第48話 宣伝部へようこそ
「で、何で俺たちが案内してるんだ?」
「わ、悪いわね……。」
早速、宣伝部へ行こう!!
となったのはいいが、開口一番セリアから飛び出したのは「ケイゼルへ連れて行ってください……。」という客を迎える側とは思えない発言だった。
何でも彼女は地理に弱く、SSランクダンジョンにたどり着いたのも道に迷った結果なんだとか。
本当に心配して損したよ。
駅を降り、ビル街を通り抜けると目の前に一際目立つビルが現れる。
「着いたわよ」
「うぉぉ……!!」
何十階も連なる巨大なビル。
巨大な入口を行き来する者達からはエリートの雰囲気を出しており、皆が優秀であると俺は理解した。
そして表札には「ケイゼルインダストリー」という文字が。
ここまで大きくなっていたんだな……
「違うわよ、こっち」
「え?」
高層ビルの入口に向かおうとした俺達だったが、セリアに袖を引っ張られ更にもう少し歩くことに。
巨大なビルの隣にある狭い路地を通り抜け、奥へ奥へと進んでいく。
ネズミや虫……とかはいなさそうだが、余り空気はよろしくない。
で、着いた場所というのが。
「ここが宣伝部よ」
先程の大企業感溢れる建物とは打って変わり、やや古い外観の一軒家。
掃除はされているものの、壁や柱に錆があり建物自体の年季を感じさせる。
本当にここがケイゼルの関連部署?
確かに看板には【ケイゼルインダストリー・宣伝部】と書かれている。
では何故あのビルではなく、こんな外れに一部署が存在するのだろうか……
「昔はあっちにいたんだけど、問題起こしすぎて外れに追い出されちゃったのよねー」
「問題児すぎる……。」
よく耳をすませば、中から楽しげな笑い声とガタガタ!! と物音のようなものまで聞こえる。
メールの文章、追い出された部署、そしてこの騒音。
絶対ここはヤバい。
「よし!! レッツゴーだね!!」
「あ、ちょ!!」
少し足がすくんでいた俺に対し、れなは我先にとドアノブに手をかけた。
ていうか大企業なのにセキュリティカードもないのか。
どんだけ追いやられてるんだよ。
ドォン!!
「はーっはっはっは!! 驚いたか!!」
「「「……」」」
ドアを開けた瞬間に待ち構えていたのは、小さい少女が社員に向かってクリームバズーカを放っている光景だった。
「リーダー!! お客さん困惑してるわよ!!」
「よいではないか!! せっかくの来客、派手に歓迎せねば!」
何が起きているのだろうか。
お堅い大企業。更には憎き父親の会社。
緊張に緊張を重ねていた俺だったが、待ち受けていたのはそのイメージが覆る、ぶっ飛んだ人達。
まるで部活やサークルの悪ふざけのようなノリに俺は終始困惑していた。
「すまないな。本来なら君たちに向ける予定だったがあいにく許可を取っていない。来週のどこかでリベンジしたいのだがよろしいか?」
「え、全然大丈夫ですけど……」
「うむ!!」
満足そうな顔をして奥へと戻る小さい少女。
開幕早々ドッキリの予約?
