第70話 セリア視点・闇深きケイゼル
「魔力電池、それは魔力と電力を融合させた新たなエネルギーだ。しかし圧倒的なエネルギー量を誇る分、そのコストは凄まじいものでね……」
丁寧に魔力電池に関する説明をしてくれるが、ウチには一個も理解できない。
それは朝日も同じらしく、顔を真っ青にさせ震えながらカプセルを眺めていた。
「ネズミやモンスター等、あらゆる物を触媒に生成しようとしたがどうも効率が悪い。そんな時、偶然見つけちゃったのさ、”いらない人間”を」
コンコンとカプセルを叩きながら、平然とした態度で話を進める。
「偶然装置に入り込んだ研究員がとてつもない魔力エネルギーを放出してくれてね……あの時、僕達は奇跡が起きたと思ったよ」
それを事故じゃなくて奇跡と言ってしまうの?
その研究員が可哀想だと思わないの?
一つの悲しい事故が、彼ら実験部隊を狂った方向に進めてしまったらしい。
その事実に怒りの感情が沸き上がり、歯ぎしりを立てながら音梨優真の方を睨みつける。
「人間を捕まえて、魔力電池にしているの?」
「そうだ」
「この人達だって人生はあるのよ? 家族や大事な人達がいるのよ!? それを一方的に奪うなんて」
「許せないとでも?」
怒りの訴えをさえぎり、無理やり自分の話へと持っていかれてしまう。
「こいつらは我が社に不利益をもたらせたゴミだ。結果も残さない、与えられた仕事もこなせない、いつも逃げようとして失敗ばかりのゴミだ!! それを有効活用してやってるんだ、有難いと思って欲しいね」
「そんな……」
「あまりにも理不尽すぎるっすよ……」
この人達だって必死になって生きていたはずなのに。
どんな理由や事情があったのかは知らない。
でも、使えないからって
何も命を奪わなくてもいいでしょ!?
(この子、ウチよりも年下じゃない……)
ふとカプセルの中に目を向ければ、まだ高校生の面影を残した男の子が見るも無惨な姿にされていた。
ウチだってまだ若い部類だけど、この子はウチ以上に知らない世界があって、多くの未来を見る事が出来たのに。
ケイゼルという会社に入ったばかりに、その全てを奪われてしまった。
「ウチは比較的採用の基準を甘めにして、多くの社員に期待をしている。その期待に答えられないこいつらが悪いのさ」
これがケイゼルの闇。
これがケイゼルが抱えていた悪魔の正体。
新兵器を動かすという目先の欲望に駆られて、使えないと自分達で切り捨てた者の命を利用した。
「……け」
「あ?」
一歩前に踏み出す
「ふざけんじゃないわよ……」
非常な現実を
許してはならない罪深き行為を
「くだらない兵器の為に、みんなの命を利用していいワケないでしょうがあああああああ!!」
「セリちゃん!!」
絶対に許さないとばかりに
ウチは更に踏み出し、音梨優真へと拳を掲げて襲いかかる。
「”テラー”」
「「っ!?」」
だが、その攻撃をウチは無意識に止めてしまった。
「が……はっ!?」
「なんすか……この感覚は!?」
身体が動かない。
金縛りや痺れとか、そういうのじゃない。
音無優馬を認識した瞬間、先ほどまで感じなかった”恐怖”がウチの身体を動けなくさせている。
「ふふふ、喰らったね」
「ひっ……!?」
思わず後ずさりする。
なんでこんなに怖いの?
なんでこんなにも逃げ出したいの!?
音無優馬がまるで得体のしれない魔王のように感じてしまう。
「僕の潜在スキル”テラー”は喰らった者を恐怖状態にする。恐怖に蝕まれたら最後、僕の事が恐ろしくて恐ろしくて仕方ないんだよねぇ」
「こ、こないで……いやぁ!!」
逃げようとするウチの首を乱暴につかまれ、無理やり引き寄せられる。
「亜人から取れる魔力電池はまだ研究が少なくてねぇ、おかげでいいサンプルが手に入ったよ」
「あ……ああ……!!」
「セリちゃん……!!」
恐怖で身体が動かない。
抵抗したい、反撃したいという思いが心の奥底にしまわれていく。
「さて、ここから君たちに”提案”があるのだけど……」
本当の闇はここからだった。




