閑話 ヴァルハザク視点
三人の協力者が空に駆け出す。それを見届けてから、私は我軍を振り返った。技術を駆使して作られた、精鋭部隊しか身につけることの許されない堅く、軽い鋼の鎧を纏った騎士たち。国を守る使命で彼らの闘気は高まっている。
かくいう私も重大な戦いに対する一種の興奮状態に入っている。武者震いが止まらない。なんといっても、今回の相手は有識魔だ。私たちが相手するのは有識魔の中でも比較的格下である異形型だが、四体を相手取るのは緊張感がすごい。気が張り詰めてピリピリする。
『ヴァルハザク、聞こえるか?』
「はい、聞こえています」
『頭を見つけた。交戦を開始する。指揮官が指示を出せない状態になれば厄介なのは数だけだ。有識魔はあとにしろ、先にゴブリンを潰せ』
「わかりました、進軍を開始します」
進軍という単語を聞いていたのだろう、空気がピンと張り詰めている。この空気が心地いい。
「全軍、進撃開始! 目標はまず、ゴブリンの殲滅。次に有識魔の異形型だ!」
「おおぉぉぉっ!」
ワディ高原に向けて、進軍を開始した我らの足音が響く。
「蛋白石殿、そちらの様子は?」
『っ、問題ない! レサルに加護を依頼した。逆シェルターを張らせているから結界内の敵は外に出られない。っ、は……全滅させるまでは危険と隣り合わせだと意識しておけ』
……戦闘中だったか。しかも、近接戦だろう。会話の合間に剣の音がキンキンと響いていた。蛋白石の地位を得た青年はたしか独自に編み出した魔法、乱魔吸収でのしあがった実力者だ。彼は魔法使いであり、近接戦は苦手としているはずだった。なぜ剣を交えた戦いをしている?
それでも、こちらから連絡を入れた以上要件は伝えておかねばならないだろう。
「ゴブリンをあらかた討伐しました。こちらでも有識魔との戦いを開始します」
『了解した。……いいから、テーサ__』
向こうでも何かの会話がされていたのだろう、テーサ殿の名を呼びながら通信が切れた。
まいったな、まだ言いたいこと……というか、伝えるべき情報があるのだが。遠くに見える影がブンと何かを振り回す。わずかに残っているゴブリンより頭一つ抜き出た大きさからして、あれが有識魔。我々の担当していない人型だろう。魔力通信を始める少し前からかけられた、身体を覆う青と金の護りを信頼してもう少し近づいてみることにした。
しっかりと認識できる距離。ただし、相手からは認識できない絶妙な距離だ。有識魔とはいえ、元はただのゴブリンだから、相手の目は悪い。ゴブリンはかなりの弱小モンスターだ。目も悪いし知能も低い。一般人でも退治できる程度なのだ、今回のように集団で攻めてきた場合は除くが。
なるほど、人型は剣士か。これは要連絡だな。剣士は魔法を使う人型よりも厄介なことが多いのだから。
「蛋白石殿、こちらで人型を認識しました。剣士タイプのようです」
『わかった。こっちは__』
『神速一魂、雷々斬!』
通信している青年の声が途切れ、代わりにテーサ殿の声が小さく聞こえた。近くで技を放ったのをペンダントが拾ったのだろう。ペンダントに魔力を流している間は周りの音も含めて聞こえるのだ。
『……っと、今終わった。そっちに向かう』
「わかりました」
「ヴァルハザク軍団長、ご報告申し上げます! 異形型有識魔を一体討伐完了! 残りは三体です」
通話が終わるのを待っていた部下がそう言った。なんだ、もう一体倒したのか。私の活躍する場面がなかったではないか。まあ、それは今から取り戻すとして。
「そうか、被害は」
「護りのおかげで被害はありません」
「そうか、レサルという少女に感謝せねばな。正直、一体あたり十人以上の死者を想定していたのだが、いい意味で裏切られた」
本当にすごい護りだ。普通、プロテクトは身体を青い光が覆うものだが、この加護は何故か金色の光が混じっているのだ。神々しい、とでもいうのだろうか。
「彼女は選ばれた者なのかもしれないな」
ボソリと呟いた声は誰にも届かず、戦の騒々しさにかき消えた。
ザシュッと肉が裂ける音。返り血が自慢の鎧を染める。異形型の足を、胴体から切り離したのだ。こいつ一体ならば私一人で対処できそうだな。部下たちとのチームワークで片足__前足の片方を落としたのは大きい。こいつは異形型の中でも四足系統と呼ばれる部類で、獣のような姿だ。つまり、足が一本ないこいつはもう恐れることなど何もない。
「こいつは私に任せろ! お前たちはあとの二体を頼む」
「了解しました!」
残りの有識魔と戦う二班のもとに駆けていく部下たち。その背を見送ることなく、私は対象個体と向き合う。
構えた剣がジャキ、と鳴った。
踏み込んだ足がガコンっと地面に沈む。
そのまま低姿勢で突っ込んでいって、斬る。残っていた前足まで切断されたことで、有識魔は頭を地面につけた。
「フリーズ」
獣系統の有識魔は再生する場合がある。魔法ではなく、回復力に優れているのだ。眠ることで回復する我々人間を超越している。それを防ぐために、両前足の傷口を凍らせた。これで回復はできまい。
私は剣を得意とする戦士だが、低級の水と氷の魔法は使えるのだ。わずかながらも魔法の心得があることで、私は名誉ある帝国軍精鋭部隊、帝国軍総合部隊を束ねる軍団長になることができたのだった。
私はもう一度有識魔と向かい合い、重い剣を素速く波線状に振り抜いた。私のために特別に作らせたこの剣は、支給されるそれより重みがあって、斬り裂く他に叩き斬る使い方もある。これを扱えるのは私だけだ。
有識魔は両後ろ足と心臓、首を斬り裂かれて肉塊と化した。
「ヴァルハザク軍団長、こちら二体分の討伐が完了いたしました」
「私も今終わらせたところだ。これで四体全部だな?」
「はい、間違いございません。我々の役目はここで終了となります」
「あとは人型が一体のようだな。我々が彼らの邪魔になるかもしれないから、さっさと撤退するぞ」
「はっ!」
部下たちが撤退していく間に、私は蛋白石殿にその旨を伝える。
「こちらで担当させていただいた討伐対象、異形型四体の討伐を終えました。既に撤退を開始していますので、我らのことはお気になさらず。ゴブリンはあらかた倒したとはいえ全てを倒したわけではないので、選抜した者だけは残しています。残党狩りの際は彼らを援軍としてお使い下さい。私は一足先に城に戻り、王への報告を行いますので」
『了解した』
ネックレスでの連絡を終えて、私は城へと足を向ける。戦いは終わったのだ。
今回はヴァルハザク視点です。レサル視点では書かれていない、フォゼとの会話を載せてみました。フォゼの視点で書いているわけではないのに彼の忙しさが垣間見えますね。フォゼの視点で書いていないのは、以前書いた事があるから……ではなく、帝国軍側の戦いも書きたかったからです。
次回の閑話後に第二部に入ります。
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