第34話 決戦①
「おやおや、どうしましたか? 攻撃が当たっていませんよ?」
一体どうなってるんだ!?
急にあいつの身体がスライムみたいな水になって、攻撃をすり抜けたぞ!?
人とは思えない現象に動揺しつつも、俺は”鑑定”で遥斗の能力の詳細を探った。
【液状変化】
自身を液状のスライムのような身体に変化させる。
このスライムはコア以外でダメージを受けない上、攻撃を吸収する。
液は複数の毒で構成されており、霧として噴射する事で状態異常を与える事も可能。
推定ランク:S
「Sランク……!?」
「私の潜在スキルを見ましたね。ですが、対処は不可能だと思いますよ?」
スライム化した遥斗が自由自在に飛び回る。
速度は俺の方が上だが、防御面では相手の方が圧倒的。
物理も魔法も全て無効化する。
そんな相手にどうダメージを与えれば……
「考え事をしていては勝てませんよ」
「っ!!」
反射で”神速”を発動させ距離を取る。
しかし、その行動を先読みされてしまい、遥斗はスライム化した身体から霧のようなモノを噴出した。
「ゲホッ……なんだこれ」
「”パラライズミスト”」
「っ!! 身体が……」
どうやら麻痺効果のある霧らしい。
遥斗の魔法は状態異常系のミストが中心みたいだ。
この密室……モタモタしていたら部屋中が霧で充満してしまう。
既に身体が痺れ始めているし、早めに対処しなければ。
「”エアストブラスト”!!」
無属性魔法で霧を全て吹き飛ばす。
ひとまず安心、と言ったところか……
「そう来ると思いましたよ」
「っ!? また近づかれ……」
が、そのミストを煙幕に遥斗は俺へ急接近していた。
「”ミックスミスト”」
「ぅ……ゲホゲホッ……!!」
「からの……オマケです」
カラフルな色の霧が俺の顔面目掛けて勢いよく噴射される。
そして俺が怯んだ隙に……ダァン!! と銃声が響き渡った。
腹部に弾が命中し、俺の体は勢いよく吹き飛ばされた。
「っ……ピストルの次はショットガンかよ」
「番崎さんにいい物を渡すワケないでしょう? ま、彼は音梨さんを倒す上で、十分な情報を与えてくれましたが……」
「最初から戦わなかったのはそういう事か……見殺しにするつもりで」
「人を知るのは大事なことですよ?」
不意の突き方、気配の消し方、潜在スキルの効果的な利用方法……
モンスターとは違う、対人戦に特化した戦い方に俺は苦戦していた。
経験の差でここまで開くとは……力任せでは勝てない相手だ。
だったら……
「俺も”学ばせて”もらおう」
「ほお?」
新しい手を試し続けるだけだ。
「”剣山”!!」
「地面から剣が……ですが、当たらなければ意味はありませんよ?」
「地面にはいられないだろ?」
剣の地面をわざわざスライムで動く理由はない。
埋め尽くされている剣に、コアが当たる可能性があるからだ。
最も、どれがコアなのかは全くわからないが……
とりあえず、移動先は制限出来た。
「”跳剣”……”複製”……」
跳剣を大量に展開する。
そして、
「いけ」
空中に漂う遥斗に向けて一斉に射出された。
「何をしてるんですか? 弾幕だろうと私には通じませんよ」
「数打てば当たるって言うだろ」
「無策ですか……限界が近づいてきましたね」
ズバババババッ!!
”跳剣”によりスライムがバラバラに刻まれていく……が、効果はない。
いくらばらまいた所で当たるワケではない。
魔力の無駄遣い。
誰もがそう思うだろう。
(右、左……ん? 右斜め下が怪しいか?)
俺は遥斗の動きをじっくり観察していた。
弾幕の効果がないとはいえ、弱点であるコア付近のスライムを守らない筈がない。
ヤツの動きから”違和感”を見つけ出すんだ……
「何か考えがあるみたいですが……そうはさせませんよ」
「くっ!! 相変わらず魔銃は厄介だな……!!」
「あらゆる武器の頂点に君臨していますから。当然です」
ダァン!! ダァン!! ダァン!!
じっくり立ち止まらせてくれる程、戦場は甘くない。
遥斗はスライム化した身体を生かして再び急接近し、ショットガンを連射し続けた。
ギリギリ”神速”で回避は出来るが……時間の問題だな。
後もう少しなんだけど……!!
「見えた!! ”影隠し”!!」
「っ!? 姿が……!!」
高速ではない、本当の意味で”姿を消す”
”影隠し”により、気配も魔力も全てシャットダウンし、目標の場所へと近づいていく。
効果時間は約5秒。
その間に次の一手まで準備を整える。
「逃げたワケではないでしょうし……まさか!!」
「わかったんだよなぁ!! ”双演乱舞”!!」
大量の”跳剣”を解除し、二刀流魔法へと移行する。
2つの剣が眩い光を放ち始め、刃が遥斗の身体の元へと連撃を喰らわせる。
狙うは……細かく刻まれたスライムの中で、僅かに逃げる姿勢を見せた一つのみ!!
「はぁああああああああああああ!!」
「ぁああああああああああああ!!」
ズババババババババッ!!
斬り裂かれる度に遥斗が悲痛な声で叫びをあげる。
振れば振る程、速度が増す斬撃が、たった一つの小さなスライムを斬り刻む。
「はぁ!!」
やがて攻撃に耐え切れなくなり実体化した遥斗の身体に、俺は渾身の一撃を与えた。
二つの斬撃が身体を斬り裂き、その勢いで地面へと叩きつける。
「ぎゃあああああああっ!!」
オマケに吹き飛ばした先の地面には”剣山”がびっしり敷いてある。
剣と追加ダメージで更にマシマシだ。
「はぁ……はぁ……」
流石に疲れたな……
効果が分からない状態異常の霧と、ショットガンのダメージ。
過酷な状況に慣れているとはいえ、かなり堪えたぞ。
懐からポーションを取り出してぐいっと飲み、”剣山”の上に倒れ込んだ遥斗に話しかける。
「降参するなら今の内だ。勝負はもうついただろ」
「かなり堪えましたね……あまり美しくないので、奥の手は使いたくなかったのですが……」
懐からリモコンのような物を取り出し、ボタンを押す。
一体何を……
「真のフィナーレは私のものですよ?」
「っ!?」
ドォン!!
突如、轟音が鳴り響いたかと思えば、
「は……?」
俺の腹部が何かに貫かれ、勢いよく血を流していた。




