第17話 その頃番崎は②
「はぁはぁ……」
ダンジョンの中を必死で逃げ回る。
来た道はなんとなくだが覚えている。
恐怖で震える足を必死で動かし、前へとひたすら走り続けた。
「ぶべっ!? がべっ!! ごはぁ!!」
派手に転び、岩壁にぶつかり、野良のモンスターに不意打ちを喰らわせられても。
何も考えず、俺は入り口へと向かう。
「クソッ……なんで、なんでぇ!!」
始めの頃は超余裕で無双しまくり、Bランクダンジョンの攻略まであっという間だった。
だけどそこまでだ。
Aランクはバカみたいに強いし、超頑張らないと勝てない相手ばかり。
そうすると、俺が限界を迎えていると周りから疑われるようになっていた。
そんなわけねぇ。俺は最強だ、誰よりも強いんだ!!
俺は自分の立場を失う事を恐れ、Aランクでも確実に余裕をもって倒せる相手ばかり戦うようになった。
でも少しずつ、少しずつ実力はついて来たんだ。
だからいつか、Sランクも余裕で……
「あ……!!」
光だ!!
出口が見える……俺は、俺は助かったんだ!!
「よっしゃあああああああああああああ!!」
入り口を抜け、勢いよく地面へと倒れ込む。
「くそっ……想定外だったが次こそは……」
あんな化け物がいるなんて想定外だ。
おかげで仲間を失うし、俺もボコボコにされるし……
だが、俺は生きている。
俺には才能がある。
今日はダメでも次こそ、次こそあいつを……!!
謎の騎士への復讐に燃えていた時、俺の周りがざわざわし始めた。
「あいつ……番崎じゃね?」
「見た見た!! 謎のモンスター相手に逃げ惑う姿!! マジ情けないよね」
「リーダーの癖に仲間を見捨てるなんてありえないだろ!!」
「ずっとビビってるだけでなんにもしてないし、ただの置物じゃん」
なんだなんだ?
何で俺の悪口を言っているんだ?
内容もさっきの出来事を知ってるかのような……
「配信で見たけどさー、やっぱ番崎って大したことないよな」
配信!?
その言葉に驚きながら、俺はスマホを取り出す。
「な、なんだよこれ……」
そこに映し出されていたのは、俺達が謎の騎士と戦う姿。
俺が謎の騎士相手にビビりまくる姿が、しっかり映像に残っていた。
「うわ!? なんかやべぇ広まり方してる!?」
いつの間にか切り抜きが大量に拡散されていた。
どの動画も俺の情けない姿ばかり。
誰だ、誰がこんなことを……!!
「あいつか!!」
俺をカメラに納めようとか言ってたやつがいた。
あいつがこっそり裏でカメラを回していたんだ!!
ご丁寧に配信ボタンまでつけて……くそ!!
「見るんじゃねえ!! 俺は見世物じゃねえぞ!!」
わかりやすく大声を上げて周りを威圧するも、誰一人として従わない。
「散々俺のことを馬鹿にしやがって!! ボコボコにされてぇのか!!」
棍棒を取り出し、周りへとブンブン振り回すと野次馬も流石にビビって逃げ始める。
これでいい。力を振りかざせば、どんなやつでも従う。
どれだけ馬鹿にされようと、俺の実力を証明すればすぐに見返して……
「番崎ぃ!! くたばりやがれぇ!!」
「っ!?」
ドオオオオオオオオン!!
俺のすぐ後ろで突如、爆発が起きた。
「ゲホッ……な、なんだ……」
「てめぇのせいで俺の友達もみんな死んだ……だからぜってぇ許さねえ……!!」
「お前は……!?」
こっそりカメラを回してた佐々木!?
まさか生きていたのか!?
「があああああああああああ!?」
「へへへ……俺に荷物持ちをさせたのが運の尽きだったな……まだまだアイテムは残ってるぜぇ!?」
バリバリバリッ!!
大量の雷が俺の元へ降り注ぐ。
確か佐々木は攻撃アイテムを中心に運んでいた……
今のあいつは歩く爆薬庫。
全員分のアイテムを一人で使っているんだ。
ストックに底はない。
「おら!! おらおらおら!!」
「がはっ!! ぐふっ!! ごほぉ!!」
絶え間なく攻撃を重ねられ、反撃する隙を与えられない。
「どうしたどうしたぁ!? 俺達のリーダー番崎さんが情けないじゃないかぁ!!」
「ま、まて!! 俺が悪かった、俺が悪かったからぁ!!」
雨のように降り注ぐ攻撃アイテムの数々に、俺の体はどんどん傷つけられていく。
全身は膨れ上がり、出血も酷く、おまけに涙と鼻水まで流れている。
極めつけはこの情けない叫び声。
それがダンジョンの入り口付近で響き渡った。
バァン!! バァン!!
「君、何してるんだ!! こんなところで魔法を使うなんて!!」
「連行してやる、大人しく来い!!」
「ぐっ!? は、はなせぇ!!」
と、騒ぎを聞きつけた警備員達に銃で撃たれ、暴れ回る佐々木は取り押さえられた。
その後も俺に対する恨み言を叫んでいたが、警備員二人の前ではなすすべがなく、遠くの方へと連行されていった。
「やっぱ番崎って……」
「かつての仲間にやられるようじゃあねぇ……」
「俺、さっきのやり取り全部動画に撮っちゃった!!」
残されたのはボコボコにされた無残な俺の姿。
反論の一つでもしてやりてぇが、身体が全く動かない。
「なんで……」
今まで上手くいってたのに。
誰もが俺を恐れて慕っていたのに。
それが今では……このザマだ。
「うあああああ!! ちくしょおおおおおお!!」
身体を僅かに震わせながら、今の感情を精一杯の叫び声に込める。
ここから番崎の転落人生が幕を開けるのだった。
◇◇◇
「これが番崎さんですか……Aランク級の実力があり、炎を操ることが出来る……」
デバイスに表示された番崎のデータ。
身長、体重、潜在スキル、使用魔法、戦闘スタイル……
あらゆる情報が余すことなく記載されている。
「私達の”闇配信”にバリュエーションが増えそうです……しかし、問題は次のターゲットをどうするか……」
同じ所をぐるぐる回りながら、次の計画について考える。
前はバズり始めた若手配信者を、その前は引退を決めたベテラン探索者を。
両方とも盛り上がったが、次はもう少し派手な相手を狙いたい。
例えば有名で、キラキラ輝いている存在……
「……オトプロとか面白そうですねぇ」
一つのチャンネルが目に入った。
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