第74話 VSクソ兄貴
「バトラーは手を出すなよ? こいつは僕がやるからさ」
「かしこまりました」
バトラーの姿が消える。
実験部隊の兵士達もいるが、兄貴の命令なのか銃を下ろして見守っている。
「”跳剣”!!」
「おっと!! いきなり攻撃とは酷いじゃないか」
「酷いのはそっちだろ」
”跳剣”が兄貴の眉間をかすめる。
不意打ちで放ったのにあの速度をなんなくかわすか。
無駄に強そうでめんどくさい。
「”アイスロード”!!」
「っ……地面が!!」
”跳剣”による連続攻撃を避けながら、地面を氷の大地に変えてしまう。
昔から氷属性の魔法が得意だったもんな。
あの時より更に磨きがかかってる。
「これでスピードは保てそうだねっ……!!」
「っ!!」
スケートのように滑りながらこちらへ迫る兄貴。
氷を生かした高速移動により一瞬で距離を詰められ、右手に貯めている氷魔法をド近距離でぶち込もうとしている。
「オラァ!!」
そうはさせまいと近づいた兄貴をアッパーカットで浮かせて距離を離した。
一瞬だけ兄貴を地面から離せた。
後は氷の地面をいじれば、
「”剣山”」
「へぇ、地形変化も出来るんだ……!!」
さぁどうする?
氷属性の魔法で飛ぶなんて聞いた事はないし大人しく喰らうか?
「”アイスロード”」
「!?」
が、兄貴は壁と壁の間を凍らせて道を作り、”剣山”の上に氷の地面を生成した。
「器用だな、随分と」
「少しヒヤッとしたけどね、氷だけに」
「なんにもうまくねぇよ」
寒気のするギャグだ。
「”アイスガトリング”」
ズババババッ!!
氷の槍が無数に襲いかかる。
それらを対処しながら俺は次の戦略を練り始めた。
(近づいたら”テラー”にやられる、かといって遠距離は決定打が少ない。どうしたものか)
俺の攻撃はどちらかと言えば雑魚を一掃するのに向いている。
単体での攻撃も強力といえば強力だけど、現状を打破するには少々物足りない。
「いい加減諦めたらどうだい? 無名もあの臆病な二人と同じ末路を辿るんだしさ」
「……臆病な二人?」
「水嶋セリアと夕暮朝日さ。僕の”テラー”に怯えて言われるがままさ。とっても惨めでかわいかったなぁ……」
その言葉で俺の”何か”がプチンと切れた。
「ざっけんじゃねぇ!! ”無砲天撃”」
「おっとー!! 慌ててるねぇ」
”無砲天撃”の直線攻撃をあっさりかわされる。
ヤケクソ気味に魔法を撃つ俺の姿が面白かったのか、ニタニタした表情で余裕そうな態度だ。
クッソムカつくなぁ。
けど、
(かかったな、クソ兄貴!!)
その油断が欲しかったんだよ。
「っ!? まだ”無砲天撃”が!?」
兄貴の後ろで”無砲天撃”を魔力の塊として固定化させる。
少し前、モンスターの軍勢を相手にした時のように。
爆発に身構えていた兄貴は異様な状況に混乱し、一瞬動きを止めた。
チャンスは今だ。
「吹き飛べぇ!!」
”無砲天撃”の魔力を一瞬だけ解放すると、凄まじい風圧で兄貴を吹き飛ばした。
その先には勿論、俺がいる。
「テラ……」
「”エアストキック”!!」
「ごぼっ!?」
潜在スキルの発動より先に無属性の蹴りを繰り出し、キャンセルさせる。
兄貴の身体は別方向に飛んでいく。
「もう一回!!」
「ぐぉ!?」
で、固定化された”無砲天撃”に飛んでいく為
「もう一回!!」
「ぐぉ!?」
再び蹴り飛ばして、
吹き飛ばして、
また蹴り飛ばして
これの繰り返し。
「おらぁ!!」
「ぐぼぉ!?」
「おるぁ!!」
「げぼぉ!?」
まるでラリーのようだ。
やればやるほど兄貴の身体が傷だらけになっていき、見るに堪えない姿になっていく。
「とどめぇ!!」
渾身の蹴りをぶつけ、”無砲天撃”に吸い込ませて爆発しフィニッシュ。
もう立ち上がれないだろ。
「が、は……そ、そんな馬鹿な……」
チッ、まだ動けるのかよ。
ふらふらした足で立ち上がり、俺に攻撃しようとゆっくり腕をあげようとする。
「まだ終わらせねぇ」
「へ?」
「セリアと朝日に与えた以上の苦しみを、お前に与えてやる」
だったら徹底的にやってやるよ。
「”跳剣”」
「あああああああああああっ!!」
生意気に攻撃しようとした両腕を斬り飛ばす。
これでもう魔法は使えない。
一応、大量出血で死んだら困るのでスプラッシュポーションを使って延命はさせるが。
「何故ダンジョンブレイクを起こした。何故こんな兵器を産み出した。言え!!」
「だ、れが……お前なんか……」
「ふんっ!!」
「ガハッ!!」
まだ強気な態度でいる兄貴の腹を短剣で思いっきり突き刺す。
途中、ポーションをかけながらじわじわと痛めつけ、自分が絶望的な状況であると認識させる。
「や、やだぁ、死にたくない……じにだぐない……!!」
おいおい、泣き始めたよ。
全く情けないヤツだ。
「一応、二人の命までは奪っていない。今後俺達に関わらないと約束するなら、今回は見逃してもいい」
「ほ、本当か!?」
「ただし、洗いざらい話せ」
「わ、わかった……」
甘い蜜にまんまと引っかかった。
これで分からなかったところが全部判明する。
さぁて、尋問タイムといこうか。




