッチしようとしたが、
「かかったな?」
そのスプラッシュポーションをキャッチする直前に、俺は無属性魔法でガラス瓶を粉々に砕いた。
「い、一体何を? ポーションの液体は届いて……うっ!?」
「魔素爆弾に執着しすぎたな? スプラッシュポーションは浄化だけじゃないんだよ」
スプラッシュポーションのかかった手を抑えながら、その場で苦しみ出すバトラー。
今投げたのは浄化、と見せかけて即効性の毒ポーションだ。
色も似てるし魔素爆弾に投げれば確実に引っかかると思ってたが、作戦成功。
これでヤツの動きは止めた。
「はぁ、はぁ……う、動けませんね……」
「殺すというより苦しめる為の物だからな」
「私を殺すんでしょう? でしたらお願いを一つ」
「なんだ?」
「私をギュッとしてキスしなが」
「うるせぇキモい喋んな」
ザシュッ!!
これ以上長引かせても、寒気がするだけなのでさっさと首に短剣を突き刺した。
最後まで俺を見ながら笑う姿はゾクッととしたが……ほんとなんなんだこいつ。
「さて、終わらせるか」
パリン!!
パリン!!
パリン!!
残りのスプラッシュポーションを魔素爆弾に投げる。
ガラスの割れる音と共に、魔素が浄化されていき、やがて爆弾から魔素が感じられなくなった。
「こっちも終わったぞ」
「え、実験部隊を全員倒したんですか?」
「私がいた時の方がもう少し骨のあるヤツはいたと言うのに……やれやれ」
リーダーの周りには電撃で気絶している実験部隊達が地面に転がっていた。
この人達はチームプレーのエキスパートだと思うんですけど……
一人で倒せるものなんですか?
ピコン!
ピコン!
ピコン!
「お」
ちょうど他の皆からも魔素爆弾の無力化が完了したとメッセージが来た。
これで全部完了。
うまくいってよかったー
「とりあえず自宅に集合……え?」
終わったので報告も兼ねたメッセージを送ったのだが、
『絶対に着替えないでね!!』
これが彼女達から送られてきた。
俺だけ苦難は続くらしい。




