脅威の人型戦士
ゴブリン__ひょろりとした手足とギョロ目、緑色の肌が特徴の小柄な魔物の中に、一際目立つ異質な存在があった。間違いない。あれが人型戦士だ。
周りのゴブリンがわたしの胸くらい……まあ、下駄で盛ってるから実質肩くらいの身長なのに対して、人型戦士はそれより頭一つ分高い。つまりはわたしと同じくらいの身長ってことになる。それと、肌が緑じゃない。人型というだけあって、人間のような薄橙色の肌。
何より特徴的かつ厄介なのはその装備だった。全身が鎧で覆われていて、太く鋭い刃の剣がぶんと振り回される。
「パワー系か……。鎧を砕かないとダメージを与えられないな」
「しかもあれ、魔石を加工したやつだな。魔法で砕くのは難しそうか?」
「ああ。お前の剣で叩き割るしかないだろ」
テーサの姿が消えたかと思ったら、翼を広げて上空に立っていた。そのまま垂直に剣を立てて重力を利用して落ちてくる。ガッと大きく音が鳴ったけど、鎧は原型を留めたままだった。そればかりか、傷の一つもついていない。
「かってえぇぇぇ! 腕痺れた……」
逆に、よくそれだけで済んだね? 竜だからなのかな?
「ふーん、テーサのバカ力を持ってしても破壊できないのか」
やっぱりバカ力なのね。
「こんなのどうやって破壊する?」
物理攻撃も通用せず、魔法攻撃は以ての外。でも、その厄介な防具を破壊しない限り本体にダメージを与えられない。
「避けろ!」
テーサの声でわたしたちは同時に飛び退る。その直後、わたしたちがいた場所を剣がぶんと通った。
当たり前だけど、相手も動く。鎧の破壊すら出来ないわたしたちは攻撃ばかりを考えすぎていたのだ。焦りは視野を狭くする。現に、今の攻撃を食らいかけた。
「レサル、プロテクトだ!」
「わかった、プロテクトっ!」
わたしはわたしの出来ることをしなきゃ。足を引っ張ってるばかりじゃダメだ。もう何度も助けてもらってる。
「聖なる束縛!」
しゅる、と光でできた鎖が現れ、人型戦士をギチギチと締め付ける。鎧がミシミシと音を立てた。
「壊れてっ!」
だけど、光の鎖はそこで突然かき消えてしまった。
「何で……っ」
「言っただろ、魔力は吸われる」
ああ、そうか。さっきの鎖ってわたしの魔力でできてたんだ。
「それだ!」
テーサが叫ぶ。こんな状況だというのに、その声は明るい。まさか__。
「何か策が見つかったのか?」
「魔力だ。魔石の容量を超えれば鎧が砕け散るはず!」
「そうか、失念してたな。物理的に壊す必要はないのか」
「えっと、つまり、魔力を叩きつければいいの?」
「そういうことだ」
いやはや、びっくりだね。まさか、そんな簡単なことだったとは。
「でも、叩き割るよりは楽とはいえ、簡単ではないぞ?」
わたしの心を見透かしたようにフォゼが言う。
「あの大剣に当てたら、相手の攻撃威力が増すからな」
「鎧だけに叩き込まないとなんだよな」
げ、たしかに難しそう……。
「まあ聞け、作戦は立てた」
「早いな」
「レサル、さっきの鎖で動きを封じてくれ。それから鎖が消えるまでに俺とテーサで集中攻撃を仕掛ける」
「え、俺も?」
「当たり前だろ。さすがに一人で負担するにはきつすぎる」
「準備はいい?」
二人が頷くのを確認して、わたしは魔力を鎖に変える。
「聖なる束縛っ!」
鎧がミシミシと音をたてる。そこまではさっきと同じ。違うのは__。
「魔力弾!」
フォゼとテーサの二つの魔力が混じり合い、魔石の鎧に直撃する。
ピシッと僅かに亀裂が入ったのが見えた。……この作戦、結構いいかもしれない。
もう一度同じことを繰り返すと、亀裂が入ったところからピシピシとそれが広がって、ついに鎧が砕けた。
「やった!」
「本番はここからだけどな」
そう、まだ鎧を壊しただけだ。むしろ身軽になった人型戦士はその凶暴さを増している。フォゼの言う通り、戦いはこれからだ。
刃がヒュンヒュンと空を斬る。フォゼの唱えた呪文が剣に当たって火花が散った。テーサは剣に雷を纏わせて斬りかかる。辺りが一瞬真っ白に染まる。
「小器用なやつめ……っ!」
テーサの剣は避けられた。それだけではなく、フォゼの魔法が当たるように計算されていたのだ。剣に当たれば白い煙が目の前を覆い尽くす。いわば、煙幕というやつだ。
その魔法が弾ける前に、フォゼの乱魔吸収がそれを飲み込んだ。
「厄介な……」
乱魔吸収は消耗が激しいらしく、また、飲み込んだ魔力量によっては跳ね返りのダメージが大きくなる。ゆえに、何度もこの手にかかってしまうとこちらは不利だ。ただでさえ手負いなのだから。
すぐに勝負をつけないと、負ける__。クラーケンとの戦いが頭をよぎった。圧倒的な力の差。
待って、わたし、こっちに来てすぐに窮地に陥ったことがあった! 封印モノだと思ってたけど、あの時よりもずっと上手く魔力を扱える今ならできるかもしれない。
「二人とも、聞いて! 人型戦士の倒し方を思いついたの。体力を五割削って! その後はわたしがどうにかするから」
「五割……それならどうにかなると思う。レサル、俺はともかく、フォゼはそろそろ限界だ。魔力には余裕があるけど、血を流しすぎてる。絶対に成功させろよ!」
「そろそろ限界? ちょっと貧血気味なだけだ。戦闘の続行に問題はない。向こうの有識魔はすべて討伐済みらしい。大規模な攻撃をするのなら、援軍が巻き込まれないうちに行う必要がある。急ぐぞ、テーサ」
「ああ。五割ならゴリ押しで勝てるよな?」
「当然!」
二人はわたしを信じてくれた。後はわたしが最終奥義、冥土之扉を完全制御できればいいだけだ。
……っていうか、その前に、帝国軍もう終わってるの!? あとはここだけってこと? 仕事はっや……。
「水流操作」
初めて会ったときにも使っていた氷の槍を出現させて飛ばす魔法、イエロランスに水を纏わせて四方八方から突き刺す。鎧は砕いたはずなのに、その肌はそれを通さない。防御力が高すぎるのだ。だけど、二人が狙っていたのは人型戦士を濡らすことだったようだ。
雷が青白い光を発してテーサの剣から放たれる。感電したことで体内にダメージが入ったのか、人型戦士はそこで初めて動きを止めた。わたしの出番だ。
「暗黒の闇よ、地獄の扉を開きなさい! 冥土之扉!」
深淵の渦が、ワイバーンのときのように人型戦士を吸い込んでいく。制御を覚えたからか、周りへの被害はほぼゼロだ。抵抗できない程度に弱らせないと使えないけど、中々に強力な反則技だよね、これは。さすが最終奥義ってだけあるよ。
かくして、ゴブリンと帝国軍との戦いは終わったのだった。
ランウェール防衛戦のときとは違って茶番なしのバトルでした! 前回よりも少しだけ長かったんじゃないかな?
とりあえず、第一部はこれにて完結です。次回からは激動の第二部へと突入します。作者も一番力を入れたいと考えているところです! まあ、その前に二回ほど閑話を入れるので、二部に入るのはその後ですかね。少々お待ち下さい!
応援よろしくお願いします!




