第32話 探索者殺しのアジト
「ここがダンジョン……? にしては綺麗すぎる……」
「基本的な生活用品はすべてそろっておるのう……ホテルに泊まりに来たみたいじゃ」
机にテーブル、ソファにテレビ。
更にデスクトップのPCや通信機器まで。
岩壁や地面で一応ダンジョンだと分かるが、家具や機材などが置かれており生活感に溢れている。
外がモンスターで溢れてる点に目をつむれば、快適な空間だろう。
その一方で、
「あそこに積みあがってるのが魔銃か……」
奥には違法に入手したであろう銃火器がずらりと並べられていた。
こんなに日本へ密輸入されていたのか……
軽く”鑑定”で調べれば、どれも最低Aランクはする優秀な武器であることが判明する。
さらに奥の方には……なんだ?
デカい鎧のような物が……
「おうおう!! ここが俺たちの隠れ家だって知っての事か!?」
「あんま威張るなよ、また移動するハメになるだろ?」
「やっちまえば問題ないって!!」
「ヤツらはダンジョンからダンジョンに移動してたのか……」
「身を隠すなら危険な場所、とはよく言うしな」
通りで見つからないわけだ。
定期的に姿を消しているのも、住居であるダンジョンからダンジョンへと移動ができるから。
この充実っぷり……ヤツらアイテムボックスでも使ってるな。
と、奥の方から青髪の男が現れた。
「おやおや。思ったよりも早かったですね……音梨さん」
「……お前が二人を?」
「あぁ、申し遅れました。私は遥斗、彼らのリーダーです。今から第二演目に移ろうとしていまして……」
遥斗がくいっと奥の方へと視線をやる。
「っ……!!」
そこには天井に腕を拘束された二人の姿があった。
全身が痛々しい生傷で埋め尽くされており、血があふれ出ている。
おまけに虚ろな目をしており、意識があるかも怪しい状態だった。
「趣味の悪いクソ野郎どもじゃ……何が楽しいのやら」
「楽しいですよ? 何せ、亜人の人気配信者を配信でお披露目できるのですから……こちらを」
遥斗がスマホを取り出し、ある画面を見せてくる。
コメント欄
・S〇Xきたー!!
・早く犯してくれよ!!
・亜人が痛めつけられる姿とかマジ最高だわ!!
・やれ!!やれ!!やれ!!やれ!!
「オーディエンスも求めていますしね?」
闇サイトのコメント欄か……
どいつも他人の不幸を楽しみ、非現実で非常識な映像を心待ちにしてやがる。
今すぐここに引きずり出して、ぶん殴ってやりたいくらいだ。
「……」
「おや? 急にどうされましたか?」
無言で歩き出す。
遥斗を通り過ぎ、多くの手下を無視して、俺はとある場所に立つ。
ズバッ!!
ガシャーン!!
