第3話「2人の力」
惑星キョート中心都市郊外、巨大採掘場『ヘアン』
建築に使う岩石や、装置に必要なレアメタルの発掘が盛んで、規模の大きさ故に観光地としても有名な場所だ。
しかしその行き道はがらんとしていた。代わりに帰り道は大渋滞を引き起こしている。
時刻は正午。普通に考えて観光地への行きより帰りの方が多いなんてありえない。どちらかと言うと行きも帰りも両方多い時間帯だろう。
つまりこれは、まさしく異常だった。
それもそのはず、現在ヘアンでは大量のアヤカシが大暴れしているからだ。
そしてその解決にアルファとテッペーは駆り出されているのだった。
「SSSって、タクシーとか出してくれるんだ」
「まぁな」
おかげで彼女らは渋滞の無い道路をスムーズに移動でき、いち早く現場に着ける。
やろうと思えば自分達の足で向かう事も出来るが、アルファはそれを面倒くさがったのでタクシーという訳だ。
「報告を見る限り向こうにいるのは雑魚ばっかだ。まあ、強くてレア級か」
「レア? 肉の焼き方ならアタシはミディアムの方が好きかもな」
「ん?」
「ん?」
聞き慣れない単語を突拍子もなく言い出したテッペーに対し疑問を抱くアルファ。彼女なりに言葉を返したつもりだったが、状況的に的外れだったようだ。
途端に流れる沈黙。お互いの頭上には『?』が浮かんでいた。
「……まさかお前教えてもらってないのか?」
すぐに気を取り直して、彼は信じられないモノを見るかのような目で彼女を見た。
「教えてもらってないって?」
「ヒーロー階級のことだ」
ヒーローには『ヒーロー階級』というモノがある。
低い順からノーマル級、レア級、スーパー級、ウルトラ級、レジェンド級といい、それぞれ担当する規模が分けられている。
ノーマル級――人物の守護。
レア級――地域の守護。
スーパー級――星の守護。
ウルトラ級――銀河系の守護。
レジェンド級――宇宙の守護。
これはアヤカシにも該当し、強さの基準となっている。
そして勿論、階級が変われば給料も変化するので借金のあるアルファにとっては――というか職業としても、かなり重要だ。
因みにヒーローになった時にクロノスからしれっと教えられていたが、講習が面倒臭いと感じたアルファは聞き流していた。アホである。
「俺様は下から2番目のレア級だ」
「じゃあ弱いんだな」
「で、お前はそれより下のノーマル級」
「ってことは強いのか」
見事な手のひら返しだ。
「その頭、切り飛ばそうか? んん?」
「ワハハ」
相変わらずの軽口を叩くアルファ。対して、機嫌を悪くしたように見えたテッペーだが、その実、今のやり取りは冗談と分かっていて接していた。
この2人組、思ったより相性は悪くないようである。
◇
「これは、流石に……」
現場到着。詳細を一言で表すとすればヘアンは壊滅的だった。
というのも、そこら中が灰色の人型生物――アヤカシで埋め尽くされていたからだ。
これではただのアヤカシの巣穴である。
(適当に数えて100はいる……いくらコイツらが雑魚とはいえ流石に手が足りないか?)
あまりの数に尻込みするテッペーだがその束の間、
「変身!」
――横を、白銀の流星が駆けた。
「お先に!」
それは最もアヤカシの集まっているだろう地点へ飛び込んで行き、強烈な衝撃波により大勢の敵を土石と共に高く打ち上げる。
アヤカシに埋め尽くされていたであろう場所が空き、テッペーが見るとそこには銀鎧の戦士が1人。仁王立ちだ。
派手に登場したその者の後ろ姿は、正に英雄そのものであった。そして、その者はテッペーの方へ振り向くと、
「ヘイヘイ! そんなのでアタシについてこれんの?」
挑発した。マスク故に顔は見えないが、声で誰か分かる。
テッペーは認めた。彼女はヒーローだと。
「……無論だ」
テッペーは背負う刀を思わず握るが、その手は震えていた。しかしそこには怒りも恐怖もない。
滾ってしまったのだ。アヤカシの大群に挑むつもりのなかった自分が。
よもや現代にこのような傑物がいたなど一体誰が予想できようか。
気が付けば彼は、湧き上がる力を抑えなければその手の刀を握り潰してしまいそうだった。
――負けられるか。
心はそこへ統一する。自然と落ち着き、それでいて熱く燃えるような感覚が全身を巡った。
「俺も、ヒーローだ!」
掛け声と共に刀を解き放つ。同時にテッペーの姿がブレた。
アルファの届かなかった場所への突進。
ただひたすらに疾いその勢いのままテッペーは、大量のアヤカシへ斬りかかる。
瞬間、奴らの身体は微塵となって消え去った。
極細の斬撃。発揮された超技巧はアルファをも魅了する美しさであった。
「やるじゃん」
相棒の強さを目の当たりにしたアルファは拳を握るや否やそこへ業火を纏った。
アルファの着ている鎧『ウルトアーマー』には様々な機能がある。
「必殺」
鎧全体を構成する特殊化学合金ダイヤニウムによってもたらされた人類最硬の耐久力。
高性能AI『アダム』との遠隔通信でスーツ内の温度調節や酸素供給による健康保護。
外部から来るあらゆる熱、放射線、病原体への遮断性。
緻密に再現された人工筋肉による身体能力の強化――諸々あるが、真骨頂は『熱の操作』であった。
「『ハイパー・ボルケーノ』!!」
灼熱の鉄拳がアヤカシを殴り抜く。
それは触れた先から肉を灼き尽くし骨を炭化させる。
結果、対象は跡形もなく溶け弾けた。
「かーらーのー」
続け様に飛び上がり、脚を振り下ろす。踵落としだ。
狙いはアヤカシの脳天。
「オラァ!!」
凡そ10代の少女とは思えない低い声を発しながら、いとも容易くかち割った。そしてそれだけに留まらずついでに胴体まで裂いてしまう怪力っぷりである。
一方、テッペーの方も勢いは負けていなかった。
「すぅ……」
戦いの最中、途端に立ち止まると深呼吸をした後、彼は言葉で言い表せない独特な体勢のまま静止する。
「『鬼鉄大鋼』」
そう言うと、ただ静かに刀を薙ぎ払った。
その刃から放たれた斬撃の形状はノコギリの如く。それは左右に揺れつつも進み、アヤカシへ到達すると四肢をズタズタに斬り飛ばしてしまう。
「ギャオオオオオオオ!!!」
あまりの痛みに悲鳴をあげるアヤカシだが、テッペーはお構い無しに刀の切っ先を向ける。
「どけ、雑兵」
と、刀身に手を添えた時。
唸るような地鳴りがヘアン全体に発生した。
「!?」
胸騒ぎを感じたテッペーはすぐさまそこを飛び退く。
すると勘が当たったのか、そこへ車ほどの巨大な足が下ろされた。もう少しで危ないところである。
「――親玉の登場というワケか」
テッペーは足の伸びている方を見上げると、先程まで2人が倒していたアヤカシをそのまま巨大にしたような個体が紅い双眸でこちらを見ていた。
人型アヤカシ(ノーマル級):人型。灰色。筋肉質。
主人公達が強過ぎて瞬殺されているが、1体存在するだけでその地区が閉鎖する程の戦力である。
全身から強力な放射線を放っており、普通の人間が生身のまま近付けば数秒以内に即死する。
ハイパー・ボルケーノ:熱を操ることで火炎を纏わせた打撃。パワー特化。
鬼鉄大鋼:独特の体勢から放たれる飛ぶ斬撃。ノコギリ状。




