第78話 社長の思惑
「……まじかよ」
ガクリと膝が折れる。
なんなんだよお前らは。
セリアや朝日だけじゃない。
れなや真白の両親まで奪いやがって。
家族を苦しめすぎだろうが……!!
「ア、アタシらの両親を殺したのはケイゼル……?」
「……間接的に言えばそうっすね」
「信じたくないけど、データは嘘をつかない」
何度も見返した。
嘘情報はないか、見間違いではないか。
しかし経緯や結果などあらゆる項目が詳細に記載されており、全て真実である事を受け入れざるを得なかった。
「パパ、お外に出てもいいよ?」
「真白……」
「真白達は真白達で気持ちの整理を付ける。だからパパにも落ち着く時間を作ってあげたい」
「ありがとう」
好意に甘え、俺は店を後にした。
ーーーーーーーーー
「……」
人通りの少ない路地。
”音梨”という家が新しい家族に与えた罪が俺に重くのしかかる。
その重りは歩みを遅くさせ、時間さえも忘れさせた。
(俺はどうしたらいいんだ)
ヤツらのやった事は許せない。
これ以上野放しにしておけば多くの人間が犠牲になり、亜人の多い俺たち家族に何度も魔の手が迫るだろう。
問題は自分の立場を受け入れられるか、だ。
俺は何もしてない。
ダンジョンブレイクにも、レギオンの製造にも一切関わっていない。
だが世間は俺を許すのだろうか?
”音梨”を背負った、俺という存在を。
「ん?」
スマホのバイブが鳴っている。
画面を開くと、通知欄にニュースが掲載されていた。
あー、そうだ。
通知切るの忘れてた。
たまにしか来ないし後で切らないとって思ってたけど、今日こそ設定を……
”ケイゼルインダストリーの記者会見を生中継でお届けします”
(このニュースは……)
そっか、ネット上にバラまいた情報を重く捉えて、緊急記者会見を開くんだ。
どう言い訳するか気になるし、気晴らしに見てみよう。
『この度は我が息子、音梨優馬が起こした数々の不祥事について、大変申し訳ございませんでした』
生中継を開くと大勢の記者達に囲まれながら頭を深々と下げる父さん、音梨和也の姿があった。
本当に申し訳ないという気持ちはあるのか?
今までの愚行を知っている俺は、どうしても父さんに対して素直な気持ちで見れない。
『ダンジョンブレイクを起こしたという事実は本当でしょうか?』
『この件につきましては専門家や社員と連携し、一つ一つのダンジョンを細かく確認していこうと思っております』
『人間を魔力電池にする行為というのは非人道的なのでは?』
『そこに関しても実験部隊の暴走を喰い止められなかった私の責任です』
『魔銃の規制緩和が目的とは本当ですか?』
『恐らく日本での業績が低迷している為に行った事だと思います。この辺りも実験部隊や研究者たちに事情聴取を行う予定です』
上手い事”自分は把握してなかった”という雰囲気を出しているな。
あれほど大規模な計画は事業への影響も大きいだろ。
社長である父さんが把握してない訳がない。
嘘をつきやがって。
その後も記者達による質問攻めは続き、父さんはそれら全てを淡々と返していった。
途中、頭のおかしい質問や急に自分語りを始める記者もいたが、それらへの対応に頭を悩ませる父さんの姿は見ていて面白かった。
『質問は以上ですか? それでは……』
司会が次の議題に移ろうと進行しようとした時だった。
(ん?)
急に父さんが手をあげた。
何だ? 記者に何か物申したい事でもあるのか?
『一つ、発表があります』
会場内がザワザワする。
『我が社はレギオンという新兵器を開発しました。ですが、あれは日本で運用する為の規制対応版です』
『そ、それは人の命で動かす兵器だろうが!!』
『そうだそうだ!!』
野次馬にも屈せず、父さんは話を続ける。
一体何を考えてるんだ……?
