第6話「昇級した」
任務を終えてから数日が経ったある日、アルファとテッペーはSSSの本部長室にいた。
「先日のヘアンの1件、ようやったのう」
通常の任務であれば、一々こうして呼んだりはしない。彼女らが呼ばれたのは一重にテッペーの立場にワケがあったから。
「本部長、報告書です」
「む、どれどれ」
彼は監視役だ。経緯がイレギュラーなアルファが、このままヒーローとしてやっていけるのか判断する為の。
「爺さん、褒める前に出すモン出してください」
その結果を纏めた書類を提出しているとは知りもしないアルファは、報酬をシンプルに要求する事にした。
「おや、チンピラを呼んだ覚えはないのじゃが」
「一体どこにチンピラが? あ、すぐに捕まえるんで金ください」
「見間違いじゃった。正しくは強盗じゃな」
クロノスはテッペーから渡された資料を読みながら、アルファと適当な会話をしていた。大して中身が無いので単なるボケのオンパレードである。
いや、アルファの方はそうでもないかもしれないが。
(俺様、もう帰っていいか)
テッペーは目の前で繰り広げられる会話に、内心溜め息をついていた。ここへ来る前から、どうせこうなるだろうと薄々勘づいていたからだ。
彼は天性のツッコミ担当。アルファだけならまだしも今はクロノスも居る。そうなると1対2という構図になり話に追いつけなくなってしまう。
要は、変なボケが連鎖してこちらに飛び火した時のことを考えると頭が痛いのである。
「テッペー。この報告書、活字ばかりでつまらんぞ」
「そ、そうですか」
「もうちょっとグラフとか、写真とか貼ってカラーバリエーションつけてみたらどうじゃ。今のこれは白黒だけじゃし」
これだ。テッペーにとってこの2人の嫌な所は、さっきまでボケていたと思いきや突然真面目な話をしてきたりするところである。
ここが徹底的に合わない。嫌いなのだ。その内、何か大事なものまで聞き逃してしまいそうだから。
「そうじゃ、アルファよ」
「なんですか」
「君は今日からレア級ヒーローじゃ」
「お、マジ? やったやった!」
サラッと昇級するアルファ。それを聞いたテッペーは驚きを隠せなかった。
(初任務で昇級とは、俺より早いな)
テッペーのヒーロー歴は短い。アルファと1ヶ月程度しか変わらなかった。
――そんな彼がレア級になったのはつい最近の事だ。
『君の相棒が決まったぞ』
『へぇ、誰ですか』
『さっき街に着陸した宇宙船の子じゃ』
『その人、今捕まってませんでしたっけ』
『事情があっての、ヒーローになってもらうつもりじゃ。そこでなんじゃが君には見極めてもらいたい』
『何をです?』
『本当に彼女がヒーロー足りえるのかをな。要は監視として働いて欲しいんじゃ。なので今日から君は彼女の上司――レア級じゃ』
『んな適当な……』
クロノスは軽く昇級させてくる。それがあまりに軽いものだから、もしかしたら聞き逃して自分の階級をずっと勘違いしてる人もいるのではないだろうか。
「彼女を昇級させて俺様と並ばせたって事は、そういうことですか」
「うむ。これより君達2人は正式に組むことになった」
その決定に異論は無かった。お互いに「異端者である自分が組むなら同じ異端者のコイツだろう」と心の底から思えたから。
ある意味、似た者の2人。
しかし戦いにおいてそのポジションが被ることはなく、それぞれが武器としているモノも全然違う。それがこの上ないほどに相性が良かったのだ。
「これからもよろしく、テッペー」
「こちらこそだ、アルファ」
◇
「そういえば最近、この銀河系でウルトラ級のアヤカシが出たって噂になってましたがどうなりましたか?」
テッペーの口からそんな話が挙がった。
「それについては現在、レジェンド級ヒーロー『ザ・ワン』が調査中じゃ」
「「レジェンド級!?」」
レジェンド級ヒーロー、SSS内にたった2人しかいないとされる最高戦力。守護範囲が宇宙全体であることからもほぼ間違いなく戦闘能力は最強であろう。
そしてその2人の中でも特に強いのが『ザ・ワン』だ。
名に恥じぬ実力を持つそのヒーローは、誰とも組まず常に孤高という話。故にフットワークが軽く、1日で10件以上の任務を終わらせてしまう。
「何故レジェンド級が動いてるんですか」
テッペーは疑問を呈した。
相手はウルトラ級のアヤカシ。ならば、レジェンド級ヒーローが動く必要はあまり無いとも言えるだろう。
だが実際は違う。
「アヤカシもヒーローも両方に言えることじゃが、ウルトラ級はピンキリでの。所持している『異能』によっては、レジェンド級に成り得る存在もいるにはいるんじゃ」
ウルトラ級ヒーローは銀河系の守護。ならば同じ階級のアヤカシであれば基準は“銀河系の破壊”となる。
――銀河系を破壊出来るのだから宇宙だって壊せてもおかしくない、というのがクロノスの見解。
加えて、相手は未確認のアヤカシである。
基本的にアヤカシを見つけたら殲滅するのがヒーローだが、ごく稀に相手が強過ぎて取り逃してしまうなんてこともある。
そんなのが闊歩する宇宙で、未だに発見されていないウルトラ級ということは何をしてくるか分かったものじゃない。
だから何事にも対処出来るヒーロー最強の『ザ・ワン』が向かったのだ。
「まあ任務をこなしていけば、その内、出くわすかもしれんな」
「ウルトラ級、か……」
アルファは想像する。レア級の時点で通じなかった自分が、ウルトラ級――それも最高クラスと戦えば一体どうなるか。
(――死ぬ。生きてたとしても部位破損は免れない)
おかしいことに想像上ですらどう戦うとか何も浮かばなかった。ただ死が待っているのみ。彼女は冷や汗をかいた。
曰く、異能を持つであろうアヤカシが何をしてくるか分からなかったからだろう。
(……出来れば、今は会いたくないな)
敵わないことに悔しくもそう思うしかなかったアルファだった。