第29話 動き出す事件
「タクシー!! こっちです!!」
俺は配信を見終わった後、すぐ外に出てタクシーに乗った。
妙な胸騒ぎがする。
二人が番崎に負けるはずがないと思っていても、あの自信ありげな表情に何か裏があると思ってしまう。
気のせいであればいいが……
「わらわもいくぞ」
「え!? 摩耶さん!?」
「あの子達の事がどうしても気になるからのう。あぁ、タクシー代はわらわが払うから安心せい」
そこまでしなくても、と思ったが今は甘えさせてもらおう。
二人を乗せたタクシーが出発し、目的地へと向かう。
場所は俺と二人が出会った新宿ダンジョン。
ここで案件配信をすると朝、二人から聞いた。
「……あの番崎という男、実力はそれなりじゃが二人には叶わん」
「俺もそう思います。番崎の【炎帝】では二人の防御網を突破するのは難しいかと」
「お主の言う通りじゃ。最も、いるのが番崎だけならの話じゃが」
「……」
摩耶さんも気づいていたか。
あの用意周到な番崎が、無策で二人に突撃などするはずがない。
自暴自棄になって捨て身の覚悟で突撃、なんて可能性はある。
しかし、映像からはそんな様子は全く感じられない。
いつもの自信ありげで傲慢な番崎の姿だ。
「不審に思ってあの配信をもう一度よく見たが……これを見よ」
摩耶さんのスマホにを映し出された1枚の画像。
その画像から番崎の腰元を拡大し、俺に見せてくれたのだが……何か持っている?
「まさか……銃?」
「銃の一部分に魔石のようなものが埋め込まれておる。これは魔銃じゃな」
「魔銃って日本では製造や所持が禁止されてるはずでは!? なんで番崎が……」
魔銃とはその名の通り、魔法の力が込められた銃だ。
魔石による魔力供給により、使用者の魔力を消費せずに魔力が込められた弾丸を放つことができる。
その性能は凄まじく、ただの警察官がAランクモンスターに対して、銃で圧倒できる程だった。
早い話、銃を扱う事ができれば、誰でも簡単にモンスターを倒せてしまうのだ。
その危険性から、日本では魔銃の所持や製造を一般人が行うことは法律で禁止される事となった。
「裏から取り寄せたんじゃろうな。海外では魔銃に関する制限が緩い場所もある。そこからこっそり日本へ……」
「魔銃の密輸入とか、ネットニュースで何度か見たことがあります」
「うむ。禁止されていても、それを欲してしまうのが人間という生き物よ」
いくら規制を厳しくしても、魔銃の密輸入を完全に防ぐことはできないのだろう。
しかし、それより問題なのは……番崎が魔銃を持っているという現実だ。
「まさか裏を味方につけたから?」
「ヤクザか、あるいは……闇配信者の探索者殺しか」
「探索者殺し……」
聞いたことがある。
ダンジョン内で探索者を殺したり拷問する様を、闇サイトで配信する連中がいると。
そういえば最近、探索者殺しを目撃したとSNSで流れてきたな……
「わらわはそっちの線が高いと見ておる。ヤクザにはせいぜい銃販売のシノギ相手としか見られん」
「いくら魔銃が強いとはいえ、一人で二人を相手にするのは難しいハズ……」
「好奇心で活動してる探索者殺しなら番崎にも協力するし、魔銃に関するツテもあるじゃろう……厄介な事に巻き込まれたのう」
探索者殺しが活動する理由なんて簡単だ。
面白いから、人を殺したいから、虐めて楽しいから。
クソみたいな理由で人を苦しめる、最低なヤツらだ。
ピピピッ
ピピピッ
「ん、電話が……高宮さん?」
軽快な着信音と共に電話に出る。
「高宮だ。事情は知ってると思うが、案件配信が終わってから二人と連絡が取れないんだ」
「だいたい把握しています。俺も今、例のダンジョンに向かってる所です」
「助かるよ。ボクも一応、事情を説明してダンジョン協会に報告をしておいた。じきに調査員が新宿ダンジョンに向かうだろう」
いくら危険なダンジョンとはいえ、ダンジョン内での不当な殺人行為は犯罪だ。
そういったダンジョン内での揉め事に対処するべく、協会には犯罪者に対応する調査員が配備されている。
調査員の実力は、担当ダンジョンでの探索に苦戦しないレベルであることが多い。
少しは余裕が持てるか……
「ボクとしても音梨くんが向かってくれるなら心強いよ。二人の事、よろしく頼む」
「任せてください」
高宮さんを安心させるべく、自信ありげに返答し電話を切った。
「覚悟しろ、ヤツらとの戦いは模擬戦やスポーツではない。手加減をしたら……死ぬぞ」
「……分かっています」
人と戦ったことは何度かある。
それは大体がくだらないもめ事だったり、喧嘩だったり。
終わり方も降参か気絶が多い。
だが、今回の相手は人殺し。
ダンジョン内で命を奪う事にためらいもない連中だ。
相手が本気で殺しに来る以上、同等の覚悟で挑まなければこっちがやられる。
「ま、考えていても仕方ない……ほれ」
「んぐっ!?」
無言で考えこむ俺の口を無理やりこじ開けられ、謎の物体を押し込まれる。
味は……何もない。
「ゲホッ……な、何飲ませたんですか!?」
「なーに、元気になる薬じゃよ。これで少しは安心して戦える」
「全体的にふわっふわした説明だ……」
「少なくとも緊張はほぐれたじゃろ?」
ニカッと笑う摩耶さんを見て、思わず笑みをこぼす。
これがベテランの風格と言うものか……流石だ。
「さ、着いたぞ」
タクシーを降り、目的地へと向かう。
待ってろよ、二人とも。
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