第75話 真の目的
「何故レギオンを作った?」
「……他国の兵器会社を圧倒する為だ。日本では規制が多くて技術で遅れを取っているからな」
「人間をエネルギーにしてでもか」
コクリと頷く。
確かに日本は魔法関連の規制が多い。
アメリカ等では下級レベルの魔法であれば自由に使え、魔銃に関しても一般に普及している。
日本は外で魔法が使えないし、使う際も複雑な手順を得て許可を取らないといけない。
100年前の技術で戦ってる、なんて外国メディアにバカにされてたしな。
「実際、魔力電池はアメリカや中国ですら量産が出来ていない。ここで量産化が出来た我がケイゼルの名を売れば……」
「命を犠牲にしたエネルギーだろうが!!」
「ガフッ!!」
自慢げに語る兄貴の顔面をぶん殴る。
「ふん、随分と乱暴だねぇ……」
「次だ。何故ダンジョンブレイクを起こした」
「理由は二つ。まず一つ目はレギオンのプロモーションの為だ」
「だろうなぁ」
ダンジョンブレイクの時、こいつらは異様な行動が目立った。
やけに早い到着。
何故か投入された新兵器。
あまりにもご都合すぎる展開だ。
「実際、あの後レギオンを欲しがる企業は爆増したよ。魔力電池含めて販売すれば多額の収益を叩き出すだろうね」
そこも含めて考えてたか……
モンスターを一掃する破壊力とそれを動かす魔力電池の存在。
推定でも何百〜何千億円を軽く超える収益は叩き出すだろう。
「そして二つ目は……この国の規制を無くす為だ」
「は?」
だが、金の話なんかどうでもよくなる程の目的が隠されていた。
「何故規制が無くならないと思う? 規制があっても対処が出来るからだ。しかし、それでは技術は進歩しなきし新しい武器も作れない。だから作るんだよ……対処できない”災害”を」
「ケイゼルは大企業、規制があっても武器は作れるだろ?」
「いやぁ、最近はずっと下降気味さ。規制の影響で武器開発に支障が出ている。他国では魔銃関連の新兵器がブームだしね」
「だったら外国に支部でも作れよ……」
「作ってるしやっている。ただ本社ほど力を入れられないのが現実さ」
詳しい事情は知らんがやる事はやった感じか?
だからといって、人命を犠牲するやり方を良しとはしないが。
「あのダンジョンブレイクで何が起きたと思う? 日本でも魔法規制を緩和しないか話が出始めたんだ」
「まぁ、あれだけの災害が起きればなぁ」
「ふふふ……」
「何がおかしい」
今のどこに笑う要素があったんだ。
(待てよ……)
ダンジョンブレイクによる規制緩和を狙っているんだろ?
なら、こいつらにとってダンジョンブレイクは起こせば起こす程、得になる。
前は池袋ダンジョンのみの発生だった。
だけど……
「お前ら”複数”のダンジョンで何か仕掛けようとしてないか?」
「面白い事を言うねぇ無名……すっごくよかったよ……」
「っ……言え!! お前らケイゼルは何を企んでいる!!」
身体を強く揺さぶり情報を吐き出させようとする。
兄貴は俺の必死な姿がツボにハマったのか、腹を抱えて笑い出す。
「ぐぅ!?」
そのナメた態度に腹を立てた俺は、短剣を再び突き刺して痛みと絶望を蘇らせた。
「……その通り。ダンジョンブレイクを各地で発生させる。これが実験部隊のやろうとしてる事だ」
「ふざけんな……これ以上人の命を弄んで、何がしたいんだ!!」
「僕達は強力な兵器が作りたい、ただそれだけさ……!!」
これが狂気に取り付かれた者達の姿か。
関係のない人達の命を奪ってでも、自分達の利益を求めようとする。
「ま、今のレギオンじゃ大規模なダンジョンブレイクには耐えられないけどね」
「は?」
ダンジョンブレイクに耐えられない?
プロモーションの為とか言ってなかったか?
わざわざ負け戦をやってまで、こいつらは何がしたいんだ。
「むしろ負けてもらわないと。全力を出したケイゼル実験部隊や日本の自衛隊が負けたという事実が必要なのさ」
「負けたら実験部隊の評判が下がるだろ。何のために……」
「言っただろう? この国の規制を無くすって」
規制を無くす為にダンジョンブレイクを各地で起こす。
で、実験部隊は全力を出して負けて欲しい?
目的が分からない。
レギオンで対抗できない存在を何故呼び寄せようとしている?
規制緩和が目的ならその規制が無意味である事を証明しないといけないのに……
ん?
規制が無意味である事を証明?
「まさか規制のせいで勝てないから?」
ニヤリと笑う兄貴。
そういう事か……!!
規制があるせいで日本のダンジョンブレイクに対処出来ない。
だから今後起こり得るであろう大規模なダンジョンブレイクに備えて、魔銃を含めた規制品の解除を狙っているんだ。
「いくら無名でも各地のダンジョンブレイクには対処できない……ターゲットにはSSランクダンジョンも含まれているからね」
「お前らでも対処できないダンジョンブレイクなんて何万、いや何十万人もの犠牲者出るだろ!?」
「仕方ないさ、無意味な規制が悪いんだから」
「だからって人の命を犠牲にしすぎだろうが!!」
再び拳を振るう。
もうダメだ。
こいつらは命を単なる道具としか扱っていない。
「……」
何故ここまで出来る?
何故ここまで人道から外れられる?
”音梨”に関わる人間が犯した罪の深さに、俺はただ呆然と立ち尽くすしか出来なかった。
「”テラー”!!」
「っ!!」
と、隙だらけの俺に兄貴の潜在スキルが喰らわされる。
「バカだねぇ!! これで形勢逆……」
「”エアストナックル”」
「がっ!?」
完全に勝ったつもりでいた兄貴の顔面を俺の拳がクリーンヒットする。
そのまま地面を滑って壁に激突し、再び静寂が訪れる。
「な、なんで”テラー”が……」
「恐怖より怒りの方が勝ってんだよ」
ガクンと気絶する兄貴。
こいつらは絶対許せない。
とりあえず集められるだけの証拠を集めて、情報を整えてからセリカと一緒に脱出しよう。
後、兄貴も連れていく。
ボコボコにしたいのは俺だけじゃないからな。




