第64話 温かい家族
「この辺はモンスターもあんまりいないわねー」
「前線は実験部隊が戦ってるからな。そうそう見る事はないだろ」
実験部隊から離れた後、俺達は効率よくモンスターを狩る為、二手に別れた。
一つは俺とセリア。
もう一つがれなと真白と朝日だ。
索敵が得意な俺とれなをチームの主軸に置き、サポートを貰いながら戦うといった感じ。
割とバランスよく別れたんじゃないかなーと思ってる。
「グォオオオオオン!!」
「っと!! 早速現れたか!!」
左斜め前からモンスターの遠吠えが聞こえた。
俺達が声の方向へ駆け寄ると、目の前は瓦礫が積み上がっており、先が全く見えない状態だった。
あの奥にモンスターがいるんだな。
俺はグググッと拳に力と魔力を込めると、瓦礫に向かって勢いよく拳を振った。
バゴォーン!!
「よしっ!!」
「相変わらず桁外れの力よね。どうなってるのかしら……」
亜人でもないのに、と苦笑いを浮かべるセリアを後ろに、瓦礫の奥へと進んでいく。
一応言うけど、魔力込みの威力だからね?
「あ……う……」
「ママ!! ママァ!!」
「レッドドラゴンか!! くそっ!!」
マズい!!
母親がモンスターに食われかけてる!!
娘の方はモンスターに怯え、愛する母親をその場で叫び続ける事しか出来ない。
「はぁああああああああ!!」
俺はすかさず”神速”を発動させると、一瞬でレッドドラゴンの首元まで近づき、スパッ!! と首を斬り落とした。
首を斬り落され、重力によって落ちていく母親の身体を素早くキャッチ。
内心焦りながら脈拍を測ると、僅かだがトクントクンと動いているのを感じた。
「母親はまだ生きてる!! 後は……」
「ウチに任せて!!」
そう呼びかけるセリアの元へ抱えた母親を運ぶ。
地面に優しく寝かしつけた後、セリアはカバンからオレンジ色のポーションを取り出し、母親の身体へボトボトと掛け流した。
なるほど。
外傷が酷いから先にスプラッシュポーションである程度回復させるのか。
母親の身体が光に包まれ、傷口が少しづつ塞いでいく。
「もう大丈夫よ。ほら、これをゆっくり飲んで」
「んくっ……んく……」
母親の身体から生気が戻ったのを確認すると、今度は緑色のポーションを取り出し、母親の口元に運んぶ。
量は僅かだが減るスピードが遅い。
それでも少しづつ無くなっていくポーションと母親をじっと見守りながら経過を観察した。
「あ……動ける?」
目をゆっくり開き、確かめるように手足を動かす母親。
よかった、もう大丈夫みたいだ。
母親が元気になった姿を見て、呆然としていた娘が飛び上がり、急ぐように母親の元へ駆け寄った。
「ママァ!!」
「心配かけてごめんね、貴方は大丈夫?」
「うん!! 私は平気だよ!!」
「そう、それならよかった」
涙と絶望に包まれていた親子が笑顔になっていく姿。
いいなぁ、こういうの。
「ありがとうごさいます。貴重なポーションまで使って頂いて……」
「いいのよ、命に比べたらこんなの軽いものだし」
ウインクしながら子供を撫でるセリア。
あのポーションがそれなりの値段する事を俺は知っている。
それでもセリアは目の前の親子が助かるなら、と貴重なポーションを二つも使った。
本当に優しくていい子だ。
「猫耳のおねーさん!! これあげる!!」
「んー? これは?」
子供から手渡された物。
それはおもちゃのビーズで作られたであろうブレスレットだった。
「ママがね、助けて貰った時はちゃんとお礼しなさいっていつも言ってるから!!」
「え? でもこれ、凄く大事なんじゃないの?」
確か、あのブレスレットはさっきまで子供の腕に付いていた。
思い出の品か、大好きな物のような気がするが……
気まずそうにするセリアを前に、母親がふふっと微笑む。
「貰ってください。その子にとって、それが一番のお礼ですから」
「本当にいいの?」
「うん!!」
思いやりのある人達だな。
子供は親の言う事をしっかり聞いて自分に出来る最善のお礼をしているし、母親はその子供の考えを尊重してくれる。
これが温かい家族の姿か。
俺が知っている家族とは真逆で、理想が詰まったような存在だ。
「ありがと、大事にするわね♪」
嬉しそうに、セリアは貰ったブレスレットを腕に付けた。
ーーーーー
「にぃに」
親子を安全な場所まで送った後、セリアがブレスレットをしまいながら俺に話しかける。
「ん? どうした?」
「ウチ、ああいう家族って羨ましいなって思うの」
「あー、そうだな。俺もああいう親に囲まれてたら、もう少し幸せだったと思うよ」
俺の家族はあの人達とは真逆だ。
親父には見捨てられ、兄貴には見下され、母親は……あんまり覚えていない。
ただ記憶がないって事は、印象深い出来事はなかったんだろうな。
「ウチはあんな家族が欲しい。温かくて、尊重し合えて、毎日が楽しいって思える、素敵な家族を」
「いいんじゃないか? セリアなら出来ると思うし」
「ほんと?」
心配そうな顔で俺を見る。
家族がいた経験がないからだろう。
自分は家族という存在をうわべでしか知らない。
自分が求める家族というのは理想の塊で、現実はもっと上手くいかない事や辛い事がたくさんあるんだって。
家族がいなかった自分に、家族が持てるのだろうか?
そんな所か。
セリアの不安を読み取った俺は、にやりと笑いながら彼女の頭を優しく撫でた。
「そりゃあ全てが計画通りにはいかないだろ。でもさ、セリアが理想を求め続ければいつか叶うと思うんだ」
「にぃに……」
「それに、俺はれな達の事を家族みたいなものだと思ってるしさ」
「うん……え?」
目をぱちくりとさせ、その場で静止するセリア。
「もしかして、その家族ってウチも入ってる?」
「勿論」
「へ……あ、あう……」
あらら、顔を真っ赤にして地面に座り込んじゃった。
どうやら自覚がなかったらしい。
あーでも、俺がちゃんと伝えられてなかった部分もあるか。
全部終わったら改めて話し合おう。
「セリアは俺達と家族なのは嫌か?」
「い、嫌とか、そういうのじゃないわよ。賑やかで楽しいし、温かい場所だって思い始めていたから」
「ならよかった」
立てそうか? と手を差し出すと、がしっと掴んで立ち上がるセリア。
「でも」
「ん?」
「それだとウチの夢、叶ってるようなものじゃない」
かもな。
俺だって今の”家族”といるのは凄く幸せだし。
心の底から大好きだし、守りたい居場所。
多分、セリアもそう思ってるだろ?




