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霜焼け  作者: ながた
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34の私とこんぶ

身が凍える。12月の札幌の寒さは根っからの札幌人ある私の身にですら応えます。「ちくしょう、足の感覚が無くなってきたな。」そんな思いをしながら、繁華街を通り抜けます。どうも寒さだけでなく人工の光に晒されるのも気分悪く感じてきたのですが、「かまっていられない、早く帰るのだ。」その一心で家路を急ぎます。

 ちょうど角を曲がれば私のアパートが見えるという所で無性に腹が立った。一匹の黒猫がこんなに寒そうなのに街灯から離れようとしない。毛は吹雪に吹かれ私を威嚇するように逆立っている。「おい、早く帰ってしまえよ。」私は酔っ払いを追い出す店主のような声で言った。それも仕方がない。私には長年、弱き者を助ける勇気もないのに見ると放って置けなくなる性に苦しんでいるのだ。今だってこのまま見過ごす事はできないくせに拾って飼う勇気も無い。だが、事態が変わってしまった。この黒猫は街灯に寄り添っていたのでは無い。街灯が鉄でできているために、毛と体の一部がくっついてしまっていたのだ。「これはえらいことに巻き込まれた…」そう思うと同時に、(当然喜びなどでは無いが)助ける理由ができたような気もした。偶然にも昼頃水筒に移し替えたホットの昆布茶がまだ温かかった。「どうせ飲む事はない、こんな使い方でも良いんだよな…」蓋を開け、人差し指の第一関節を浸し火傷しない事を確かめた。逆立った毛を鎮めるように腰から尻へ昆布茶とともに私の手を流す。触り心地こそ違ったものの、幼い頃親父の背中を流した事を思い出した。あれも別に好きでやっていたのでは無い。体に障害を持つ親父を気にしてだったように思える。「そうか、あの頃は当たり前にできていたのか。」

 ちょうど、昆布茶が無くなったと同時にこんな性格になった時を遡り探すのを辞めた。黒猫はようやく鎖を解かれどこへでも行けるというのにこいつは行こうとしない。きっと、食肉場に送られる家畜ならばその時だけは意思を持って逃げ出すだろうに。「おい、はやくかえってしまえよ。」今度はおつかいに来た子どもに話しかける店主のような柔らかい口調だった。その言い方がいけなかったのだろう。黒猫は足元に寄ってくるし、なぜか余計に見捨てづらくなってしまった。そうして私の頭の中は後悔が八割埋め尽くし、脳みそも正常に機能しなくなった。決して小さくは無いカバンを脇に抱え、まだ少しだけ抵抗の意思を持つ私の腕は真っ直ぐに伸びたままこの黒猫を持っていた。滑稽な行進で角を曲がり、「おい、まだ逃げ出せるんだお互いに。」と何度念を送るように心で唱えたか。とうとう家に着いてしまった。齋藤と書かれた表札が動物禁止となっていれば口実にでもなったのにと無駄な言い訳をしてみる。玄関で靴を脱ぎ、ネクタイを緩めるのも忘れたままその場で黒猫と睨めっこしてみる。このまま朝になっても気付かない。そのくらい真剣に、「どうすればよいか。」という問一を解き続けた。

 本当に朝になった。そして、ようやく解けたのだ。「これはまずい。」風呂に入る事も、着替える事も、霜焼けになりかけの足を温める事も忘れて出した答えがあまりにも単純なのだ。その瞬間「どう育てる?」「責任は取れる?」「逃げれないだろう?」などという脅迫文が私の元にいっぱい届いた。「昨夜酒を飲んで記憶を無くし、気がついたら黒猫がいました。」なんて言ったらニュースに出てくる犯罪者と一緒じゃないか。もう逃れられない事は分かった。同時に(これもうれしい事ではないが)育てる理由を見つけたのだ。そうと決めたらまずは寒い中睨めっこさせたことを謝ろう。途中で君は寝てしまったが、私の負けなのだ。

三十四にもなって黒猫に謝っているのは幼い自分も予想できなかっただろう。「ごめんなさい…」そう言うと黒猫は「ニャ〜。」と許してくれるように鳴いた。部屋に入れようと抱き上げたとき、昆布茶の生臭い匂いがした。「こんぶ。」不意に出た言葉だったが黒猫は「は〜〜い。」と返事をした。私はこんぶを落としかけた。「しゃ、喋ったのか、今…」「まさか…」「こ、こんぶ」少し怯えながらもう一度呼んで耳を澄ました。すると、「ニャ〜。」と腑抜けた声で返事をした。「なんだ、びっくりさせないでくれよ。私が夢みがちな恥ずかしい男みたいじゃないか…」と言い自分を夢から引き揚げた。


初投稿なので続きを書くかは決めかねています。

初投稿なのですが、見ていただけると嬉しいです。

まだ続きを発表しようか決めかねています。

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