第72話 もう大丈夫
(……何があった?)
朝日が帰って来てから違和感を多く感じていた。
苦しみを耐えたような表情。
何かを隠すような仕草。
そして僅かに靴やスカートにこびり付いた血の跡……
多分だけど、ケイゼルで二人に何かが起きた。
(さて、どうしようか)
今の状況は朝日に魔銃を突き付けられ、身動きが取れないといった所。
抜け出すのは簡単だ。
だが、根本的な解決には至らない。
朝日から事情を聞く必要がある。
「話を聞かせてくれ」
「っ……そ、それは……」
言葉が詰まる朝日。
何となく状況が読めた。
二人きりでも怯えている辺り、何かに監視されているな?
不審な行動を取れば、朝日にとって良くない事が起きる。
て事は、どこかに隠しカメラや盗聴マイクが……
「朝日」
「はい?」
「ちょっと失礼……」
銃口の下にある僅かな出っ張り。
俺はその部分を外し、机の上に置いた。
その後、スマホを取り出して文字を打ち込む。
内容は……
『周りの音を消して。銃は突きつけたまま、窓のない洗面所に移動しよう』
俺が見せた内容に朝日は頷き、ゆっくり移動する。
銃を突きつけられた被害者と犯人に見えるように。
おぼつかないように見える手つきで洗面所の扉を開ける。
そして二人が中に入り込んだ後、朝日はポロポロ涙を流しながら俺に勢いよく飛び込んできた。
「パ、イセン……うっ……ぐすっ……」
「よしよし……頑張ったな」
胸元で優しく受け止め、震える朝日の頭を撫でる。
「あーしは何も出来なくて、あーしがやらないとセリちゃんが殺されて、でも守る為にはパイセンを……!!」
「落ち着けって。ゆっくり聞くから、一つずつ話してくれ」
「は、はい……」
しばらく涙を流した後、朝日は過呼吸気味になりながら事情を話した。
ケイゼル実験部隊の施設。
量産されたレギオン。
レギオンを動かす為に犠牲となった人間達。
クソ兄貴の陰謀。
研究の為に拘束されたセリア。
朝日は俺を殺さないとセリアを殺しれな達を狙うと脅された。
事実、クソ兄貴の提案を渋った朝日の目の前で、セリアは何度も撃たれたらしい。
「ごめんなさい……本当にごめんなさい……」
話す度に再び涙の量が増えていき、かすれた声で自分の未熟さによる後悔の言葉を懺悔する朝日。
その悲惨な姿に俺は、
「許せねぇ……」
拳を強く握り締め、激しい怒りを抱いていた。
「よくも朝日を、セリアを酷い目に合わせやがって。オマケに使えない社員を無理やり魔力電池にしているだと? ふざけるのも大概にしろよ……!!」
「パイセン……」
「あぁ、怖がらせたか? ごめんな」
「大丈夫っす」
深呼吸し、膨れ上がる怒りを抑えて冷静になる。
状況は分かったし、今すぐ助けに行かないと。
セリアが殺されるまで余り時間は残されていない上に、連中が朝日の不審な行動にいつ気づいてもおかしくない。
だが、肝心のセリアがいる場所が分からない。
朝日はスーツの男の潜在スキルで移動してきたと言っているし、場所が上手く隠されている。
せめて手がかりがあればなぁ。
「ん?」
スーツの男?
そういえばあいつから封筒を貰っていたような。
懐から封筒を取り出し、封入された紙を何枚かめくると、
「相手は相当おマヌケだったらしいな」
「あ、それって実験部隊の居場所が書かれた……」
実験部隊への勧誘も兼ねて記載された住所。
スーツの男が秘匿事項って言ってたし間違いないだろう。
場所は……少し遠いがだいたい把握できた。
早速向かおうと、洗面所の扉に手を掛けた時だった。
「あれ? ダーリンと朝日ちゃん?」
「ここで何してるの?」
「二人とも帰ってきてたのか」
音を消していたから気が付かなかった。
ちょうどいい、ここで共有しておこう。
俺は二人に事情を話した。
朝日とセリアに起きた酷い仕打ちに二人は怒り、共感し、そして全てが話し終わる頃には、
「朝日ちゃん、頑張ったね」
「大丈夫、真白達がいる」
「れなち、まっしー……」
三人で抱きしめ合い、朝日を慰めていた。
「そういえば家の近くに怪しいヤツがいたからボッコボコにしたけど、もしかして?」
「それ、ナイス」
「ん? ありがと?」
監視を倒してくれたのか。
次の行動はかなり大胆だから、まずは監視を探して……と思っていたが手間が省けた。
行くなら今だな。
「れなと真白は朝日を頼む」
「ん、パパは?」
「”神速”で上空を飛んでセリアの元に向かう」
「「「え?」」」
俺の提案にぽかんとする三人。
ぶっ飛んだ方法なのは認めるが、高速かつ見つかりにくく移動するにはこれしかないんだよ。
警察に魔法使ってる所バレたくないし。
「じゃあ場所だけ送って欲しいかな? アタシ達も現場に向かいたいし」
「分かった、じゃあ先に行ってるから」
「ん!!」
「パパ、気をつけて」
二人に見送られながら、俺はベランダの窓を開け空中を見上げる。
まるでスーパーマンみたいな気分だな。
広い空を飛ぶって初めてだから内心ドキドキしている。
「パイセン……」
と、飛び立とうとする俺の元に朝日が近づく。
「朝日、どうした?」
「死なないで、ください……」
「……大丈夫だ」
ぎゅっと抱きしめる。
クソ兄貴の潜在スキルのせいで、恐怖で苦しんでいるハズなのに。
朝日は俺やセリアの事を一番に心配してくれる。
その優しさに胸が温かくなっていく。
「朝日」
「っ……はい」
朝日の為、セリアの為。
俺は再び生死をかけた人間同士の戦いへと向かう。
「後は俺に任せろ」
別れの言葉を告げた後、俺は勢いよく飛び立った。




