第83話 新たなヒロイン(?)
「な、なんでリーダーがここに!?」
「ケイゼルと実験部隊がまた馬鹿な事をやり始めたからだ。それに、セリアくんと朝日くんを痛めつけた礼はしっかりしないと……なぁ?」
目が笑っていない。
これは相当頭にキているな。
リーダーからして見れば、大事な部下を一方的に苦しめられたのだから、怒って当然だ。
「というかよくここに魔素爆弾があるって分かりましたね」
「連中の動きは常に警戒していた。この辺りは出入りも激しかったし潜入して正解だったよ」
「終わったら二人に電話してあげてくださいね?」
「うむ!!」
極秘で動いてたから連絡が取れなかったんだろうな。
無事帰れたら真っ先に二人に報告しないと。
「まぁ、ヤツらが変な事をしだすのは昔から変わらないよ」
昔から? 言い方に妙な引っ掛かりがある。
「……何か知ってるんですか?」
「知ってるも何も、私は元実験部隊だ」
「え!?」
リーダーが元実験部隊!?
いや、思い返せばそれっぽい部分はあった。
リーダーの妙な圧とか、兄貴に対する強気な態度。
それに実験部隊を警戒していたという発言やこのSSランクダンジョンの監視を突破する能力など、リーダーは異様にハイスペックだ。
またすげぇ人と一緒にいるなぁ俺……
「昔はエリートなんて言われてクソ真面目にやってたよ。だけど、ある日暇つぶしに見たドッキリ番組が面白くてな……」
「それで宣伝部を?」
「うむ!! クソ真面目に任務をこなすより、クソ真面目に人を楽しませた方が良いじゃないか。まあ、本当は辞めるつもりだったが上から圧力をかけられてな?」
で、宣伝部を作ったと。
「さて、ここの監視網を突破する方法だが……」
「監視が多いですね」
俺達が行こうとしている建物は人の出入りが多く、なかなか近づけない。
正面突破しようとしても時間はかかるだろうし、どうしたものかな。
「そこで私は一つ作戦を考えた!! まずはその為に着替えを……」
「っ!? ちょ、な、なんでここで!?」
摩耶さんが急に自分の服を脱ぎ始めたので、俺は慌てて後ろを向いた。
なんで俺の周りは露出に抵抗のない人ばっかなんだよ!!
「ん? 私の貧相な身体で興奮するのか?」
「おたくの男の娘に俺は超興奮しましたよ」
「ハッハッハ!! 朝日くんも素敵な相手に出会えて何よりだな!!」
貧乳だろうが巨乳だろうが、好きな相手なら興奮するんだよ。
まあ朝日と出会うまで、男に興奮するとは思わなかったけど。
「おお、そうだ。無名くんの分もあるぞ」
「ん?」
そう言って服のセットを手渡される。
えーと?
丈が短めの白いキャミソールに革ジャン。
ミニタイトスカートとニーソにハイサイブーツ。
キャミソール以外は黒らしい。
後はカラフルなエクステに胸パッド、ピンク色のレディースブラとショーツ……
えっ女装するの?
「……これを着るんですか?」
「作戦の為だ。それにメイク等は私がするから安心したまえ!!」
「下着も?」
「見られない所までこだわるのが大事なのだよ?」
「拒否という選択肢は無いのね……」
俺が女装かぁ。
朝日から「しないんすか?」とたまーに言われてたけど、遂にこの日が。
なんだろう。着たくないというより、似合わなさ過ぎて事故を生みそうなのが嫌だ。
ただ作戦の為だし、リーダーも色々準備してくれたからなぁ。
「よし……」
覚悟を決めて俺も着替え始める。
途中、ブラやエクステの付け方をリーダーに教わりつつ、ぎこちない動きでなんとか服を着ていく。
そしてリーダーにメイクしてもらったのだが……あまり時間がかからなかった。
意外と似合っていたからナチュラルメイクで済ませてみた、とリーダーは言うが果たして。
手鏡を渡されたので、俺は自分の全身を遠目で眺める。
「……誰?」
クール系の美少女だ!!
なんで!?
レディースの服装だが、黒をベースにしたかっこいい系で揃えており、男性らしい体格がむしろメリットに昇格されている。
元々身長も高く童顔って感じでもなかったので、かっこいい系の女装とはかなり相性がいいみたいだ。
あまりにも似合いすぎて、自分でも見とれてしまう。
「無名くんの顔立ちはいい方だし、こーいう路線の女装はかなり似合うと思っていたんだ。可愛い系の朝日くんとは違った感じでいいだろう?」
「女装に目覚める人の気持ちがわかったような気がします……ていうか、リーダーも随分印象変わりましたね」
「ふっふっふっ!! テーマは外国の幼女だ!!」
対するリーダーは茶色の髪を金髪のウィッグで覆い、目に青いカラコンを入れていた。
服装も普段よりやや幼めの物を着ており、パッと見で小学生に間違えられてもおかしくないと思う。
「私は可愛い系で無名くんはかっこいい系、確実にヤツらには刺さるだろう!!」
「ああ、女の子の格好で油断させようっていう」
「そういう事だ!! あ、かっこいいだけだと可哀想だから下着は可愛くしておいたぞ?」
「いらない配慮をありがとうございます……」
勢いで履いちゃったけど、レディースの下着って凄い心もとないな……
タイトスカートだからヒラヒラした感じがなくてまだマシだけど、下がスースーするし普段の服よりお尻のラインが出て少し恥ずかしい。
と、リーダーが俺に近づいてパシャリと自撮りをし始めた。
「どこに送るんです?」
「ん? 宣伝部のグループSNSだ。というかもう送った」
「はぁ!?」
パッと画面を見れば「金髪幼女とかっこかわいい”無名ちゃん”、ここに参上!!」と写真付きで投稿されていた。
宣伝部って事は確かセリアと朝日も見ているよな?
て事は……
ピコン!!
ピコン!!
『えっ!! ダーリンめっちゃ可愛くない!? 後でもっかいやって!! byれな』
『↑って言ってたわよ。ていうかにぃに凄く似合うわね……今度からねぇねって呼んでもいい? byセリア』
『パパがママになった? でも、これはこれで好き。凄くキュンとした。 by真白』
『まっしー凄く照れてたっすよ〜!! 後、パイセンといつか女装デートとかしたいっす。 by朝日』
あーあ、家族全員に見られちゃったよ。
宣伝部を二つのチームに分けたから、グループSNSに入っていないれなと真白にも見られちゃったし。
内心バックバクで凄く恥ずかしい。
きっと帰ってきたらこの件で色々詰められるんだろうなぁ。
「大好評でよかったじゃないか。あ、服装やメイクのコツも後で送るよ」
「……助かります」
ここに来る時より疲れたかもしれない。
とはいえ、まずは作戦だ。
別に遊びで女装した訳じゃないんだからな。
……まぁ、少し楽しかったけど。




