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第4話「でも倒せない」

「テッペー!」


 遠くにいたアルファは、自身と取っ組み合っていたアヤカシを瞬時に蹴り飛ばし、テッペーの元へ駆けつける。


 もう彼女の行く道を阻む者はいない。それは背後に折り重なった無数の亡き骸が教えていた。


「想定が当たった。群れのボスだ」


 見上げながら背中の鞘へ刀を収めるテッペー。その時、灰の巨人(アヤカシ)からは決して目を逸らさない、いや逸らせない。


 推定、自身と()()()()であろう目の前のアヤカシの一挙一動を見逃すワケにはいかないのだ。先程とは違って油断など出来るはずもなかった。


「2人でやれると思うか?」


「それこそ“無論”ってヤツでしょ。何訊いてんの」


 ここで退く者はヒーローではないのだと、当然のように言ってみせるアルファ。

 その様子に、テッペーはフッと笑う。


「そうだったな」


「――1人でやるに決まってんでしょ!!」


「いやいやちょっと待て!」


 返事を聞いた瞬間、超速(ちょうそく)()んでいくアルファに待ったをかけるテッペーだったが、時既に遅し。彼女はもう相手(アヤカシ)の方へ真正面から殴り掛かっていたのだった。


「ああ……そういう事かよ、理解した」


 テッペーは悟った。


 彼女の言う“無論”とは『2人でやるとかダルいわ、1人でやるに決まってんでしょ』だったのである。


「なっ!?」


 だが、レア級とされる敵の強さは決して伊達では無い。


 なんとアルファの拳へ合わせるかのようにアヤカシもその巨なる拳を振り抜いたのだ。

 暴風が唸るも質量の塊に為す術なくアルファは拳を受ける。


「ぐぇ」


 虫でも潰されたか。先程までの勇ましさの欠片も感じられない悲鳴が聞こえると、彼女はテッペーの元へ叩き落とされた。


 まるで大爆発でも起こったような凄まじい土煙が立ちのぼる。


「ゲホッゲホッ! 無事かおい!」


「いやぁ、デカいヤツってちゃんと強いんだなぁ」


 意外に無傷だったアルファは立ち上がる。


 しかし、その脚はふらついていた。優秀な機能が多い天下のウルトアーマーでも、衝撃だけはどうしても無効化出来なかったのだ。


「うぇ、吐きそう」


「あの巨体だ、皮膚も相当分厚いに違いない。体に直接攻撃はやめにしよう」


 テッペーは作戦を持ちかける。このままでは勝算がないと感じたからであろう。


 確かにダラダラ戦っていても体力を消費する一方だ。

 それに、早めに仕事が終わる事に越したことはない。


「まずは俺様が隙を突いてヤツが唯一剥き出しにしている内臓――眼球を潰す、話はそれからだ」


「え、何? 無力化でもすんの?」


「理解が早いな」


 アルファも馬鹿ではない。頭の回転はかなり良い方だ。でなければ、話を聞いて瞬時にボケを返すこともないのだから。


「……よし分かった。拘束なら任せて」


「いいだろう」


 先程とは違い、文字通り“打って変わって”話を聞くようになった彼女の自信満々な様子に、テッペーは特に理由を聞くこともなく重要なその役目を預けた。何か秘策でもあるのだろうと踏んだからだ。


「「さて、やるか」」



 ◇



 同時に別々の方向へ駆け出した2人。


「これがアタシの全力!」


 そしてアルファは両手から炎を出すと、アヤカシへ殴り掛かる。


 だが肌が分厚いのか、将又(はたまた)、火力が足りないのか大したダメージを与えることなく弾かれてしまった。


「まだまだぁ!」


 それでも負けることなく両拳での連打に加え、渾身の蹴りを数発ヒットさせる。


「グォオ!?」


 攻撃によりアヤカシが大きく仰け反ったが、渾身のモノでこの程度だ。これまでの拳打が通じなかったのも頷ける。


 ぶっちゃけ、彼女にもうこれ以上は無い。


 自身より10倍以上体格差のある相手を動かせたのだから、それはそれで充分な馬力(パワー)だろう。


 しかし破壊するまでには至らなかったという事実が、アルファに圧倒的な力不足を痛感させた。


「今度、スーツの強化しとくか……」


 彼女の着ているウルトアーマーは言わば金属の塊だ。適当な強化パーツさえあれば無限に強くなれる性質を持つ。


 今回だって、力が足りないのであれば更に高性能な人工筋肉を搭載すれば済む話である。


「ってかさ」


 さて、ここで話は変わるが、他のヒーローの装備の説明をしよう。


 端的に言うと、ヒーローは金属だけで出来た装備だけを身に纏っているわけではない。


 では実際、何を素材に使っているか?


「ここに丁度いい()()が突っ立ってるじゃん。だったら……」


 それはアヤカシである。


「アタシが使ってやるから負けてもらう!!」


 啖呵を切った。まともな傷すら作れず、最早脅威ですらないような小娘が敵うはずのない格上に吼えたのだ。


 すると、耳を貸すまでもないその声にアヤカシは反応した。


 灰色の巨人(アヤカシ)は凶悪な笑みを浮かべると、まるで(あり)を踏みつけるかのようにアルファの頭上へ素早く足を下ろす。


「ぐうっ……!」


 意地ゆえか避けずに立ち向かったアルファは、踏み潰されずに両手で耐える。力の差は歴然で余裕は無い。絶体絶命だ。


 ――だが、彼女はこの状況を狙っていた。


「今だぁ!!」


「『鬼鉄丸鉛(きてつがんえん)』」


 意識外から2撃。目にも留まらぬ神速の刺突がアヤカシの視界を潰した。


 アルファは分かっていた。会敵した際にテッペーを置いて向かって行った時から、自分のみではこの怪物を捻じ伏せられないと。


 だから素直に作戦を実行に移した。隙を作る事だけに専念した。


 彼女が取るに足らない存在へ成りきることで、アヤカシの根本的悪意である加虐心をくすぐったのだ。


「散々舐めてくれやがったな」


 未だ退けられていない足を持ち上げるアルファの手には、()()()()()()()


非殺(ひっさつ)


 ウルトアーマーの機能は『()()()()()()』のではない。


――『()()()()』のである。


「『ハイパー・コールド』」


 アルファの掌から絶対零度の波動が発生した。


 何事かと驚いたアヤカシだが迫る冷気はすぐさま足から広がっていき、どうにか暴れようとするその巨体の動きは徐々に鈍くなっていく。


 やがてそれは全身を包んだ。


「拘束、完了」


 アルファがそう呟くと同時に、ウルトアーマーの電源が切れて彼女は脱力するように倒れた。

巨大人型アヤカシ(レア級):単純に大きくなった人型アヤカシ。全身から放射線を放っている。

 巨大化したことで強化されたその筋力は天候を変えるほど。ひとたび暗雲立ち込める空へ拳を放てば一筋の光を生み出す。


ハイパー・コールド:熱を操ることで絶対零度の冷気を出して対象を凍らせる。拘束技。


鬼鉄丸鉛(きてつがんえん):神速の刺突。意識外からの攻撃。

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