第58話 次は宣伝部の番
「さっすがダーリン、やっぱり頼りになるぅ♪」
「れなもいい射撃だった。縛っていても案外何とかなるな」
糸を全て焼却した後、れなの元へと近づきハイタッチをかわす。
鬼畜縛りの上でスパイダーウルフ一体を無力化し、隠れていた残りも呼び寄せて一瞬で倒す。
手際が良すぎたからか、余裕そうだったからか。
セリアと朝日は俺達の事をぽかーんと眺めていた。
「とんでもないっすね……」
「魔法無しでAランクを圧倒するなんて……」
ウチらはこのレベルについていけるのかしら、と不安な様子。
うーん?
後衛の役割をセリア達に変わって、前衛はいつも通り俺がやればなんとなると思うのだが。
やってみないと分からない事に変わりはないけどさ。
コメント欄
・なんで魔法無しで戦えるの?
・無名くんだから?
・無名くんだから、で何でも論破できると思うな
・無属性いる?
短剣にこびりついた糸を取りながらコメント欄をボーっと眺める。
コメ欄ではどうして無名くんが魔法無しで戦えるのか論争が起こっており、色んな解釈が見れて面白い。
たまにエロパワーだの旦那力だの、不可思議なものを力説しているヤツもいたが。
よし、糸は落とせたから探索を再開しよう。
「次は真白と……セリア達もいけそうか?」
「や、やっぱりあーしらもいくっすよね」
「まぁまぁ、万全なサポートで挑むから安心しろ」
「パパは縛ってるから万全じゃないけど」
「余計な事を言わんでよろしい」
ぺしっと真白の頭に軽く触れる。
セリア達がまた怯えてるじゃないか。
その様子を見て、怖がらせてごめんと頭を下げる真白。
ちゃんと謝れてえらい。
「そういえば二人の魔法は? 潜在スキルしか聞いてなかった」
「あーしは闇魔法っすねー。相手の視界を奪ったり、影から影へ移動したりとか」
「ウチは加速系の補助魔法よ。自分にしか使えないけど」
ふむふむ……朝日の戦い方はなんとなく分かった。
朝日は遮音や闇魔法など、相手の行動を制限する魔法が多い。
直接攻撃というより、妨害や援護で輝くサポートタイプだ。
一方のセリアだが、加速系か。
かく乱とか陽動とか色んな事に使えそうで……ん?
加速魔法?
その大荷物で?
自身の身体より一回り大きいカバンを背負うセリアの姿を見て、重荷と加速魔法の相性は悪いんじゃないか、と思ってしまった。
「そのカバン、どれくらい重いんだ?」
「今日は整理したからそこまで重くないわよ? よっと」
「っ!?」
ズシン!! という重い音と共にカバンが地面に降ろされる。
地面にヒビが入り、土埃が周囲に舞う。
そこまでって……だいぶ中身詰まってるだろ。
一体何が入ってるんだ。
「すっごー!! セリアちゃん力持ちだね!!」
「ま、ポーターとしてずっと荷物持ちをしているからね。後は亜人の力と潜在スキルの効果かしら」
地面に降ろした超重そうなカバンを軽々と背負い直すセリア。
ポーターとはダンジョン探索における荷物持ちだ。
長期的な探索になると、どうしても回収したい素材や野宿する為の物資が必要になり、大量の荷物を抱えられるポーターは欠かせない存在になる。
その役割を担うのは、主に戦闘系の潜在スキルがなく力に自慢のある者など。
流石に戦闘職よりは相場が落ちてしまうが、ある程度自衛が出来る者ならそれなりに稼ぐことが出来る。
で、セリアの場合だがこの怪力なら加速魔法を使用しても十分な速度を出せるだろう。
ダンジョンに潜ってだいぶ経つのに、重い荷物を抱え続けても息を切らさない辺り、スタミナも相当高いとみた。
自衛という面なら問題ないだろう。
「ポーターで戦う姿が想像できないなぁ」
「ふふ、Aランクに通じるか分かんないけど、存分に見せてあげるわ!!」
自信満々な声とは対象的に、足はガックガクに震えているが。
精一杯サポートしよう。
と、何故かセリアの視線が俺の腰元に向けられている事に気づいた。
「そういえば、にぃにの剣ってどうなってるの?」
「あ、確かに気になる。全然壊れないよね」
「剣って……これか?」
手に持っている普通の短剣を掲げると全員が頷く。
これかぁ……これは本当に普通の短剣なんだよなぁ。
ちょっとカスタムはしているけど。
「これは頑丈さに極振りしてるんだよ。付与する属性魔力への耐性を無くした分、かなり丈夫になった」
「パパの剣、もしかして無属性以外の付与耐性が無い?」
「そういうこと」
武器を作る際は様々な耐性を組み込んで作るのだが、特に重要なのが付与魔力に関する属性耐性だ。
炎や風などの多種多様な属性を普通の武器に付与してしまうと、武器が魔力に耐え切れず簡単に壊れてしまう。
そこで必要になるのが付与耐性の加工だ。
炎なら炎に関する付与耐性を。
水なら水に関する付与耐性を。
それぞれ使用属性に関連する加工をして貰うのが一般的だ。
で、俺の場合はそもそも属性魔法がないので、単純な魔力耐性のみを付与した。
付与耐性の加工は製造の都合上どうしても耐久力を落としてしまうので、それらを省いた俺の短剣は耐久性にかなり力を入れる事が出来た……という訳だ。
「武器店のおっちゃんも驚いてたなぁ……壊れても知らんぞって」
「実際は壊れてないっていうね」
後は攻撃に関する属性耐性を最低限施せば完成。
それ以外は本当にただの短剣だ。
無茶な使い方をしてないおかげか、長持ちしてくれて俺も嬉しいよ。
と、昔話を思い返していると、前方から新たなモンスターの気配を感じた。
「コオオオオオオオ!!」
「っ!! 早速現れたな!!」
腐らせた全身に鋼の鎧を着込んだ人型のモンスター。
ズシン、ズシンと重い足音をたてながら、むき出しの目玉でこちらをギロリと睨む。
「ゾンビナイト……!!」
「まーた厄介なモンスターが現れたっすね……」
短剣を構え、ゾンビナイトに向き合う。
宣伝部の二人も覚悟を決めたのか戦闘の体勢を取っている。
ヤツの鎧は固いが、壊してしまえばこちらのもの。
攻撃の対処をしつつ、鎧を壊して後は真白の聖魔法で浄化すれば……と思っていたのだが
真白は何故か宣伝部の二人より後ろに下がった。
「真白は戦わない方が、配信は盛り上がる?」
「「は!?」」
おっと、そう来たか。
「いやいやいや!? ゾンビ系モンスターは聖魔法か炎魔法で戦うのがセオリーよ!?」
「あーしらどっちも使えないっすねー」
「大丈夫、二人なら倒せる」
詰め寄る二人をがんばれーとゾンビナイトの方へ押し出す真白。
俺の縛りプレイが案外上手くいったのを見て、どこまで行けるのか見てみたいのだろう。
配信者らしいというか、なんというか。
「確かに余裕で倒しても面白くないしな……やるか!!」
「ちょお!? なんで前向きなのよぉ!!」
意外と戦える気はするんだがな。
二人のサポートに期待しつつ、俺は更に前へと踏み出すのだった。
◇◇◇
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