第8話「この男、不審者につき」
「俺様達を待っていた?」
「そうサ」
困惑するテッペーを前に、堂々と格好を付けるハートレッド。
どう見ても不審者だ。アルファやテッペーと同じヒーローとは思えない。それにウザイ。
今さっき会ったばかりの人間に「待っていた」なんて言われても、流石に嘘としか言いようがないだろう。
「そういう君達はただのパトロール中カナ?」
「いや、アタシらも人を探してる」
「だろうネ」
「は?」
加えて、こちらの事情を把握している。益々怪しい。
すると、ハートレッドは胸ポケットから小さな紙切れを取り出すと、怪しむ目で見てくる2人に見せる。
よく見るとそれは名刺だった。
「僕は“スーパー級”ヒーロー『ハートレッド』サ」
スーパー級。それを聞いてアルファとテッペーの目が一瞬だけ大きく開く。
名刺には確かに、彼の名前とスーパー級ヒーローの文字が記されていたのだ。
そして、2人揃って呟いた。
「「え、このナルシストが?」」
その瞬間、ハートレッドの表情が歪んだ。まるで信じられないモノを見るかのように口元が引き攣っている。
星の守護者である自分が普通に下に見られていたからだ。
「……ハ、ハハハ!」
だが怒ることはしない。ハートレッドにもヒーローとイケメンの矜恃というモノがあったからである。
「君達、意外に無礼だヨ! 僕ビックリしちゃった! ハハハ!!」
しかし傷付いた事は事実だ。彼の心は硝子の様に繊細。
なので、彼はこうすることにした。
「君達、いいかい? この世には言っていい事と言ってはいけない事があるんだヨ?」
これ以上言われないように優しく諭したのだ。間違いは誰にでもある、だから次からは気を付けようの精神なのだと。
「そうだな。で、お前がスーパー級ヒーローだから何なんだよ」
そして適当に流され、テッペーから質問される。どうやら話を聞いてはくれたが、聞き入れてはくれなかったようだ。ヒーロー階級の話でさえも。
ハートレッドは気を取り直すとフッと笑う。ウザい。
「僕の次の任務は“衛星『ウージー』へ行き、レア級ヒーロー2名と協力してアヤカシのアジトを襲撃する”ダヨ」
アルファとテッペーは顔を見合わせた。その内容は多少違えど、なんと自分達と同じ任務だったからだ。
不思議そうな顔をする2人に対して、ハートレッドは話を続ける。
「つまり、君達が探していたのはこの僕って事ダ」
つまり、2人が今回一緒に行動する相手は彼――ハートレッドである。
それが分かった途端、テッペーは深くため息を吐いて項垂れた。相手はスーパー級ヒーローなのに、振る舞いからしてどう見ても自分達より弱そうなのだから。
一方、アルファは暗い表情することなく立っている。
「まあ、何とかなるか」
性格や振る舞いが弱そうだからとかは関係ない。何か突出した強みがあるからスーパー級ヒーローなのだろうと、彼女は理解していた。
早く借金を返すためにもアルファは上にいかなくてはならない。だからより上の者の力に興味があったのだ。
――そんな彼女を見て、ハートレッドはニヤリと笑う。やはりウザい。
何故なら彼にとっても、今回の任務はある意味都合が良いと考えていたからだ。
(後輩と同行……ちゃんと格好良い所魅せないとネ)
こうして3人は衛星『ウージー』へ向かう為に、SSS本部に戻るのだった。
◇
衛星『ウージー』は、キョートにとって月そのものである。多くの者が、恒星から反射される光を受けて今までの夜を過ごしてきた。
そこを犯す不届き者は、始末しなくてはならない。しかもそれが人類の敵であるなら尚更だ。
アルファ達はSSS本部に常設されている星間移動装置を使って衛星ウージーの基地に降り立った。
「うわー狭いなここ」
「ここに用はないサ。さっと任務を終わらせるヨ」
そう言って外へ出た。すると目の前に映るのは砂利の世界。
「マジでなんにもないな」
銀の鎧戦士――アルファは辺りを見渡しながら歩く。
「そりゃ衛星だからネ。酸素すらないヨ」
その隣では、顔全体を覆うマスクを着けたカウボーイ姿の男――ハートレッドが平然と歩いていた。
彼のコスチュームは全身にフィットするよう特殊な繊維で作られている為、動きやすくできている。そして宇宙服としての機能も持っていた。
「…………」
そんな2人を尻目に、無言のままメモ帳に何かを書くテッペー。そしてそれをアルファと人に見せる。
「えーっと『空気が無いから声出せない』だってサ。テッペークン」
「じゃあ今度頭装備だけでも造っといて……ってのも聞こえないのか。え、すごい面倒じゃん」
彼らの会話は口元のマイクを使った通信で行なっていた。
対して生身の状態で来たテッペーはマイクも使えなければスピーカーも使えない。完全に黙らされていた。
「さて、アヤカシのアジトを探そうカナ」
「でも周り見た感じ何にも無いけど」
アルファの言う通り此処には何も無い。衛星であるこの場所には基地以外の建物どころか植物すら存在しないのだ。
「フッ、それはどうだろうネ」
だがハートレッドは自信ありげに笑う。この男、動く度に笑ってばかりである。
「地表に無いというのなら、僕達が探すべきは地中になるんじゃないカナ?」
「地中……ああ、そっか分かったかも」
するとすぐにアルファは地面へ向けて拳を構える。
「えっと、まさか……」
「そのまさかってヤツ!」
実はウルトアーマーには改良が入っていた。
巨大採掘場『ヘアン』にて拘束したレア級アヤカシの身体構造を参考にし、人工筋肉の繊維をより強固なモノにした事で更に馬力を向上させたのだ。
――よって生まれたのは、手加減無しの一撃!
「あ、やば。強過ぎたかも」
それは周囲を大きく揺らすと攻撃した地点から徐々に罅が広がり始める。
「普通にやり過ぎダヨ! これだと足場が崩れる!」
ハートレッドにとってこれは予想外だった。確かに地下にいる的な事とは言ったが、彼女がいきなりそのような無茶に出るとは思っていなかったのである。
「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」
この日、衛星『ウージー』に2人の悲鳴が響き渡るのだった。
星間移動装置:星と星を繋ぐ特別な瞬間移動装置。
ウルトアーマーMk-2:レア級アヤカシの筋肉構造を模した事で更に馬力が向上した。




