第82話 潜入
「どこまで続いてるんだ……」
気配を消しながら階段でゆっくり降りていく。
中は暗くて細い。
突貫工事で作られたからか、一本道がずっと続いていた。
ちなみに隠し通路の事はみんなにもメッセージで伝えてある。
他のダンジョンにも似たような場所があるだろう。
「でさー、あいつが……」
(まずいっ!!)
人の声がした瞬間、”影隠し”で身を隠した。
階段を降りているのは俺だけじゃないのか。
前方へやや素早く近づくと、楽しそうに話しながら歩く二人組の男が目に入った。
(どうする……?)
アイツらにバレるのはまずい。
この通路を歩いてる以上、魔素爆弾に関する情報を持っているのはほぼ確定だし、何より他の部隊に連絡されるのが一番厄介だ。
連中に気づかれて他部隊に連絡して爆破を早める、なんて最悪な事態も……
”影隠し”の効果は無限じゃない。
決断が迫られている。
(やるか……)
短剣を取り出し、ゆっくり背後へと近づく。
二人組と俺との距離は約5m。
俺は懐から水の入った瓶を取り出すと、軌道を見られないよう遠くの方へ放り投げた。
パリン!!
「ん、なんだ?」
「前に誰かいたのか?」
ガラスが割れる音に気づき、二人組が早歩きで移動し始める。
その動きに合わせて、俺も移動する。
「瓶? 何か入ってたのか?」
「地面が濡れてるから液体だとは思うが……」
なんだろうなーとガラス片の飛び散る地面を中心に座り込む。
破片を持ったり濡れた地面に触れたり。
色んな事を試しているが何一つ分からない。
(今だ……)
その無防備に調べ物をしてる瞬間を狙われているとも気づかずに。
「がっ!?」
一人の腹部に短剣を突き刺す。
同時に”影隠し”の効果が切れ、俺の姿が露になる。
その不自然な現象に、もう一人の男が気づいた。
「てめっ……んぐ!?」
「黙ってろ」
腰から剣を抜こうとした瞬間、”神速”で距離を詰めて口元を手で押さえつける。
もがもがとジタバタする身体を上にあげ、そのまま地面へ勢いよく叩きつけた。
「な……にもの……だ」
突き刺された男が微かに声をあげたので、心臓部を思い切り踏んで気絶させた。
とりあえず、敵は片付いた。
俺は二人の懐を漁り、何かないか軽く探した。
が、目ぼしいものは何も持っていない。
残念。
「先をいそごう」
再び下まで進んでいく。
会話の感じから、二人はここに行き慣れているようだった。
つまり、SSランクダンジョンでケイゼルや闇配信者が頻繁に出入りしていると言う事。
前に来た時に察することが出来たらなぁ、と考えても仕方ない後悔をしていると扉が目の前に現れた。
(さて、どうするか)
前みたいな正面突破では他に情報が漏れてしまい、爆破を早めるリスクに繋がる。
かといって俺のスキルで一切の気配や物音を消すのは不可能だし……
(ここは”影隠し”を応用してみるか)
”影隠し”は絶対に使う。
けど、”影隠し”だけで突破は出来ないので……
まずはスマホを起動させ、とある動画を探した。
俺の需要にピンポイントな動画は……あったあった。
「まずは……」
コンコンと扉をノックする。
物音を立てれば、当然中にいるヤツらが気づく。
「誰だ?」
「例の二人が着いたのかもしれねぇ。俺、様子見に行ってくるわ」
いいぞ、そのままこっちに来い。
扉奥にいると思われる男達がこちらに近づいてくる。
ドアノブに手をかける音が聞こえ、そのまま更に扉が開いたのだが
「あれっ、いない?」
表に出てきた男の視界には何も映っていない。
正確に言えば俺がいるのだが、”影隠し”で姿を隠している為、気づかれることは無い。
ただノックの音をヤツらは不審に思うはず。
「何かいるな……」
「ああ」
ドアから離れる二人。
そして入れ替わるように前に進む俺。
このまま通り過ぎてもいいが、それだと二人の疑念が晴れない。
ちょっとした事で侵入者が来たと繋げてしまうかもしれないからな。
という訳で扉の奥へ入るのと同時に最後の仕掛けを起動。
「にゃーん」
「なんだ猫か」
「こんな所にもいるんすねー」
これで原因を作り出す事が出来たな。
予想以上に上手くいって俺もびっくりしている。
ちなみに仕掛けだが、遠くの方にワイヤレスイヤホンを設置し、そこから猫の鳴き声を流しただけ。
二人は完全に猫の仕業だと信じているみたいだし、問題はなさそうだ。
作戦の成功を確認した後、俺は更に奥へと進んでいった。
(なんだここ……!?)
そこには驚きの光景があった。
ダンジョンの中に施設が!?
いくつもの建物が建設されており、当たり前のように人が行き来している。
ここで魔素爆弾の研究や設置場所ついて調べてたんだな……
(えーと、魔素爆弾の位置は……もう少し下か)
あの階段だけでは、爆弾の位置までたどり着けないらしい。
俺は物陰に隠れながら、人の通りが多い場所を探り、魔素爆弾を探し始めた。
右は……全く人がいないから違う。
中央は……デカいけど工場って感じだ。
左は……ん?
何もなさそうな一軒家なのに、何で人があんなに出入りしてるんだ?
(あそこだな……)
恐らく何かがある。
俺は足音を消して、ゆっくりゆっくり左へ移動しようとしたのだが、
(っ!?)
突然、何者かによって壁に押さえ付けられた。
連中に勘づかれたか!?
ここは一旦大人しくして、少し経ってから不意打ちを……
「ドッキリ大成功だな、音梨くん」
「リ、リーダー!?」
な、何で笹月リーダーがここに!?
全然連絡取れなかったのに!!
心配していた割に元気そうなリーダーの姿を見て、俺は驚きのあまり固まってしまった。




