第44話 案件という名の飯テロ
「というわけで、今回はマリーフーズさんのレトルト食品を食べていくよー!!」
「いえーい」
「ぱちぱち」
無事ダンジョン外へと帰還した俺たち。
近くに合ったダンジョン管理施設とは名ばかりの建物で許可を取り、俺達は昼食を取る事にした。
施設内にある簡易なテーブルの上にレトルト食品や皿などの食器を並べていき、いつでも食べられるよう準備。
一応、これが本題である。
「これはねー、保存性に優れている上に紐をひっぱると……」
「わー、あったかくなっちゃったー」
「真白、それはわざとらしすぎる」
二回目だから新鮮なリアクションが出来ないのは分かるが、もう少し頑張ってほしい。
しかし、改めて見ても凄いな。
保存や加熱の手軽さは知っての通りだが、あの過酷なマグマ地帯を乗り越えてなお中身は無事だった。
咄嗟の思い付きとはいえ、結果的にいい宣伝になったのでは?
コメント欄
・おおー
・これは便利だ
・似たようなのが他社にもあったよね
・けどラインナップが個性的だ
チンジャオロース、ゴーヤチャンプルー、タイカレー、ガンボ、鶏肉のバスク煮込み……。
ダンジョン用のレトルト食品としては珍しいラインナップだ
なんでも他社との差別化と言う事で、ダンジョン食品としては珍しい料理を採用したのだとか。
前半はまぁ分かるが、後半は味の想像が全くつかないな……
「で、ご飯も一緒にか」
「こーいうのはやっぱり、お米と一緒に食べなきゃ!!」
同じ会社が作ったレトルトご飯も一緒に温める。
実際はおかず単品とご飯とレトルトおかずをセットにした二種類で販売するらしい。
米とおかずのセットがダンジョン内で食べられるのはありがたい。
まぁ、ダンジョン外なんですけどね……
なんて事を考えていたら、もうレトルト食品達が温まっていた。
熱々の封を開けるのに苦戦しながら皿に盛り付け、映像映えしやすいよう綺麗に並べていく。
全部レトルトだって言うのに、ちょっとしたごちそうみたいだ。
「「「いただきまーす」」」
という訳で二回目の実食。
おかずの量がまぁ凄い事になったが、俺達なら完食できるだろう。
俺とれなは勿論だが、真白は結構食べるし。
さて、何から食べようか……
どれも美味しそうだが、俺は目の前にあったゴーヤチャンプルーから手を出すことにした。
ゴーヤと肉を箸で掴み、はふはふさせながら口へ運ぶ。
「……うまい」
これは驚いた。
ゴーヤと豚肉の食感が、レトルトにしてはしっかりしている。
ゴーヤは苦すぎず醤油ベースの濃い味付けと合うようになっているし、卵や豆腐は味が染みていて箸を動かす手が止まらない。
「おいしいー!!」
「ん、美味しい……。」
二人も並べられたレトルト食品を手あたり次第つまんでは食べている。
特に真白は何種類か皿の上に乗せて、それら全てをまとめて食べていた。
合わない事はないと思うけど、口の中カオスにならないの?
「やっぱ探索終わりの飯は格別だなぁ……。」
「ねー、やっぱり労働後のご飯って美味しく感じるよね」
ご飯、おかず、ご飯、おかず、ご飯……
色んなレトルト食品と白飯を交互に食べ続けても、食べる手は止まるどころか加速していく。
ダンジョン帰りという重労働の後。
疲れと空腹と言う最高のスパイスが、俺達に最高の幸せを与えてくれる。
コメント欄
・うわあああああああああ!!
・お腹空いてきた……
・こんなの飯テロだろ
・食わせろ!! 食わせろ!!
