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第16話「長時間の任務」

「もう帰りたいぃー! 疲れたぁー! 辛いぃー! 死ぬぅー!!」


 捜索開始から数時間、大して景色の変わらぬ沼地を進む現状に悪態をつき続ける少女がいた。


 基本『何事も先ずは面倒臭い』を信条とする彼女にしてはよく持った方だが、そもそも指標も何も無いまま道無き道を歩くのは相当参る話である。


「知らん。とにかく探せ」


 それを一蹴し、目をくれてやる事もなく只管(ひたすら)アヤカシを探し続けるテッペー。


「いや無理あるよコレ。普通に考えて2人で足りるワケ無いでしょ」


ただでさえ探索範囲が広い上、生い茂った枝葉が幾重もあるこの環境では捜しモノなど到底見つからない。


しかし――、


「それでも来ちまったモンはしょうがねぇだろ」


彼らはヒーローだ。与えられた任務にはそれぞれ責任と人々の平和への祈りが込められている。そう易々と放棄出来るモノでは無い。


例え、その過程で死んだとしてもだ。


「あーもう面倒臭い! もう更地にして良い!? 良いな!? 薄暗くて気が病みそうだっての!」


「やめとけ。後で困るのは俺様達だ」


 ここはダイモジ山脈の(ふもと)

 数え切れないほど生えている古代樹の枝が屋根のように重なることによって外からの光が遮られている。悪路、視界不良、圧迫感の三拍子揃ったここは正に最悪の場所であった。


 だがクロノスからは歴史的価値のあるこの森林では破壊行為は()()()()避けるよう通達がある。破れば厳重注意や長期間の謹慎で普通は済むが、経緯が特殊な彼らは最悪の場合“処刑”すら有り得る。


面倒この上ない状況。脱却すら許されないなどアルファにとっては最早拷問そのものだ。


退屈な風景、時間、状態。出来る事など精々周囲の観察くらい――、


「……あれ、なんか思ったより放射線広がってないっぽい?」


 アルファは呟く。放射線がその場に留まっていたのだ。てっきり既に森林全体が汚染されきっていると思っていたが実は違っていたらしい。


 つまり放射線による汚染は現状そこまで深刻ではない――いや今も(なお)自然が失われ続けている以上、重大な問題である事には変わりないのだが――だからこそ破壊行為に制限がかかっている。無事な木がまだ残っているだろうから。


「アヤカシの放射線は本来のモノと違ってその場に残るからな。勝手に広がったりはしない」


「へーアヤカシの放射線も広がると思ってたわー」


「なんだ知らなかったのか」


「まあそんなに細かい事一々気にしてられないしね。

 ってかさ、それなら放射線の濃度が高いところを辿ればアヤカシの正確な位置が分かるじゃん」


 アヤカシの放射線が残留するという事は、つまりそれ自体が動いた痕跡となりうる。普通、人の住める星に高濃度な放射線が放置されている事はありえない。


「確かにそうだが出来るのか?」


「出来るも何もずっと見えてるけど?」


「……は?」


 実はアルファの視界の右端には放射線量を数値化したモノがずっと映っていたのだ。


 言わなかったのでは無い。自身の認識が少しズレていたから気付かなかったのだ。数値が常に高い事が可笑しいという事に。


 これまで手当たり次第に探しているであろうテッペーに着いて行っていたつもりの彼女だったが、その実、謎の第六感を使っていた彼によってアヤカシの方へ歩いていたのである。


