第62話 新しい魔法
「うわああああああ!? なんだこの強さ!!」
「退避ー!! 退避ー!!」
「「「「「uoooooooooo!!」」」」」
影による移動でかく乱しながら、探索者達を次々斬り裂いていく。
完全に前線が崩壊している。
影の騎士の猛攻を前に多くの探索者が逃げ出し、戦う人数が大幅に減少してしまった。
このままでは街中にモンスターがあふれかえってしまう。
俺は影竜を一旦消し、二つの短剣に”双演乱舞”を発動させると影の騎士達の方へと突撃した。
ここは全力で暴れながら、なんとか前線を維持して後衛のサポートを通すしか……
「shuuuuuuuuuu!!」
「っ!!」
瞬間、影の騎士は身体をバラバラに分解し、大量の弾幕と共に探索者へ襲い掛かり始めた。
めんどくさい事をしやがって!!
影の騎士は実体のある手元にしかダメージが入らない。
”無砲天撃”は直接撃てないし、”双演乱舞”では一人ずつ倒すのが限界だ。
増え続ける弾、減り続ける自軍の攻撃、再び勢力を増すモンスター達。
考えても考えても、状況は悪化していくばかり。
対処しながら悩み抜いた結果、俺はできる限りの最善を尽くす事にした。
「”神速”!!」
加速魔法で更に加速する。
斬れば斬る程スピードがあがる”双演乱舞”と合わせて、その速さは異次元のものへと突入していく。
一瞬だけ止まり、影の騎士の弱点である手元にターゲットを合わせて”神速”による高速突撃。
これを何度も何度も繰り返す。
味方がどんな状況か全く分からないし、そもそもやってることが非効率的すぎて嫌気を覚え始めていたが、何も考えずただ敵をさばく事に集中する。
「おおおおおおおおおおおおお!!」
同じことの繰り返し。
人間という生き物は同じことをやり続けると飽きてしまい、効率が落ちてしまうらしい。
それだけじゃない。長い戦いによってスタミナも落ち始めていた。
動きのキレが少しずつなくなり、一つ一つの行動に対する時間が長くなっていく。
それでも叫んだり、隙を見て影の騎士を蹴り上げて空中の”無砲天撃”にぶち当てたりと無理矢理気合を入れ続けた。
「uuuuuuuu!!」
「がっ!?」
隙を突かれ、影の騎士の攻撃が俺の腹部に命中する。
「「「「uuuuuuuuu!!」」」」
「ぐあああああああ!!」
攻撃を受けたことで更に動きが止まり、立て続けに猛攻を喰らってしまう。
集中攻撃を前に俺の身体は完全に静止してしまい、地面へとゆっくり落下していく。
(いてぇ……)
落ちていく僅か数秒の間、様々な思考が流れてくる。
感情でも殺せたらもっと効率的にさばけたのか。
もっと戦術に幅を持たせたらよかったのか。
後悔や疑念ばかり浮かび上がる。
でも素直な思いがあるからこそ、守りたい居場所が出来たんじゃないか?
その時、羽がバサバサと動く音が聞こえた。
「”飛翔”」
飛んできた真白に優しく受け止められる。
「パパ、大丈夫?」
「ありがとう真白。かなり喰らってしまって申し訳ない」
「パパが傷ついても、真白が治すから。”デュアルヒール”」
温かい光が俺を包み込むと、傷やスタミナが徐々に回復していくのを感じる。
真白が羽でふわりと着地する頃には、体調はほぼ万全に近い状態まで治っていた。
相変わらず真白の回復力は凄いな。
「ダーリンを援護して!! 諦めないよ!!」
「にぃには絶対ウチらが守るんだから!!」
「パイセンの為に少しでも……!!」
れなの射撃。
セリアの妨害。
朝日の制限。
真白に続いて、それぞれが出来る事で影の騎士に立ち向かっていく。
「よし、いくか」
「ん、無理しないで」
「わかってるよ」
ぐぐぐっと再び立ち上がり、もう一度”神速”と”双演乱舞”を発動させて影の騎士達へと突撃した。
後方から飛んでくる彼女達の支援に、俺の心が温まっていく。
守りたいじゃない、守るんだろ?
俺がやらなきゃ、誰がやるって言うんだよ。
再び”創造”を発動させ、最強の魔法同士を組み合わせる。
”双演乱舞”
”無砲天撃”
”神速”
最強格とも言える三つの魔法。
”創造”が終わると、二つの短剣が白く大きい刃を形成していた。
俺はその剣を力強く握りしめ、その場で大きく回転を始めた。
「”無双神演”」
「「「uuuuuuuuu!?」」」
ゴォオオオオオオオオオオオオ!!
高速でグルグルと回転する俺を中心に巨大な竜巻が生成される。
竜巻は近づく影の騎士を次々と飲み込み、中に入り込んだ者から次々粉砕していった。
それだけじゃない。
スピードも”神速”+”双演乱舞”の効果が両方重なっている為、移動と回転力がケタ違いだ。
おまけに破壊力は”無砲天撃”と”双演乱舞”の合わせたもの。
つまり俺が出せる最強の魔法だ。
竜巻は接近しなければ吸い込まない為、”無砲天撃”ほど周りの被害を考えなくていいのが大きい。
動き回る竜巻を前に影の騎士はあらゆる方法で逃げようとするが、すぐ追いつかれてしまい竜巻の餌食になってしまう。
「はぁ……はぁ……」
そして体力の限界を迎えて地面に倒れた頃には、影の騎士達の姿はどこにもいなかった。
「”スタミナヒール”」
「あー、生き返るわぁ……何度もありがとう」
「それが真白の役割だから。お返しは後でいっぱい甘えさせて?」
「それじゃ俺もご褒美になっちゃうよ……よっと」
真白を軽く撫でながら再び立ち上がる。
後は消化試合みたいなもんだろう。
体力を温存しつつ、モンスターの数と奇襲に気を付けながら戦えば抑えられるハズ。
リラックスしつつ、目の前の敵を把握している時だった。
「っ!?」
ドガァアアアアアアアン!!
後方から何かが撃ち込まれ、前方のモンスターが爆発音と共に火の海に包まれた。
また新しい敵かよ!! と嫌そうにため息を吐きながら後ろへ振り向くと、
「ロボット?」
見たことも無い四足歩行の巨大なロボットがそこにいた。




