第14話 VS影の騎士②
「素早くて正確に当てられて、尚且つ一撃で決められる魔法……」
イメージする。
素早さは”跳剣”がいいかな。バウンドもするし加速力なら群を抜いている。
正確に当てるなら”操演”、一撃で決めるなら……”エアストブラスト”か。
3つの魔法が混ざり合う姿を頭の中で想像し、形として具現化していく。
「おお……」
そして完成した1つの魔法。
拳サイズで丸く、真っ白な物体。
だが、とてつもない魔力が込められている事は分かる。
使い方は……なぜだろう。
出来たばかりの魔法なのに、説明書が頭の中に入ってるかのように分かる。
もちろん名前も。
「”無法天撃”」
一瞬だけ影の騎士に視線を向け、創造魔法を放った。
「っ!?」
「え!? 何々!?」
”無法天撃”が手元から離れた瞬間、とてつもない加速と共に影の騎士に向かって飛んで行く。
そのスピードは凄まじく、”無法天撃”の周りにあった弾幕を全て吹き飛ばしてしまう程だった。
『uuuuuu!?』
ブオオオオオンッ!!と高速で向かう一つの魔法。
謎の魔法の存在に、影の騎士も動揺している。
自らの弱点がばれていることは分かっているため、守るためにあらゆる手を使って反撃していたが……
「全部効いてない……」
影弾は弾き飛ばし
逃げる手を追いかけ続け
影の中に消えても、その陰そのものを消し飛ばす。
『uuuuuuuu!!』
ドォオオオオオオオンン!!
影の騎士の手元に当たった瞬間、とてつもない魔力と風圧が一気に外側へと広がり、大爆発を巻き起こした。
「へ?」
その影響は勿論、戦っていた俺達もだ。
「「「うわあああああああああ!?」」」
爆発によって全員が吹き飛ばされる。
凄まじい轟音と重なり続ける瓦礫の山。
俺が覚えているのはそこまでだった。
――――――――――――――
「ん……?」
「無名くん!? 大丈夫!?」
「あぁ、なんともない……影の騎士は?」
「バラバラに吹き飛んで魔石と素材に……見てこれ」
「は……」
目を覚ました俺の視界に写り込んだのは、だだっ広い更地と化した、ダンジョンの変わり果てた姿だった。
学校の運動場ぐらい広いんじゃないか?
岩壁で囲まれていたのに……たった一発の魔法でここまで変わるとは。
劇的〇フォー〇フターもびっくりの変わり様に、俺は呆然と眺めていた。
「立てる?」
「手、どうぞ」
「あ、あぁ……」
未だ倒れている俺の手を姉妹が引っ張って起こしてくれる。
起き上がる際、ふとコメント欄が視界に入った。
コメント欄
・やべえええええ!!
・未確認モンスターを初見で倒すなんて!!
・この新人すげぇな!!
・新たな伝説の幕開けだ!!
・神回確定
「おお……」
リスナーがみんな興奮している。
正直量が多すぎて全部は把握できていない。
だが、俺たちを称える内容で溢れ返っていることはわかった。
「すごいよ無名くん!! 謎のモンスターを一撃で倒しちゃうなんて!!」
「真白も驚いた。やはりとてつもない力を秘めている」
「あ、ありがとう……」
れなもテンションが上がっており、腕と尻尾をブンブン振っている。
真白はよくわからないが、羽がいつもにパタパタと動いてることから、悪い気分ではないのだろう。
なんだろうな……これ。
一人でいた時には味わえなかった、この状況。
周りから馬鹿にされ、見捨てられて、ただ一人で黙々とダンジョンに潜り続けていた。
それが今では、顔も知らない多くのリスナーに褒められて、俺の力を認めてくれる仲間と出会えて。
「なあ、れな……」
「ん? なーに?」
「今、最高に楽しいわ……」
「えへへっ!!」
この瞬間が、今までで生きてて一番幸せだ。
心からそう思った。
「アタシも楽しいよー!! だってこんな凄いもの見ちゃったんだもーん!!」
「おわっ!? 急に引っ張ると……」
「へ? きゃあ!?」
力を抜いているところをグイッと引っ張られたせいで、バランスを崩して前に倒れ込んでしまう。
「いてて……ん?」
むにっ
何か柔らかいものが手に……というか地面に体をぶつけたら普通固いはずなのに。
まるでクッションにでも包まれたかのような、非常に気持ちいい感触が……
「っ!?」
「ん……っ!?」
目を開いた時、俺はその感触は何かに気づいた。
むにむに、と弾力のある素晴らしい触り心地。
それを与えているのは紛れもない、れなの豊満な胸だった。
「へ……あ、む、むめーく、くん……?」
「ご、ごごごごごめん!!」
「う、ううん……ア、アタシも悪いから……」
顔を赤らめ恥ずかしそうな表情を浮かべるれなから、慌ててバッと離れる。
いつも自分のペースではしゃいでいるのに、こういう時はしおらしくなるらしい。
意外と乙女な部分もあるんだなぁ……ってそんなこと考えてる場合じゃない!!
今、俺はとんでもないラッキースケベをやらかした!!
未だ頭に残り続ける胸の感触に動揺しつつ、れなとの次のコミュニケーションを考えるが一向に思い浮かばない。
あぁ、でも目をつぶってたあの時はすごい幸せだったなぁ……
と、下世話な記憶を振り返ってると、後ろからセクハラにあった女性の妹から冷ややかな視線を向けられる。
「確かに楽しくなるね。全男子の夢だから」
「俺の言葉を引用しないで!?」
「そ、その……やる時はちゃんとやるって言ってほしい……」
「れなも落ち着いて!? ええと、これはだな……」
まずい!!
真白はにやにやしながら俺を面白がっているし、れなはれなで危ない発言をしているし。
この状況を打破する方法が俺にはない!! 助けてリスナー!!
コメント欄
・こいつを殺せ
・教育教育死刑死刑教育教育
・絶対許すな!! 地の果てまで追い詰めろ!!
・やりやがったなこいつぅ!!(血涙)
大半の視聴者が俺に嫉妬の憎しみの目を向けていた。
そりゃあはそうですよね。俺だって視聴者目線だったら羨ましく思うもん。
美少女配信者の胸を揉むなんてさ。正直最高でしたよ、えぇ。
ただ、この地獄みたいな空気は最悪でして……もうこれしかないか。
覚悟を決め、俺は地面の上で正座をすると……
「本当にすいませんでしたああああああ!!」
地面に頭をつけ、全力の土下座を披露した。
ちなみに後から聞いた話だが、俺の土下座とれなが胸を揉まれる切り抜きは、非常に再生回数が多かったのだとか。
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