第63話 最強の兵器
『標的を確認、排除します』
一定のトーンで発せられる電子音声と共にロボットが動き出す。
ギギギッと機械に圧力がかかったような音を出しながら足をしならせると、ロボットは大きく飛び始めた。
「なんだあの動き!?」
まるで生き物のように滑らかで素早い動き。
バッタのようにロボットが自由自在に飛び回る。
ロボットが徐々に兵器として運用され始めているという話は聞いていたが、ここまで進んでいるのか。
着地と跳躍を何度も繰り返し、足元にいるモンスター達をグチャグチャに踏み潰す。
だがモンスター達もやられてばかりではない。
新たな驚異にターゲットを向け、各モンスターが魔法を放って応戦し始めた。
カンッ
コンッ
キンッ
『ピピピ……』
しかし、ロボットには傷一つ付かない。
頭部にある赤いモノアイから不気味な音を鳴らしながら、ロボットは同じ行動を取り続ける。
そして再び音声が流れた途端、
『ウォーターレーザー』
ズバァアアアアアアアアアア!!
口元がガコンと動き、ポンプの注ぎ口のような物が現れたかと思えば、高圧力の水が周囲のモンスター達を一瞬で斬り裂いた。
「あれが”レギオン”……」
「レギオン?」
「兵器の名前よ。ウチの開発部が極秘にロボットを作ってるってウワサがあったけど、本当だったのね」
あのロボットを作ったのはケイゼルか。
武器にとどまらずロボットまで作り出すなんて。
あまりにも一方的すぎる戦いに俺は身震いしていた。
「どうだい? これがケイゼルの最高傑作さ」
いつの間にか兄貴が近くにいた。
兄貴に続いて武装をした兵士達がぞろぞろとモンスター達の方へと武器を構え、攻撃態勢を整える。
ケイゼルの兵器があるのなら、実験部隊である兄貴と兵士達もいて当然か。
会いたくなかったけど。
「魔力搭載型決戦兵器”レギオン” ケイゼルインダストリーが日本の規制に合わせて生み出した新兵器だよ」
「規制?」
「日本では魔銃が使えないからね。代用として魔法攻撃の他に水流レーザーやブーメランカッターを採用している」
「技術者の苦難とこだわりがひしひしと伝わってくるっすねー」
そういえばこういうロボットって銃とかミサイルとかバンバン使っているイメージがあったけど、日本だと規制があるから使えないんだっけ。
口から水流レーザーを出す姿は少しシュールだけど、裏の背景を知ると何とも言えない哀愁を感じる。
「君たちはそこで見学でもしていたまえ。ここからは我ら実験部隊の戦いだ」
俺を押し飛ばすようにして前に進むと、兄貴は手元から氷系魔法を使用した。
兵士達もそれに続いて、武器や魔法で応戦していく。
「空中にガーゴイル系モンスター。牽制後、後方部隊の全体魔法で一掃する」
「ハイオークダウン。周囲の戦力が大きく低下している模様」
「第二部隊、これより前線にて撹乱を行う」
連携があまりにも綺麗だ。
無駄な動きの一つも見せず、機械的にモンスターたちを処理していく。
動きの一つ一つが洗練されており、これが訓練した戦い方ってやつかと実感した。
「いって!!」
「おい邪魔だ!! 探索者はどっか行ってろ!!」
「ここからは実験部隊の戦いだ!! 役立たずは出しゃばるな!!」
ただ実験部隊の面々は気性が荒いのか、射線に入った探索者を見つけては無理やり追い出していた。
蹴ったり投げたり、酷い時は牽制代わりに魔法まで撃って。
彼らも立派に戦っていたのに。
邪魔だからって追い出すのは流石にやりすぎじゃないか?
「実験部隊は地位と実力を持ち続けた結果、ワガママになってるんすよねー」
「あー、兄貴が悪化した理由がなんとなく分かった」
「おかげで他の部署から滅茶苦茶嫌われてるのよねぇ。でも無駄に強くて実績を残しているから手出しができないっていう」
まるで兄貴が軍隊レベルで分身したみたいだ。
力を持ちすぎると、人はこうまで落ちぶれてしまうのかね。
「”アイスウォール”」
「「「グギャッ!?」」」
「所詮、ここには雑魚しかいないか」
ただ無駄に強いって言うのも本当なんだよなぁ。
兄貴含めて実験部隊の面々の攻撃はどれも強力なものばかりだし。
これで性格さえよければ頼りに……いや、たらればの話はやめよう。
「俺達は”実験部隊がいない”場所で戦おう」
「賛成ー」
「実験部隊は面倒」
「ウチらもやりやすいようにいきましょ」
「まだまだ頑張るっすよー」
あいつらに絡まれると面倒な事しか起きない気がしていたので、俺達は別の場所を回ってモンスター達が隠れていないか探索する事にした。
『ピピピ……』
(あのレギオンってヤツ、どうやって動いてるんだ?)
それはそうと不思議だったのが、あのロボットの動力源だ。
滑らかで素早い動きと高火力を両立させるなんて、普通の電力じゃパワーも充電も足りない。
彼に動かせたとしても、せいぜい二~三分が限界の筈。
なのにレギオンは十分を経過しても、動きに衰えを見せなかった。
「不思議。あれ程の運動エネルギーを支えている動力が気になる」
「魔力電池とかじゃない? 最近、ケイゼルが総力をあげて開発してるみたいだし」
「でも魔力電池はコストが高すぎて実戦投入は見送られてるっすよー?」
魔力電池って確かネットニュースでたまに流れてくるワードだな。
魔力と電力を融合させた新しいエネルギー、それが魔力電池。
従来の電池を遥かに超える電力と容量を誇るらしく、未来を変える最新テクノロジーだ!! なんて胡散臭そうな学者が熱弁していた。
魔力電池自体は今の技術で生み出せるらしい。
しかし、魔力電池を生み出すのに必要なコストが高すぎて、大量生産に向かないのだとか。
確か一個作るのに二~三十億円もかかるんだっけ、恐ろしい。
何故コストがそんなに高いのかはよく知らないが、新時代のエネルギーが全然作られないのであれば話にならない。
色んな会社がコスト問題を解決しようとしてるみたいだが、結果はお察しの通り。
まぁ国内有数の大企業であるケイゼルなら、魔力電池のコスト問題を解決した可能性もある。
あくまで仮説だけどね。
考えても仕方ないし実験部隊にも絡まれたくないので、足早にその場を去ろうとしたのだが、
『タ……スケ……』
「っ!?」
レギオンが不可解な”声”を発し、思わず足を止めてしまった。
「れな、今何か聞こえなかったか?」
「んー、人みたいな声なら? 心霊現象?」
ドクドクと心臓を早く動かし、生唾をごくりと飲む。
再びレギオンの方へとゆっくり振り返るが、変わった様子はなかった。
気のせいじゃない。
雑音に紛れてよく聞こえなかったけど、確かにレギオンは人の声を発していた。
レギオンをじっと観察しても、聞きなれた電子音のみ繰り返し続ける。
何だったんだ一体。
怪奇現象はせめて戦いが終わってからにして欲しいんだが。
『ピピピ……』
あのレギオンとかいう兵器から感じる異様な雰囲気というか、”生き物”が宿っているような感じ?
不気味な感覚に、俺は妙な胸騒ぎを覚えていた。