『こちらをご覧ください』
パチンと指を鳴らすと会場内の電気が消える。
そして正面のプロジェクターに映し出されていたのは、例のレギオンだった。
が、俺が見た機体と違う。
『これは海外で試験運用された完全版のレギオンの映像です』
完全版だって!?
確かに口元や肩部などにあらゆる銃火器が取り付けられている。
あの全てが魔銃なのか?
『では、どうぞ』
レギオンが歩き出す。
向かった先は……街?
だが人の気配は一切なく、廃れた場所だと言う事がすぐ分かった。
『ピピピ……戦闘準備……』
レギオンのシステム音声が鳴ると、口元がガコンと開き大砲ぐらい大きな銃口をむき出しにした。
更に肩や腕部に取り付けられた銃火器も全て街へと向けられる。
そして
『”消滅”』
「っ!?」
ビィイイイイイイイイイイイ!!
再びシステム音声が流れた瞬間、極太のレーザービームが口元から放たれた。
レーザービームが触れた建物は一瞬で焼却され後も形も無くしていく。
「嘘だろ……」
ドゴォン!! ガゴォン!! ズドォン!!
レーザー、ミサイル、ガトリング等……
あらゆる魔銃から弾が発射され、街中が次々破壊される。
レギオンの攻撃が止まった頃には、街は瓦礫すら残さない更地と化した。
『これが我が社の技術です。完全版のレギオンが一体いれば、街一つ消すのはたやすい』
こんなバケモノみたいな兵器を作ってたのかよ。
ロボット系の兵器はいくつもあるが、ここまでの物は始めて見た。
これが広まってしまえば、世界中のパワーバランスが一気に崩壊してしまう。
緊張と震えが止まらない。
『こ、こんな兵器を作って、戦争でもしたいのか!?』
『えぇ』
は?
今、うなづいた?
父さんは戦争をやろうとしてるのか!?
「私には一つ考えがありましてね……とある企業に征服される日本、というプロモーションを」
どこに向かおうとしてるんだ。
壮大かつ現実離れした計画に脳内の処理が追いつかない。
『レギオンを欲しがる国は山ほどあるでしょう。例えどんな経緯を得たとしても、この破壊力に惹かれない人間がいないとは思いません』
発言の一つ一つを理解する度に全身から寒気が走る。
レギオンで戦争、いやこの場合はテロか。
とにかく、テロを起こせば世界中がレギオンに注目が集まる。
当然批判は集まるし、アメリカ等の大国はレギオンを買おうとしないハズだ。
だがレギオンを欲しがる国は絶対現れる。
「既に政府や財閥に関わる一部と交渉が進んでいます。時が来れば……分かるでしょう」
恐らく規制緩和派の人間達だ。
征服後の日本で魔銃を解禁し、レギオンを大量配備させて全世界に圧力をかける。
レギオンに押され、大国も対抗するべくこっそりレギオンの輸入だって……
『では、日本の皆様にもレギオンの素晴らしさをお見せしましょう』
『ピピピ……』
「っ!?」
ドガアアアアアアアアン!!
突如、壁が壊されると会場内にレギオンが出現した。
さっきの映像と同じ完全版か!?
まさか直接見せてプロモーションを?
『ピピピ……排除します……』
と、思っていたが俺の考えは甘すぎた。
レギオンが頭部のモノアイを動かし、足元の記者を捉えて再びシステム音を鳴らす。
そして銃口が記者に向けられると、
バララララララララララッ!!
『キャー!!』
『うわあああああああ!!』
『助けて、助けてくれぇ!!』
弾丸が一斉掃射された。
泣いて叫んで逃げ回っても、レギオンの弾幕からは逃れられない。
『ガハッ……』
『な、んで……』
記者達は弾幕の雨に巻き込まれ、次から次へと命を落とし、身体が崩れ落ちていく。
「……」
一方的な虐殺。
罪を次から次へと重ねていくケイゼルの姿。
気晴らしのつもりで見た映像は、俺の心に再び暗い闇を落とす。
『素晴らしいプロモーションを、ありがとう』
何が素晴らしいだ、クソッ。