 加えてアヤカシの放射線は広がるモノと認識していた彼女は森林全体が汚染されていると勘違いし、濃度が常に高い事に何の疑問も抱かなかった。


 最早、奇跡だ。ここまで気付かなかった事にアルファ自身も驚いている程である。


「よし、そうと分かれば話は早い! さっさと見つけてぶっ飛ばす!!」


「ああ、出来るならそうしてくれ」



 ◇



 急ピッチで進むアヤカシ捜索の途中、当初からアルファの元気な姿に違和感を感じていたテッペーはようやく気付いた。


「ところで、ここに来てから随分経ったと思うがそのスーツの活動時間はどうしたんだ? 新しく改造でもしたのか?」


 特に不自由そうな様子もないので中々疑問に思わなかった彼だが、考えてみればそうだった。

 スーツを着てからもう数時間が過ぎている。だが彼女は“まだ”動けている。ウルトアーマーの活動限界時間は1時間しかないというのに。


「スーツの改造なんかしてないけど」


「は?」


 平然と答えるアルファに理解が追いつかない彼は目が点になった。もし彼女の言うようになっているのならば、前のように地に張り付いているハズだからだ。


「……痩せ我慢というワケでもなさそうだが。察するにエネルギー問題を何とかしたんだな?」


「まあそゆこと」


 ウルトアーマーはその規格外の耐久力を維持する為に莫大なエネルギーを消費し続けている。

 現代の技術でバッテリーを最大限に小さくしてアーマーに埋め込んだとしても、1つにつき精々数秒しか持たないそれをどう改造したというのか。そこが気になった。


「答えはコレだよ」


 するとアルファは腰に付いた赤黒いホルスターを見せる。それはハートレッドから預かった武具の1つだった。


 ――ウルトラ級アヤカシ『雷獣』の素材から作られた“異能付き”の武装『エレキホルスター』。


 秘めた異能は『発電』。常に燃料も無しに電気エネルギーを無限に生み出す夢のような異能だ。


 その出力は、単体で惑星キョート全体のエネルギーを賄う程。元が銀河レベルの化け物だった以上、寧ろこの規模(スケール)は微々たるモノでしかないと言わざるを得ないがまあそれは置いておこう。


「森に降りてすぐに思いついちゃってさ。くっつけたら“活動時間気にしなくて良いんじゃね”って感じで」


 なんと彼女はエレキホルスターとウルトアーマーを結合させ()()()()()()にすることで今回に限り活動時間が()()となったのだ。


「いやぁまさか借りたモノがこうもしっかり機能してくれるとは思わなかったなぁ」


「ああ……ん?」


「なんだ、どうした?」


 テッペーが目をやる先には、幹の太い樹齢1000年はあるだろう木が無惨に折られた姿があった。断面は老木だからか草臥(くたび)れてはいるものの、乾燥などしておらずまだ新しいようである。


「近くにいるぞ」


 新しい、ということは自分達以外の何者かがここに来たという事だ。


 ダイモジ山脈及び周辺は閉鎖中。しかもアルファ達は今初めてここを通った。破壊行為などもしていないのでこの光景はありえない。


(間違いない、これはアヤカシの仕業だ)


「ちょっと上から見てくる!」


「ああ」


 アルファはウルトジェットで飛び上がると上空から周りを見渡した。


 山の頂上から1本、道がこちらへ続いている。木を折り倒して真っ直ぐこちらへ向かってきたのが丸見えだ。だがそれ以外に異常は無い。


 ――強いて言うなら自身の背後に()()()()()()()()くらいだ。


(背後を取ったつもりだろうけど全部視えてるよ。来てもらって助かったぜ、()()()()()()()()()!!)


 彼女が飛んだのには狙いがあった。それは自分達が“見つける”のではなく“見つかる”事。


 会敵からの即戦闘が確定しているなら派手に動けばいい。別に隠れて探す必要は皆無。


 ウルトアーマーを着るアルファにしか出来ない戦術だ。


 この鎧は全方位を高性能カメラで捉えられるようになっている為に死角が存在しない。つまり背後は取られても不意は()ず打たれない。


 気付かれているとも知らずにアルファへ殴り掛かろうとするアヤカシ。そして全て分かっている彼女は片手でそれを弾いた後に振り向いて、


「!?」


「必殺『ハイパー・ボルケーノ』!!」


 強烈な反撃(カウンター)。腹に直撃、低級であれば即死コースだ。


 しかし――、


(かた)っ)


 いつもなら溶かし貫通するハズの拳が止まった。

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