「ほぉ……」
れなと真白が拘束されている手錠を剣でぶっ壊し、倒れ込む二人を優しく抱き止めた。
「大丈夫か……れな、真白」
「え?」
「ダー……リン……?」
よかった、意識はあるみたいだ。
最悪の結末は避けられた事に、俺は一安心する。
と、俺の肩を大柄な男がガシッと掴む。
「おうおう!! クソゴミカッスの音梨よぉ!! 俺様がこいつらを犯すんだから邪魔すんなよ!!」
「……番崎」
「今の内に降参した方がいいぜ? 何せ俺の力でAランクをボコボコに出来たんだからなぁ!!」
そうか……こいつが二人をここまで。
心の奥底から怒りが燃え上がる。
湧き立つ感情を拳にグググッ……と込め、憎き番崎へと視線を向ける。
「あ?」
そしてそのまま……
「グボォ!?」
デカい腹へ、勢いよく拳を叩きこんだ。
「ここまで堕ちたか……本当、昔からどうしようも無いヤツだ」
「がっ……あ、あったり前だろ……気に食わないヤツをぶっ飛ばせば盛り上がる!! 闇配信は最高なんだぜ?」
あいつもあいつなりに本気らしい。
今まで築いてきた立場が一瞬にして崩れ去り、横暴でワガママをやれる居場所を探していたんだろう。
何を考えようと個人の自由。
俺がとやかく言う理由は無い。
「そうか……だったら」
でも、その自由な行動に二人を巻き込んだのは、絶対許さない。
「全部ぶっ壊してやる」
敵意をむき出しにし、静かな怒りをあらわにする。
「ヤツらと殺る覚悟はできたか?」
「……はい」
「ダンジョン内での正当防衛は成立しやすいとはいえ……こんな日は来てほしくなかった」
「正当防衛……か」
ヤツらを拘束し警察に突き出せれば理想だが、現実はそう上手くいかない。
相手は探索者相手との殺し合いに慣れているが、俺は対人戦に関してはほとんど経験がない。
殺しのプロに手加減なんてしていたら、二人を守る事は出来ないだろう。
「雑魚と二人はわらわに任せておけ。お主は番崎と遥斗を」
「頼みます」
再び遥斗達へ向き直り、戦闘態勢を取る。
ここからはいつもの戦いじゃない。
命をかけた人間同士の戦いだ。
「お嬢ちゃーん? 俺達を一人で相手するなんて甘……」
「お主ら……花火は好きか?」
瞬間、アイテムボックスから色とりどりの花火が取り出され、導火線へ一斉に火が付けられていく。
「おいおい!! おもちゃで相手だなんて舐められてるなぁ!!」
「お遊びはこの辺にして欲しいぜ!!」
「ふん……貴様らと遊ぶじゃと?」
ジジジ……
花火の導火線が間もなく消える。
なんだろう……ただの花火に見えるのに、魔力を感じる。
それも花火にしては多すぎるくらいに。
……まさか
「わらわは本気で殺すつもりじゃぞ?」
探索者殺し達の方へ弾幕のように花火が発射される。
ピューンと綺麗な音が鳴らしながら、さぞ美しい花火を見せてくれるのかと思いきや、
「うわぁ!? なんだこの火力!?」
「逃げろ!! 逃げろぉぉおおおおお!!」
「こんなのミサイルじゃねえかああああ!!」
バババババッ!!
ズドドドドドッ!!
ドカアアアアアアアンッ!!
とても花火とは思えない爆炎と轟音が戦場に溢れ返った。
「……あれ合法なんですか」
「合法も何も”少し”火力が高いだけの花火じゃ。少しな」
弾幕が一段落した後、戦場には焼け焦げた死体がいくつも転がっていた。
魔銃の規制をすり抜ける為に独自開発したな……
武器職人の意地が少しだけ見えたような気がする。
「よそ見しやがってこの糞ガキィ!!」
花火を眺めていた俺の方へ、隙ありとばかりに一人の探索者殺しから剣が振り下ろされる。
よそ見、とは言ったが殺気は感じていた。
俺は斬撃を避けた後、手元の短剣を
「がっ……あ……」
男の心臓目掛けて突き刺した。
「これが……人を殺す感覚」
心臓がバクバクと鳴り続け、冷や汗が止まらない。
血に濡れた短剣を持つ手が震え続け、自分で起こした出来事が頭の中でループする。
正直、あまりいい気分じゃない。
だけど……ここから先の戦いを生き抜く為には必要な事。
何度も何度も自分に言い聞かせ、心を落ち着かせる。
「いいですねぇ……この素晴らしい惨状を貴方も配信すればいいのでは?」
「ぜぇぜぇ……!! 更に話題になるかもなぁ!!」
遥斗の元にぶっ飛ばされた番崎が合流する。
目立つため、欲望を満たすため、自分の幸せのため。
その為に罪のない二人は傷つけられた。
余りにも理不尽すぎる事実が、俺の怒りを湧き立たせ続ける。
「お前らなんて、話題にする価値もねぇよ」
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