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巫女の異世界転移録  作者: 江蓮 蒼月
第一部 RPG攻略序盤、物語が現実に
20/20

閑話 來亜視点

「消えてくれない?」

 そんなこと、言わなければよかったのに。


 イライラする。理由もなく気が立っていて、周りを見ている暇なんてない。ううん、本当はわかってるんだ。両親の離婚で気が立ってることくらい。祈に当たるのも、その八つ当たりみたいなものだもん。

 近場の公立高校である山奥(さんおう)高等学校に通っている祈よりもいいところに行ってやるんだ。本当は祈と比べる気はなかったけど、歳が近いせいか対抗意識が湧いていた。

 本来の目的は、別れた父親への報復。あんな親、あたしを捨てたやつなんてだいっきらいだ。養育費払わせてやる。学費が高い学校に行って見返してやるんだ。あたしはできる子だって、わからせてやる。あたしのことを「いらない」なんて言ったあいつは、もうATMの役割しか持ってない。最大限に利用してあげるから、感謝しなさいよね。絶対に受かってやるんだから。

 そしてあたしは、今日も机に向かう。


「あの、來亜。続きはご飯食べてからにしてくれない?」

 あーっ、もう! 計算がわからなくなったじゃない!

「今じゃなきゃダメなの? 八時に食べるからそれまで話しかけないで」

「もう八時半だよ……? 集中してたから声かけてなかったけど……」

「はあぁ? どうせ話しかけるなら三十分前にしなさいよ。お風呂にも時間かかるんだから」

 心にもない言葉、心から思っている言葉。どうしてこんなにもイライラするんだろうか。これが思春期ってやつなのだろうか。考えても仕方ないことが頭の中をぐるぐる巡る。それにさえもイライラする。この頭は勉強以外を考える余裕なんてないのよ!

「……わかった。ご飯食べてくる」

 一度脳を休ませないと、できることもできなさそうだったから、祈の言う通りにするのがちょっとだけ癪に障るけど従う。それに実際、勉強するとお腹が空くのだ。時間も忘れるほど勉強していたあたしの身体は栄養を、エネルギーを欲してる。

 階下のリビングに向かう。……冷めた食事。まあ、冷めたご飯はダイエットに効果的らしいしね。麻婆豆腐は温かいほうが美味しそうだけど。レンチンするのも時間の無駄だ。

 食事を終えて、あたしはお風呂に入った。肌のスキンケアを念入りに行うから時間がかかる。本当はさっさと勉強に戻りたいんだけど、スキンケアをサボるわけにもいかないから仕方ない。


 数日後の日曜日。毎週のように神社に行っていた祈が、失踪した。

 昼ご飯が終わってからだったそうだ。見つかっているのは祈のスマホだけ。

「どうしてよ……っ!」

 あたしの所為? あたしの所為……だよね。だって、だって祈は変わってなかったんだもん。あのときのまま、優しい祈だったから、ついつい頼っちゃったんだよ。当たっちゃったんだよ。言い訳だってわかってる。あたし、取り返しのつかないことしちゃったんだ。

 今の祈はお金も持っていないだろう。貯金箱と財布の合計金額は、お小遣い帳ときっかり一円の差もなく一致していたから。それに、残されていたのがスマホだけだから、連絡を取ることもできない。

「あたしが、悪いの……」

「來亜ちゃんは悪くないわ……。そういう年頃だもの。でも、どうして二人とも言ってくれなかったのよ……。迷惑になんてならないのに。私たちが神社の方で生活していたのが問題だったんだから……」

 祈の親は言葉を詰まらせた。何で? あたしのことなんて許せないはずじゃない。どうして悪くないなんて言うの? もっと責めてよ。

 本当はわかってる。責められたほうが楽だから、あたしは責められることを望んでいるのだ。この期に及んで、あたしはまだ逃げたいのだ。楽な方へ流されてしまえたら、どんなに楽だろうかと考えてしまうのだ。

「あたし、祈の従姉妹である資格、ないな」

 血縁関係にあるのに、どうしてあたしはこんなに酷いの? 親は関係ないはずだ。祈もあたしも、親とは長く一緒にいたわけではない。大きく状況が違ったわけでもないのに、あたしだけが捻くれた。

「あたしの、馬鹿……」

 失ってから気づくのは愚。あたしは祈を失って初めて、その喪失感に絶望した。それが自分の所為なのに。あたしには悲しむ資格なんてない。


「來亜、従姉妹のお姉ちゃん、失踪したんでしょ? 大丈夫?」

「大丈夫なわけないじゃない! あんたたちにあたしの気持ちがわかるわけない! ほっといてよ」

 数少ない友人にも辛く当たるようになって、あたしの周りには誰も近寄らなくなった。

 祈を追い詰めたのがあたしの勉強なら、あたしはそれを貫かないといけない。嫌で嫌で仕方なくなった勉強を、精一杯楽しいと思い込んで続けた。

 あたしは希望校を変えた。クズな父親のことなんて、もうどうでもよかった。報復なんてどうでもいい。祈と同じ山奥高校に行って、彼女が残していった制服に袖を通すことが目標だ。この頃には反抗する気はもう起きなかった。反抗期が終わったのだと感じた。イライラする頻度はみるみるうちに減っていって、やがて精神状態が安定した。そうは言っても、祈の失踪のことで不安定な部分はあった。でも、表面上は取り繕えるようになった。ショックを受けているのは伯母さん夫婦。あたしは__。


 ……あたしは、祈みたいになりたかった。今思ってみれば、たったそれだけのことだったのだ。意味のない競争心と、歪んだ嫉妬があたし自身を狂わせた。自分で言うのも何だけど、ひどい反抗期だ。

 祈はあたしとたったの一つしか変わらない歳で、あたしの全てを受け入れようとしてくれていた。受け止めようとしてくれていた。祈はあたしのために頑張ってくれていた。それを、あたしは拒否したのだ。あたしが拒否したのだ。彼女の頑張りを踏みにじった。そして、それに気がつくのが遅すぎた。

「あたしは、最低だ」


 あれから、数ヶ月。あの日__祈が失踪した日以来、あたしは笑うことも泣くこともなかった。

 アンドロイドのように淡々として、当然のように受験は合格した。山奥高等学校の主席として、あたしはみんなに羨まれた。中学時代になくした友達がまたできて、あたしは友人に囲まれて学校生活を送っていた。表面上のあたしは、楽しそうに笑っていた。

 でも、自分はごまかせない。同時に、あたしは自分がわからなかった。貼り付けた笑顔の裏の顔は今、どんな表情を浮かべているんだろう? 偽りの己を、あたしはただ生きていくしかなかった。

 あぁ……二人とも辛かったんだね……。

 と、言いつつ、私に思春期らしい思春期はありませんでした! 完全に想像なので、來亜が暴走気味かもしれないですね。


 今回は元の世界に残された來亜の視点です。祈を傷つけた言葉は、本当は本心ではありません。

 そして、祈がいなくなって初めて、彼女は祈の苦労を知ります。正直、書くのも辛かったです。スムーズに進んだのも事実ですが。強い感情があると書きやすいですね。というか、私自身が書きながら辛すぎて暗すぎて病むかと思いましたよ……。


 さて、これで第一部は完全完結を迎えました。次回からは第二部です。物語が本格的に動き出します!


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