わけがわからん……。
「あれが宣伝部のトップ、笹月リーダーよ」
「随分はっちゃけた人だな……。」
「一応素よ」
あの人がトップかぁ……。
栗色の腰まで伸びたロングヘアーを揺らしながら、楽しそうに色んな社員へ元気よく声をかける少女。
人を驚かせたり楽しませるのが好きなんだろうな。
後、少女とはいったが多分成人済だ。
摩耶さんの例があったし。
「リーダー!! お疲れ様です!!」
「うむ!! 進捗は良さそうだな!!」
「リーダー!! この件なんですが……」
「ふむふむ……三分十二秒辺りのテロップ、もう少し派手な効果音を付けてみては? 他は素晴らしいぞ!!」
驚きはしたものの、彼女が嫌われている様子は一切なく、誰もがリーダー!! と元気よく声をかけ、尊敬の眼差しを向けている。
リーダーもリーダーで元気よく返すし、相談があれば的確に指示をしてフォローを忘れない。
慕われる理由がよく分かる姿だった。
「パパ……ここ凄いね」
「ああ……凄い」
肝心の室内だが、俺が抱いていた会社というイメ-ジからはかけ離れた場所だった。
スーツを着た人間というのが僅かしか存在せず、皆が自由な服装で仕事をしている。
さっきのリーダーもノースリーブにホットパンツというきわどい恰好をしていたし。
で、会社らしい机と椅子は半分もない。
代わりに大部分を占めているのが、三脚カメラやグリーンバック、派手な装飾に包まれた撮影スタジオ。
後は紙束が乗せられたデカい机を中心に色んな事が書かれたホワイトボードくらい。
その他はパーティグッズや撮影機材が隙間という隙間に積まれていた。
「あ、これウチが取り寄せ中のハイスピード対応のドローンカメラだ!!」
「しかも最新式」
「予算はないけど、こーいうとこにはお金をかけるのよ」
ブーンと飛び回りながら、俺らの周りを回るドローンカメラ。
らしくないといえば失礼だが、こういう機材設備がしっかりしてるのは流石大企業って感じがするなぁ。
と、近くの扉からガチャと物音がした。
「疲れたぁ……ん? お客さんっすかー?」
気だるそうな表情で出迎える、派手なウェーブがかった赤髪の女の子。
服装は気崩された白シャツと短いプリーツスカートに加え、爪には長いネイルが付けられている。
「あら朝日、仕事は終わったの?」
「集中モード使ってつい先程完了したっす。セリちゃんはまた迷子になってたみたいっすけど……ふふふ」
「そ、それはたまたまよ!! 次は絶対迷わないんだから!!」
どうやらセリアとも仲がいいらしい。
反抗的なセリアの態度にも彼女への信頼と愛を感じられる。
生真面目なセリアに対して、朝日という彼女はややマイペースでからかい癖があるというか。
少しれなに似ているような気もする。
「初めまして、あーしは夕暮朝日っす。普段はセリちゃんと一緒に動画に出たり、たまに編集したりと色んな事をしてまーす」
「音梨無名だ、よろしく頼む」
にへらと笑いながら手を振る朝日。
うーん可愛い。
セリアもセリアで魅力的だが、朝日のゆったりとした雰囲気は一緒にいて落ち着く。
というかここ、美少女多すぎじゃね?
なんて純粋な感想を抱いていたら、朝日からとんでもない発言が飛んできた。
「ちなみにあーしは男なんで、勘違いさせてたらごめんっす」
「え!?」
この見た目で男!?
俺と同じ性別!?
目をぱちくりさせて見ている俺を、朝日はずっとニンマリした笑顔で返してくる。
「朝日ちゃん知ってるー!! 男の子なのにめっちゃ可愛いから尊敬してるんだよねー!!」
「えー、あーしの事知ってるんすかー? やったー」
「結構技術の話もできる。真白も一度話してみたかった」
二人は知ってるみたいで、朝日に近づいて楽しそうに談笑をはじめていた。
配信者として二人を知ってるって言ってたもんな……
それにしてもだ。
三人の美少女に囲まれてもなお、見劣りしない容姿。
何度見ても同じ性別の人間とは思えない。
むしろその辺の女の子より女の子してないか……?
ジーッと見すぎていたからか、朝日がこちらへ振り返りまだ何かあるっすかー? と声をかけてきたので
「男でこんなに可愛いのか……凄いなぁ」
「へ?」
思わず、心の底に秘めていた言葉を口にしてしまった。
「あ、ダーリンがまた口説いてる」
「パパのハーレム計画が再始動した」
「ちょっとにぃに!! 見境無さすぎ!!」
「え!?」
いやいやいや!?
別に口説いてるワケじゃないぞ!?
ただ褒めただけというか、確かに初対面で言うには少しキモかったかもしれないけど……。
いきなりすぎたと思い、謝罪をしようと朝日に向き直ったのだが
「あ、あはは……あーし、こういうの苦手なんすよねぇ……。」
顔を赤らめ、頬をニヤつかせる朝日の姿。
こんなに嬉しそうにしている時に謝罪なんて、とてもじゃないが出来なかった……。




