第41話 久しぶりの配信
「「「やほーい!!」」」
元気よく、いつものあいさつを行う。
一週間ぶりのダンジョン配信で少し緊張しているが、同時に安心感もあった。
コメント欄
・やほーい!!
・おかえりいいいい!!
・待ってました!!
・一週間ぶりの配信だー!!
「くふふ、皆待っててくれてありがとうね!! 今日から活動再開するから、よろしくね☆」
「ん、真白も頑張る」
「俺も頑張りまーす」
しっかしリスナーのみんなが暖かく受け入れてくれたのは嬉しかったなぁ。
俺もやった事がアレだから、正直アンチで荒れるかと思ったけど……
どうやら気にしすぎだったみたいだ。
何にせよ、いつも通りの配信ができるのは嬉しい。
コメント欄
・今日は何するの?
・というかここ、どこのダンジョン?
「知りたい? 知りたいよね? 今日はなんと――」
で、今の俺達がいる場所なんだが……
これがまぁ、とんでもない所で。
「SSランクダンジョンの松也ダンジョンで案件配信でーす!!」
コメント欄
・え!?!?
・SSランクダンジョン!?
・案件!?
・情報量多すぎだって、待って待って
極悪と言われるSSランクダンジョンで、
俺達は何故か案件配信をしていた。
事の経緯は先日に遡る。
――――――――
「SSランク? へー、面白そうだな」
「ん、パパの実力なら行けると思う」
先日、事務所に呼ばれた時だ。
少しだけ待機時間が出来てしまい、その間真白と一緒に各地のダンジョン調べていた。
復帰配信で使うダンジョンを選ぶのにちょうどいいと思い、色々見ていたのだが
その中から興味深いダンジョンを見つけた。
「三大極悪ダンジョン……SSランクが?」
「松也ダンジョン、吉野ダンジョン、矢隙ダンジョン……この三つは探索できる人が少ない超高難易度のダンジョン」
「Sランクよりも上があったんだな……」
「わー、なんかヤバそうー……」
なんでも地方の外れにSランク以上のダンジョンがあるらしい。
その中でも代表的な三つのダンジョンを合わせて”三大極悪ダンジョン”と言われてるのだとか。
SSランクともなると、余りにも高難易度かつ探索する人が少ない。
そのためダンジョン協会の手があまり入っておらず、最低限の管理しかされていないのだ。
「リスナーに刺激的な話題も提供できるし、良さそうだな」
「パパと一緒なら、大丈夫」
「あぁ、ありがとう」
真白の頭を優しく撫でる。
最近は撫でて欲しい時に、少しだけ頭を俺の方に向けるようになった。
甘えん坊で撫でると嬉しそうに笑ってくれる。
「やぁ、待たせて済まないね」
「リゼさん、お久しぶりです」
なんてやり取りをしていたら、リゼさんがやって来た。
ダンボールを抱えているが……なんだろう?
「早速だが……キミ達に企業案件の話が来ている。どうだろうか?」
どうやら呼び出された件というのは企業案件のことらしい。
前は二人だけだったが、遂に俺含めて回ってくるようになったか。
「企業案件ですか……配信者って感じがしていいですね」
「だって配信者だもん」
「ははは、高梨くんはまだ慣れないか。ウチもかなりの大手だし、こうして案件の話をいただくことも珍しくないのさ」
「なるほど……で、その案件の内容というのは?」
「これだよ」
リゼさんがダンボールの中身を取り出し並べるが……なんだろう?
銀色のパッケージに何かが入ってるみたいだけど……食品?
「くんくん……美味しそうな匂い」
「完全に密封されてる筈では?」
「真白くんは鼻がいいね。これはマリーフーズさんの新商品で、紐を引っ張るだけで温められるレトルト食品さ」
「鼻がいいってレベルなのか……」
よく見るとレトルトパウチの下部分に細い紐が伸びていた。
試してごらん? と高宮さんに言われるがまま、紐を引っ張ってみる。
ぐいっ
「おお……一瞬で温かくなった」
「何これすごーい!!」
「中に調整した炎の魔石を入れていて、その紐と連動するような仕組みになってるのさ。しかも、魔石はすぐに消える仕様だ」
「自衛隊のレーションで似たような物がある……けど、生で見るのは初めて」
そういえばネットで紐を引っ張るだけで温まる駅弁を見たことがある。
原理としてはあれに近いのだろうか?
俺も数回だけだが食べた事がある。
まあまあ美味しかったなぁ。
「いただきます……美味しい」
「早速食べてる!?」
「真白ちゃんは相変わらず食い意地張ってるねー」
「味の確認は案件をやる前の確認として大事。それはそれとして味わいたい」
「結局食べたいだけでは?」
少し目を離した隙に、真白が容器にレトルトパウチの中身を出して試食していた。
ちなみに中身はチンジャーロース。普通に美味そう。
「マリーフーズさんはダンジョン用の食品開発が他社より遅れていてね。ようやく完成したので、その宣伝も兼ねて、ウチに案件が回ってきたって訳さ」
「なるほどなぁ」
確かにレトルトなら長持ちするし、ダンジョン内にも持ち込みやすい。
一応、炎魔法や道具で火が付けられるとはいえ手間がかかるし、温かいご飯をすぐ食べられるというのはかなりいい。
「で、案件用に配信をやってもらいたい訳だが……ダンジョン内で普通に食べるっていうのは味気ない。何かアイデアは無いかな?」
「「「うーん」」」
約一名口をもぐもぐしながら、考える。
無難にレビューとか?
いやいや、それは普通すぎる。
多分高宮さんはそういうのを求めてない。
「はーい!! 食べ比べとかはどうかな!?」
「俺も似たような事考えてたぞ……」
「え!? くふふ、やっぱりダーリンとアタシは気が合うねぇ……ぎゅー♡」
「……職場でイチャつくのは恥ずかしいのでお控えを」
「仲が良いのはいいが保留にさせてくれ。もう少し面白さが欲しい」
「じゃあ大食い」
「それは真白が食べたいだけだろ」
「ちぇ」
悔しそうな顔をするな。
「ふふっ、そう難しく考えなくてもいい。何かと組み合わせて、お昼に案件用の食事をとるだけ……というのも悪くないと思うよ?」
とはいってもなぁ。
いきなり面白さのある企画を、と言われても素人の俺には難しい。
何かこう、高宮さんの言う組み合わせられる物は……
あっ
「さっき真白とSSランクダンジョンに潜らないかって話をしてたんですが……それと合わせるのは?」
「「「それだ」」」
「え?」
ダメ元で言ったつもりだったのに、あっさり決まってしまった。