ふと、コメント欄の方に目を配れば、美味しそうに食べる俺達の姿を見て発狂するリスナー達がずらっと映し出されていた。
今、お昼時だもんなぁ。
この時間帯に熱々ご飯を食べる配信は劇薬過ぎたか。
てか、案件配信なのに無言だった。
レビュー、レビュー……
「うまいなぁ……」
同じ事しか言えてねぇじゃん。
ダメだ、俺は食レポ下手かもしれない。
せめて青○レストランの「うまい!!」くらい、お決まりの感じを出した方がよかった。
子供並みのレビューだからか、れながニヤニヤした顔で俺を見ながらチンジャオロースを食べてるし。
「ん?」
と、二人の箸が一旦テーブルに置かれた。
「パパ……♡」
「ダーリン……♡」
二人が俺の方へぐいっと身体を前に出し、口を開ける。
あれ? 二人ともゴーヤチャンプルーって食べたよな?
ってあぁ、そういうことか。
恋人達の甘えモードに気づいた俺は、二人の口元にそれぞれゴーヤチャンプルーを運ぶ。
「んー!! 幸せー!!」
「えへへ……。」
口元をニヤけさせながら、足元をパタパタさせる二人。
バクバクおかずを食べていた時とは打って変わり、俺からあーんされた一口のおかずをゆっくり噛みしめるように食べていた。
余り人がいないとはいえ、ちょっと恥ずかしいな……
色んな事を経験したとはいえ、甘々な空気に慣れない俺は思わず顔をうつむかせる。
顔を動かした先には、ちょうどコメントが表示された電子映像が映し出されており……
コメント欄
・ふざけるなあああああああ
・イチャイチャだあああああ!!
。羨ましいぞ!! ちくしょう!!
・俺、何で一人でカツ丼食ってるんだろ……
見なかったことにしよう……きっと君たちにも春が巡ってくるよ。
(二人とも、まだまだいけそうだな)
実は今回のレトルト食品、一品辺り三人前も用意していた。
俺とれなは勿論、特に真白がよく食べるので、合計十五人前くらいあっても食べられるだろうと思っていた。
実際その予想は当たっており、皿の上にあった料理がそれぞれ半分ほど消えている。
一部を四人前にするか、レトルトご飯を増量するかしてもよかったなーと思いながら、再び箸を動かそうとした時だった。
ギギギギ……
「……猫?」
遠くにある施設内のドアの開く音が聞こえ、そちらに視線が映る。
ブレザー制服風の衣装に身を包んだ、ピンク髪のツインテールの少女。
しかし、頭の上にはピコンと二つの猫耳が。
作り物かと思ったが、腰元から伸びたしっぽを耳と同じようにピクピク動かしており、それが体の一部である事を証明していた。
まさか亜人……?
こんな所で、知らない亜人に出会えるとは思ってもいなかった。
「はぁ……はぁ……」
顔をうつむかせながら、ピンク髪のツインテ少女がおぼつかない足でこちらに向かってくる。
怪我をしているのか?
いや、外傷は目立たないし体調不良?
何にせよ、苦しんでいる姿を見てしまった以上は無視する事は出来ない。
「お、おい……大丈夫か?」
「え? あぁ、これくらい何ともないわ……」
ネコ耳少女の元へ駆け寄るも、軽く手で払いのけられてしまう。
ううむ、プライドの高そうな子だ。
ほっておけば、一人で無理をしかねないぞ。
ここは強引にでも休せるしか……
れなと真白に目配せして、彼女を休ませようとした時。
うつむいていた彼女の顔があがった。
「え?」
「は……?」
この緑色の瞳……見た事がある。
確かこの瞳の少女と出会ったのは随分前の事だ。
そんな……いや、あの時の彼女はネコ耳なんて生えてなかった……
「嘘でしょ……え、そんな……」
彼女も俺を知っている。
ふらついていた身体がピンとなり、見返すように俺の顔を見続けていた。
ドクンドクンと鳴り続ける心臓。
答え合わせをするように、頭の中に浮かんだ懐かしい記憶を呼び覚ます。
「セリアか……?」
「にぃに……?」
こんな所で”昔馴染み”と再会できるなど、誰が予想できただろうか。




