第49話 企画会議
「で、”パイセン”達は何しに来たんすかー?」
「まさかパイセンって……。」
「はい!!」
満面の笑みに対して、俺は乾いた笑いが出てしまう。
朝日の反応で俺はなんとなく察してしまった。
流石にLOVEではないと思うが、かなり好かれたみたいだ……。
れな達もあーあって感じの顔で笑ってるし。
というか俺、色んな呼び方がありますね……。
「ウチもよくわかってないのよ。リーダーに呼べって言われただけだし」
「リーダーはいつも唐突っすからね~あーしはそういうとこ好きですけど」
どうやら二人も事情を把握していない模様。
リーダーに振り回されるのは日常茶飯事と言う訳か。
慣れているのか二人とも室内のソファで談笑したりスマホをいじって自由にし始めた。
その流れに乗っかるように俺達も好きな事をして時間を潰すこと三十分。
呼び出した張本人が現れた。
「はーっはっはっは!! 待たせたな!!」
バァン!! と手元のクラッカーを鳴らしながら現れたリーダーにその場にいた全員が驚く。
「びっくりするじゃない!! もう!!」
「軽い挨拶みたいなものだよ。さて、本題に入ろうか」
セリアと朝日の間にリーダーが勢いよく腰掛けたと同時に、彼女はポケットから何かを取り出した。
紙……?
紙は正方形状に小さくたたまれており、丁寧に開いていくとそれなりの大きさになった。
そしてその紙をバッと広げ、俺達の方へ見せつけるように持つ。
太字の蛍光マーカーで何か書いてあるな……どれどれ。
『オトプロ×宣伝部 ハプニング満載のコラボ企画!!』
あ、そういうこと?
わざわざ用意していたのね……ちょっとしたサプライズをまた。
「せっかくセリアくんがオトプロのチャンネルに出たんだ。ここを利用しない手はないだろう!!」
「利用とか俺らに言っちゃいます?」
「シンプル素直が一番だからな!!」
はっはっはと嬉しそうな高笑い。
物凄くわかりやすい人だなぁ。
「ダーリン、リゼさんから許可下りたよ」
「早っ……という訳でどうします?」
「うむ!! まずは企画案を考えるところからだな」
ここでは少し狭いので、大テーブルとホワイトボードのある場所まで移動する。
リーダーがホワイトボードに近づきペンを取り出すと、”コラボ企画案”と中心に書き出した。
「さぁ、何でも言ってくれたまえ!!」
リーダーが宣言した後、企画会議がスタートした。
「大食い」
「お互いの武器を持ち寄るとかー?」
「一緒にダンジョンに潜る……は実力差がありすぎて難しいわね」
「どれだけ派手にモンスターを倒せるか―とかっすかねぇ」
各々が自由な案を発していき、ホワイトボードにどんどん書き記されていく。
ただ、どれも決定的なアイデアには至らず、会議は平行線をたどっていた。
「無名くんも遠慮せず言ってくれたまえ!!」
「え? う、うーん……。」
ここでまだ一度もアイデアを出していない俺にスポットライトが上がる。
弱ったな……こういうのは苦手だし、思いついたとしても企画になりそうだとは思えない。
眉間にしわを寄せながら唸っていると、リーダーが俺の肩をポンと叩いた。
「大丈夫だ。例えくだらなくても、案と言うのは出すこと自体に意味があるのだよ?」
「そうなんですか?」
「うむ!! 無数のアイデアとアイデアを組み合わせる事で新たな発想が生まれる。ここに書き記したもの全てに価値があるのだよ!!」
そう言われると身構えていた心が少し軽くなる。
部下の挑戦や失敗を快く受け入れる人なのだろう。
こういう人が親だったら、俺の事も受け入れてくれたのだろうか。
なんて、たらればの事までつい考えてしまう。
ということで俺もアイデア出しへ本格的に参加し、議論は更に加速していった。
ホワイトボードの裏面までびっしり企画案が書き記され、遂には大テーブルの上に敷いた大きな紙にまで書き出す事に。
大量のアイデアが生まれ、議論も止まずに続き、会議は順調に進んでいる。
進んでいたのだが……
「「「「「まとまらない……」」」」」
肝心の企画が完成しなかった。
アイデアを出し続けたことで、こうでもないああでもないと欠点や改善を繰り返し続けてしまい、企画が成立するまでのハードルが極端に上がっていた。
やることはただのコラボ。
なのに規模だけがどんどん膨れ上がっていき、全員の納得するものが完成しない事態に陥ったのだ。
「これは真剣になりすぎてしまったな。もう少し気楽に考えよう」
確かに気楽に考える必要がありそうだ。
全員のこだわりが強すぎた以上、一旦出された企画を見直した方がいい。
ホワイトボードや紙にびっしり書き記されたアイデア欄を一通り眺める。
リーダーも色んなアイデアの組み合わせが大事って言ってたしな。
「ん?」
一緒にダンジョン。
配信に関する取材。
人気探索者の一日に密着。
ここら辺は組み合わせられそうじゃないか?
もっといいアイデアを、とハードルを上げ過ぎた結果、保留になっていたが……
「二グループのダンジョン配信にお互いが密着するというのはどうです?」
「それだ!!」
リーダーの鶴の一声で、企画内容が決定した。
俺の案を元に詳細まで突き詰めていき、何時間か経過した頃には企画内容と具体的な日時まで決めることが出来た。
こうして皆で考えていくのは凄く楽しい。
いい経験だった。




