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第27話 真白視点・信頼できる人

「パパ……ママ……来たよ」


 無数の墓が並ぶ墓地。

 その中にある二つの墓石の前に真白は立つ。

 

 ”夢街広成”

 ”夢街由美子”


 真白のパパとママ。

 そしてパパは……真白が世界で一番大好きな人だ。


「最近オトプロに新人が入ってきた。すごく強くて、Sランクモンスターも倒してしまう。探索者の常識を変えてしまった、とんでもない人」


 軽く掃除をした後、線香を焚き、花を添える。

 そして墓石に水をかけ、両親が大好きだったカステラをお供えした。


 あれから何年が過ぎただろうか……


 目まぐるしく変わる日々の中でも、パパとの思い出を忘れることは一度もない。


『真白ー!! ほら、これが新しい武器だ』


『わぁ……凄く強そう!!』


『そうだろう? 何せ摩耶さんの新作だからなぁ』


『ふん、値段が高い高いって文句を言ってたのはどいつじゃ?』


『い、いやぁ……あはは』


 特にパパとダンジョンに関するお話をする時が一番好きだった。


 新しい武器、未知の魔法、モンスター……


 パパの語る全てが新鮮で、幼い真白に夢を与えてくれた。

 真白がダンジョンに詳しくなれたのも、パパのおかげ。 


 そして、最前線で戦い続けるパパの姿を、私は頼もしく思っていた。


 あの時までは。


『グオオオオオオオオオオオオオ!!』


『モ、モンスターだああああああ!!』


『みんな逃げろ!! 早く!!』


 ある日、モンスターが街に溢れかえった。

 本能のままに暴れつくし、無慈悲に人の命を奪い去る。

 なんてことない日常が、モンスターによって全て壊されていく。


 そんな脅威にパパは立ち向かった。

 大丈夫、終わったらまたダンジョンのお話をしようと約束をして。


『ま……しろ……に……げ……』


『パパ? パパ!!』


 だけど……パパは死んだ。


 真白がモンスターに襲われ、命を奪われる瞬間。

 パパが真白に覆いかぶさったのだ。


 パパは真白を守る為に己の身の犠牲にしてモンスターの攻撃を防ぐ盾となった。

 結果として真白は無傷だったけど、その攻撃が致命傷となりパパの命は奪われた。


 徐々に冷たくなっていくパパの姿を、真白は今でも忘れない。

 ママも……真白を逃がした後に亡くなってしまったらしい。


「……強くなったよ、パパ」 


 流石にSランクは倒せないけど、Aランクまでなら真白も対処出来る。

 それに、今では彼もいる。


「真白は……まだ彼を信用し切れない」


 まだ出会ったばかりというのも大きい。


 仮に信用しても、裏切られてしまうのではないか。

 パパみたいに死んでしまうのではないか。


 大事な人を目の前で亡くした真白は、他人を完全に受け入れる事が出来なかった。

 

「姉さんが心を許しているし、悪い人ではないと思う」


 姉さんが色々と規格外なだけ……という点は一旦置いておいて。

 ちょっと自信がないけど、彼は優しくて姉さんや真白の事を守ってくれる。


「そういえば、まだ一度も名前で呼んだ事がないな……」


 真白はあまり人を名前で呼ばない。

 リゼさんやまーさんは関りが深く信頼しているから、名前を呼んでもいいと思った。


 でも、彼の事を真白は受け入れたい。

 まーさんを紹介したのも、その為の一歩だ。


「でも……」


 前に乗り出し、パパの墓石を軽く抱きしめる。


「やっぱり真白には……パパしかいない」


 もう温かいパパの姿はない。

 冷たくて固い、無機質な現実がそれを証明していた。


「パパ……どこいるの」 

 

 どれだけ音梨無名がいい人であろうと、パパの代わりではない。

 パパはパパだし、音梨無名は音梨無名。


 当たり前の事だ。


 でも、真白が欲しいのは”パパ”……姉さんが欲した”恋人”じゃない。

 温かさや頼りがいのある姿。

 何より真白を喜ばせてくれたパパという存在は特別で何かに変わる物ではない。


 叶わぬ願いに思いを寄せながら、真白は落ち着くまで墓石を抱きしめ続けた。


――――――――――


「新型の盾……少し小さめ……悩む……」


 家に帰ると、真白は気分を変えるべく武器関連のカタログを開く。

 だいたい全てのページに目を通すけど、今回は盾関連のページを中心に読み進めている。

 

 彼が入ったことで戦闘スタイルにもかなり変化が生まれ、より柔軟さとシビアな対応を求められるようになった。

 盾だけでなく、小型のアイテムや新しい武器も取り入れたいけど……悩む。


「それ、新しいカタログ?」


「ん……週初めだから更新された。電子もいいけど、紙は紙で面白いことが書いてある」


 と、ソファに座る真白の後ろに彼が立つ。


 彼もこういうカタログは好きらしい。

 主な使用武器も短剣のみと、かなり癖の強いものを愛用するからだろうか。


「店によってマニアックな武器とか載せてるからなー……面白そうだし、俺も後で買うか」


 真白の後ろを通り過ぎ、自室に戻ろうとした時だった。

 彼のワイシャツをくいっと引っ張ると、再びこちらに顔を向ける。


「……よかったら一緒に読む?」


「え? いいのか?」


「ん、わざわざ買う必要もないし、真白も色んな意見が欲しい」


 これも好きになろうとする一歩。


 武器やアイテムに関心がある彼と、真白はお話がしたかった。

 姉さんはこういうのにあまり興味が無いし、相手としては申し分ない。


「ポアール社の新型盾……少し小型なのが気になる」


「真白は大きめの方がいいんじゃないか? 俺は素早いから避けられるし、ミミック戦のようにれなを守る時も大きい方がいい」


「こういうねばねば系のアイテムは……」


「これはいいな。動きだけじゃなくて視界も塞げるし。Sランクモンスター相手にも刺さるんじゃないか?」


「どれくらい効果があるか不明だけど、試してみたい」


「だな、後で買ってみるか」


「賛成」


 話が弾む。

 一つ一つの武器やアイテムに指を差せば、彼が色んな意見を言ってくれる。

 ソロだけあって、色んな物を試してきたらしい。

 

 その豊富な経験が真白に新しい刺激を与える。


「ふふっ」


「真白?」


「なんでもない」

 

 なんだか楽しい。

 まるでパパがいた時と同じくらい、心が躍っている。


 いつか、心の底から彼を信頼できるようになりたいな。

最後まで読んでくださり、ありがとうございます!

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