第36話 決戦③
「”エアストショット”……魔力があれば誰でも使える、基本にして”最弱”の魔法じゃな……」
「どうしましたか!? まさか、その”エアストショット”とやらが限界なのでは!?」
繰り出した魔法が最弱の”エアストショット”である事に、摩耶さんも動揺している。
普通であれば気でも狂ったのかと思われる判断。
が、これも作戦の内。
考えなしに最弱魔法を使ったりはしない。
「限界なのは事実。だが、既に切札は使っているんだよ」
「切札?」
”エアストショット”の連射攻撃を行い、その全てを”爆天”にぶつける。
カンッ
キンッ
コンッ
余りにも軽すぎる音が鳴り響く。
当然、ダメージが入っている様子はない。
「そんな攻撃、”爆天”の鎧にキズ一つ付いていませんよ」
「分かってるよ!!」
すぐに効果が出るとは思っていない。
攻撃を当て続ける事に意味があるんだ。
「こっちも一斉掃射じゃ!!」
「ふんっ!! その程度か!!」
ドドドドドドドンッ!!
花火型ミサイルの猛攻が続く。
”爆天”のあらゆる部位で爆発が起きるが、傷一つ付かない。
……チュイイイイイイン
「こういうのはどうです!? ”スパイラルカノン”!!」
「ぬおっ!?」
「レーザービームってアリかよ!!」
腕部に搭載された砲塔から極太のビームが発射される。
ビームは摩耶さんのミサイルを一瞬で破壊し、俺達を”爆天”から引き離した。
戦争でもできそうなレベルの兵器だな……!!
「無名よ、本当に作戦通りなんじゃろうな?」
「大丈夫です!! 俺は自分を信じているので!!」
「……その心意気、わらわ結構気に入ったぞ!!」
どれだけ強力な攻撃が来ようと、俺は”エアストショット”を当て続けるだけだ。
再び走り出し、”爆天”に向けて先ほどと同じことを繰り返した。
カンッ
ポンッ
チンッ
軽いヒット音がまた鳴り始める。
「またですか? いい加減……」
「後、もう少し……」
弾はばらまいているが、基本的に同じ場所を攻撃している。
攻撃回数は十分稼いだし、あとは効果が出るだけなんだが……
期待と焦りが入り混じる中、俺はその時は来るのをひたすら待ち続ける。
……ピシッ
「はい?」
ついに、その時が来た。
「”爆天”の鎧にひびが……!!」
「馬鹿な!? 耐久力にまだ余裕はあるハズですよ!?」
ピシッ、ピシッ……と嫌な音を立てながら、”エアストショット”を当てた箇所に亀裂が入っていく。
亀裂はどんどん大きくなり、酷い所では穴まで空いてしまっている。
「計画通り……信じて正解だったぜ、潜在スキルを!!」
「せ、潜在スキル?」
「お主の潜在スキルといえば……まさか、無属性魔法が当たる度に発生する、固定ダメージか!?」
「その通り!! どんだけ固くても、固定ダメージは発生するみたいですし!!」
俺の潜在スキル、【無属性・極】
そのスキル説明文には、こんな一文が記載されている。
”無属性魔法が強化され、当てる度に固定ダメージを発生させる”
この固定ダメージっていうのは、相手の耐性や防御力に関係なく発動するモノだ。
発生条件は無属性魔法であればなんでもOK。
それが最弱の無属性魔法”エアストショット”であったとしてもだ。
「最弱の”エアストショット”を撃ち続けたのも、魔力消費を抑えながら連射する為ですか……!!」
「考えたのう!! 流石のわらわも素直に関心してしまったわ!!」
「どうする!? このまま”爆天”が破壊されるのを見守っておくか!?」
「そんな訳ないでしょう!! 先に壊されるのはあなた達の方ですから!!」
更に弾幕の数が増し、”エアストショット”がかき消されていく。
”エアストショット”が効果的とはいえ、相手が使っているのは魔銃。
火力に圧倒的な差がある。
今から”跳剣”等の違う魔法に切り替えても、撃ち消されるだろうし魔力をムダにするだろう。
「”操演”!!」
「弾が弾を通り抜けて……!?」
だったら、当たらないように”エアストショット”を操作する。
”操演”を駆使し、弾幕の隙間に”エアストショット”を通り抜けさせ、”爆天”に少しずつヒットさせていく。
「もう少しで……うっ!?」
視界が揺れる。
度重なる連戦、霧の状態異常、腹部の出血。
傷ついた身体を無理やり動かしてきたガタが、こんな時に……!!
「隙ありっ!!」
「ぐあああああああ!!」
一瞬だけ動きを止めた隙を狙われ、”爆天”の拳が俺の身体に直撃する。
鉄の塊がぶつかる衝撃ってこんな痛いのかよ……!!
骨がミシッと嫌な音を立て、更に意識が遠のく。
だが
「あああああああああっ!!」
「なっ!? ”爆天”の拳を受け止めて!?」
倒れそうになっても、気合いと根性で立ち上がり続ける。
ここまで来たのに、やられてたまるか。
最後の最後まで、こいつを倒すために全力を維持して……!!
「はああああああああっ!!」
ゼロ距離から”エアストショット”を連射し、無我夢中で攻撃し続けている時だった。
ピシピシッ!!
ドカアアアアアアアンッ!!
「ば、”爆天”が!?」
「破壊大成功!!」
「ナイスじゃ無名!!」
遂に爆天が粉々に砕け散った。
「ぐおっ!? こ、このまま終わるわけには……何故、変化出来ない!?」
「もう潜在スキルは使えんぞ? 爆破の瞬間、”身体抑制剤”を撃ちこんだからな」
「な……!?」
「お主の仲間が色々持っておって助かったわ……くっくっくっ!!」
よく見ると”爆天”から飛び出した遥斗の首元に、注射のような物が刺さっていた。
爆破した瞬間、スライム化して逃げると先読みしていたワケか。
「ナイスです摩耶さん!! はぁああああああ!!」
すかさず遥斗の元へ接近する。
残りの魔力を全て【竜影剣】につぎ込み、ヤツを一撃で仕留める魔法を発動させる。
これで終わりだ、遥斗。
「おのれえええええ!! 音梨無名いいいいいい!!」
「”無影斬”!!」
目にも止まらぬ速さで突きが繰り出され、遥斗の心臓を深く貫いた。
「わ、私の舞台が……こんなヤツなんかに邪魔されるなんて……!!」
「無期限中止してろ、そんな舞台」
「カハッ……」
最期の言葉を残した後、遥斗の身体はピクリとも動かなくなった。
「やっと終わった……」
「あぁ、よくやった」
探索者殺しを相手にし、れな達が酷い目に合わされ、初めて人の命をこの手で……
心と体、両方を極端に消耗する辛い戦いだった。
あまりよくないのだが、明日は丸一日休みたいとまで思ってしまう。
「そうだ、早く二人を病院に……!?」
「無名!!」
二人の元へ向き直り、一歩踏み出した時だった。
再び視界が揺れ、地面へと倒れ込む。
最後の最後でかっこ悪いな、俺。
摩耶さんには悪いけど、少し休ませてもらおう。
あぁ、でも。
二人とも、無事だったらいいな……




