第68話 ここに来た理由
「念の為に言いますが、招待状は本当です」
「本当なのかよ……」
ピッと胸元のポケットから封筒を取り出して俺の方へと手渡される。
渡された封筒を警戒しつつゆっくり開けようとすると「別に仕込んでませんよ?」と当然の事を言った。
お前が怪しすぎるんだよ。
「何々……ケイゼル社員への勧誘?」
封筒の中に入っていたのは、”ケイゼルインダストリーへの入社のお知らせ”と記載された紙が一枚。
契約書とか、会社紹介のパンフレットとか、給与振込先の登録方法とか。
至って普通だ。
おかしい所はどこにもない。
「何が目的だ?」
「ただの勧誘ですよ。あなた程の実力者であれば、実験部隊のエースにだってなれますよ」
「実験部隊、ねぇ」
よく見たら実験部隊に入りたい方へって住所が記載された紙まで入ってる。
民間とはいえ特殊部隊。
こういうのって極秘事項かと思っていたが、案外一般公開されてるものなのか?
「あ、晒さないでくださいね? 配信とかに間違って載せられたら困るので」
「俺は暴露系じゃねーよ」
いや、極秘情報なんかーい。
どんだけ俺に肩入れしてるんだ。
「悪いがお断りさせていただく。今更ケイゼルと関わるつもりはないし、俺は今の居場所が気に入っている」
「そうですか……残念ですが仕方ありませんね」
「? 随分あっさりしてるな」
「ゴネても仕方ありませんしね。なので」
腕を構え再びさっきと同じような殺気を放つ。
「本性を現したな?」
「ええ、実力行使というのも悪くないでしょう?」
「それが大企業の判断、なのね」
対する俺も構えを取る。
高層マンションに囲まれた平地。
ここはダンジョンではない。こちらが先に魔法を使えば法的にアウト。
故に正当防衛を成立させる為にも、相手の攻撃を魔法無しで対処しなければならない。
「では……いきますよ?」
Aランク帯では魔法無しで戦えたんだ。
相手の先制攻撃より二、三手早く動けるように、動きの最適化と読み合いを……
「って言いたいのですが、本気で戦うと逮捕されるのでやめましょうか」
「やめるんかい」
スっと構えを解くスーツの男に思わず力が抜けてしまう
なんだったんだよこの時間。
「はぁ、何度も殺意を向けてくるのはなんだ? 俺を試しているのか?」
「それもありますが、一度お話をしたかったんですよ。勧誘に関しても明日、ケイゼル社員一同で集会を開く予定もありますしちょうど良いかと」
「集会?」
何か発表でもあるのか?
全社員対象とは随分、派手な集まりな事で。
って事はセリア達もじゃん。
結構メンタルやられてるのに大丈夫かな。
「ですが断られてしまっては仕方ありません。今日はこの辺で引くとしましょうか」
そう言い残すと、スーツの男はクルッと後ろを向いて歩き始めた。
意外と素直に帰ってくれるんだな。
勧誘と言うからには結構粘って来そうなイメージだったが……もしかしたら勧誘はオマケでメインは俺と話す事だったのかもしれない。
「最後に一つだけ聞かせろ」
ただ、俺としては少し気になる事がある。
「なんですか?」
「この封筒、郵送でよかったんじゃないか?」
「……企業秘密ですので」
結局それかよ。
本当はセリアに関する事で聞きたかったが、あれも一応”秘密”だからな。
他ケイゼル社員に知られたらセリアの立場が危なくなる。
ま、とりあえず無事に終わって何よりだよ。
――――――
「ただいまー」
「ダーリン!! 大丈夫だった!?」
「あぁ、ケイゼルへの勧誘だけだったよ。少し警戒しすぎたかもな」
「警戒するに越したことはない。パパは正しい判断をした」
俺の姿を見て安心した四人がベッドやクッションを元の位置に戻していく。
特に荒らされた形跡は無さそうだな。
俺が下で話している間に上を襲撃、なんてヤツらならやりそうだったし。
「それが勧誘の手紙っすか?」
「あぁ、何でも明日は全社員合同の集会があるからちょうど良いってさ」
「集会? そんな話、あーしらには……ってメール見たら来てたっす」
やっぱり朝日たちも呼ばれていたか。
全社員対象と言うのは本当だったみたいだな。
で、問題はセリアだ。
「セリア、大丈夫か?」
「もう大丈夫よ。にぃにがいない間、皆がずっと励ましてくれたから」
ここを出る時より表情に柔らかさが戻っている気がする。
皆のおかげ、とは言ったがセリアだってその思いを受け止めて前を向こうとしている。
その背中を俺も支えてやりたい。
「セリア」
「へ!?」
セリアを引き寄せ、胸元で優しく抱きしめる。
「また何かあったら、いつでも相談してくれよ?」
「う、うん……」
ここで過ごして分かった事だが、皆は俺に抱きしめられたり、撫でられたりするのが好きらしい。
それぞれ反応は違うがやる度に喜んでくれるので、俺も自ら積極的にやるようにしている。
抱きしめるのが好きなのもあるけどね。
しばらく抱きしめた後、セリアから「もういい」と言われたのでそっと身体を放した。
「くふふ〜♪ それじゃ、お疲れのダーリンにはご褒美をあげなきゃね♡」
「うおっ!?」
セリアから離れた瞬間、両手に柔らかい感触が。
知っている、この感触を俺は知っているぞ。
程よい弾力と手に収まらない程の大きさ。
これはまさしく……
「胸!!」
全男子の夢が詰まった女性の胸。
しかも家族の中でも圧倒的なサイズを誇る、れなの巨乳だ。
「あったり〜♪ 今日はノーブラだから純度100%のお胸だよ♡」
「やっぱりれなの……ってノーブラ!?」
確かに前に揉んだ時より柔らかさをダイレクトに感じる気がしてたけど、本当にノーブラなのかよ!!
れなの大胆過ぎる行動に俺は動揺してしまう。
が、もみもみとれなの胸を味わう俺はやはり欲望に素直なのだろう。
「な、なななにしてんのよ!? ノーブラなんてはしたないじゃない!!」
「セリアちゃんも元気になってきたね~♪」
「相変わらず話を聞かないわねぇ……!!」
セリアが怒りだし、れなを追いかけまわす。
いつも通りの日常が戻ってきた。
この日常を守れるように全力を尽くそう。
「あ」
そういえばケイゼルの”集会”って何をするんだ?




