第31話 いざ、事件現場へ
「………なんだ、あの人だかりは」
新宿ダンジョンに付き、俺たちが入口に向かうと、多くの人で溢れかえっていた。
「ウワサを聞きつけたのじゃろうな。ダンジョン内で何かが起きたと、興味本位で集まったのだろう」
「確かにあの配信の切り方は不自然すぎる……気になるのは無理はないか」
アーカイブは未だ配信サイトに残されている。
勿論、悪い部分で有名になった番崎に絡まれてるシーンも含めてだ。
調査員も既にダンジョン内に入っただろうし、探索者達が騒ぐのも仕方ない。
俺達は人混みを掻き分け、ダンジョン内の入口付近までなんとか近づくことができた。
「現在入場制限を行っています!! もうしばらくお待ちください!!」
「すみません!! 俺達、関係者なんですけど!!」
「もしかして音梨くんかい? 悪いけど今は非常に危険な状態で、ウチの者がダンジョンで調査しているんだ。気持ちはわかるがもう少し待ってくれ……」
「そんな……」
「安全第一とは都合のいい言い訳じゃのう」
ダンジョン内での殺人行為はダンジョンそのものの評判に繋がる。
曰く付きの場所だなんて知られたら、人が寄り付かなくなり収益も減る。
都合のいい言い訳とは、的を射ていると思う。
「……」
だが……俺はここで止まるわけには行かなかった。
「摩耶さん、俺に掴まってください」
「了解。全力でいけ」
「あの……そろそろ下がってくれると……」
「”神速”!!」
「うわっ!? ち、ちょっと!?」
俺は摩耶さんが身体に掴まった事を確認すると、”神速”を発動させ、職員の間を高速で通り抜けてダンジョン内へと侵入した。
ごめんなさい職員さん。
後で事情聴取とかたっぷり受けるんで、今はスルーしてください……!!
――――――――――
「この辺でストップじゃ、”神速”は温存しておけ」
「はい。後、胸元に隠しカメラの用意、そして【竜影剣】も」
「その武器はとてつもない力を秘めておる。飲み込まれるなよ」
二本の短剣を構える俺に、摩耶さんが忠告をする。
一つは以前から使っていた普通の短剣。
もう一つは例の【竜影剣】だ。
摩耶さんが口酸っぱくこの剣の恐ろしさを伝えるが、手に持つ俺にもその意味は分かる。
こいつ……気を抜いたら一人で暴れ出しそうな程、強い力を秘めている。
俺がやってやる!! と言わんばかりに剣が主張してくる。
とんだじゃじゃ馬だな……俺にこいつを制御できるのか?
「まずは二人がいる居場所を見つけないと。恐らく、隠し部屋かダンジョンの奥地に潜伏してるハズ……」
「調査員を探した方が良いかもしれん。ある程度は居場所の見当もつくし、探索者殺しも見張りとしてダンジョン内を徘徊しているじゃろう」
「では、周囲の気配を探りながら探してみます」
人の気配がないか探りを入れながら、歩き始める。
目に見える道だけでない。
壁や水の中など、隠し場所がありそうな箇所から少しでも違和感を感じ取れるよう感覚を研ぎ澄まる。
「っ!! あれは!!」
少し歩いた後、地面に倒れ込む二人の男性を見つけた。
が、
「っ……これは」
「すでに遅かったか……」
全身をズタズタに引き裂かれ、見るも無残な姿にされていた。
ダンジョン協会のイメージカラーである緑の戦闘服姿。
二人が例の調査員であることは間違いないだろう。
「……”探索者殺し”ですね」
「頭部や心臓など、人間の弱点を中心に狙っておる。こんな事、ヤツら以外にありえんじゃろう」
「死体が放置されてる……と言う事はまだ近くに?」
「可能性は高い。だが、断末魔や戦闘の音がなかった事から察するに、ヤツらは音や姿を隠せるハズ」
どこかに痕跡があるはずだ。
先ほどよりも集中して、辺りを見渡す。
死体、地面、壁、天井……ん?
あの洞穴の溝、僅かだけど赤い液体が付着しているような……っ!?
「”跳剣”!!」
今の殺気は!?
俺は考えるより先に手を出し、”跳剣”を殺気が向けられた方向に飛ばした。
「がはっ!? な、なんでバレたんだ!?」
「調査員はわかんなかったのに!!」
「貴様らはただの人殺し。いくら魔法があっても、暗殺や諜報部隊などのプロには及ばんよ」
「くそがぁ!! 死ねぇ!!」
姿を現すや否や、俺達に襲い掛かる二人の男。
こいつらが”探索者殺し”か……ちょうどいい。
新しい武器の試運転といこう。
魔法は新しいヤツで。
れな達の情報が必要だから、余り傷つけ過ぎずに威力は抑えめに。
短剣を中心に7つの刃が生成され、それを二人に向けて振るう。
「”連装・竜撃斬”!!」
「「っ!?」」
ズガアアアアアアン!!
7つの刃が探索者殺し達を一瞬で切り裂き、遠くの壁へと吹き飛ばされる。
それだけじゃない。
斬撃の余波が周囲の岩を粉々に砕き、瓦礫の山を形成したのだ。
正直、斬撃が出す音ではない。
「やりすぎじゃ」
「あれでも相当抑えましたよ?」
「抑えてあれか……」
一応作った本人、貴方なんですけどね。
摩耶さんも予想以上の性能に、苦い顔をしている。
「う、うーん……」
「天国が……みえる……」
「ま、意識があるから良しとしよう。後はわらわが……ほら、飲め」
「「んぐぐっ!?」」
摩耶さんが地面で伸びている探索者殺し達に近づき、謎の薬を無理やり飲ませる。
「な、何しやが……!?」
「身体が……!?」
「そいつは麻痺と自白剤を兼ねたシロモノでな……洗いざらい話してもらうぞ」
さてと、ようやく二人の居場所が分かりそうだ。
ーーーーー
「”無砲天撃”!!」
「「「うわああああああ!?」」」
徘徊していた探索者殺しからアジトの場所を割り出した俺達は、目的地まで全速力で向かった。
途中、何人もの刺客がやってきたが、俺と摩耶さんの力押しで突破できた。
「隠し扉ごと吹っ飛ばすヤツがおるか!!」
「色々手っ取り早いので。さ、行きますよ!!」
「う、うむ!!」
隠し扉があった場所に俺達は突撃する。
「……なんだこれ」
その先には、ダンジョン内とは思えない光景が広がっていた。




